↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/91

動き出す世界【9】破壊への序曲

《崩壊への序曲》


 蒼き炎を纏いし者が、天より降りて地に足をおろした。長く紅色の髪をゆらゆら揺らしながら、確かな足どりでゆっくりと歩き出す。


「ここが終点ではなさそうだ」


 2700㍍に及ぶ長い縦穴を降りた先には、広く大きな空間があった。その空洞の中心には、直径12㌔に及ぶ丸く黒々とした球体が浮かんでいる。その表面には赤く光る線が幾重にも重なり幾何学的模様を成し、全体が何かしらの呪物(まじないもの)である様相をみせていた。


 その球体の表面に降り立ったその者は、周囲を見渡しながら呟くと、歩みを止め手を水平につき出しながら目を閉じた。


「なるほど・・・・そこか?」


 つき出した手を左回りに30度ほど移動させ、開いた手のひらをグッと握りしめた。すると、どうだろ? 周りから悲鳴があがり、蒼き炎に身を焼かれながら蠢く半透明の者達の姿が数十体ほど浮かび上がった。それらは10秒ほどで燃え尽きてしまうと、集まっていた場所には丸いハッチが現れていた。


「まるで子供騙しだな。守護精霊どもに守らせていたか」


 ハッチに近付いたその者は「オリハルコンか?」と言いながら拳を握り、ドンと薄い氷を割るようにハッチを叩いた。拳が当たった場所から赤い光の輪が広がると、扉は発光しながらドロリと溶けて内側に沈み込んで行く。そして、ドン!と弾けるように四散した向こう側には、更に深い縦穴がずっと続いているようだった。


「今度は随分と長いな」


 穴に飛び込んでから15分は降りたろうか?

途中に何度も術による障壁が設けてあったが、そんなモノは全く足留めにもならず、その者の腕ひと振りで容易く打ち消されてしまった。


「早く戻らねばならん・・・今はいつだ?」


 朧気なる地表は、気を抜けば足場としている場所が無くなってしまいそうな危うさがある。これはたぶん物質ではない。力場のようなエネルギーが大地のようなものを形造っているだけだ。ここには、本当なら何も無い空間なのだろうと思われた。


「これが核か?」


 目の前に巨大な水晶の柱があり、その中に七色に変色しながらクルクルと動いている球体があった。その大きさは人が手を広げた程度で、直径180㌢に届くか届かないかといった感じだ。


 柱の根元は違う次元へと繋がっているのか途中からはっきりとは見えず、上を見上げてももどこまで伸びているか分からない。柱の太さは直径で7㍍程。そのクルクル回る球体の近くまで続く階段があり、階段なども全て水晶で出来ているようだった。その階段に足を掛けると、背後で呼び止める声がする。


「待て。その先へ行ってはならん」


 振り向いた先に、剣を手にした男がひとり立っていた。


「まさか、あんたが!? ・・・いや、あり得ない。これは幻術だ」


 剣を持つ男の顔は怒りに歪み、頬を涙に濡らしながらその者を睨み付けていた。天に稲妻が走り、唐突に風が唸り、大地が震えて世界の全てが怒り一色に染まりながら殺意を向けて来る。


―――嫌なものを見せやがる・・・


 景色が変わり、そこは荒れ狂う大海を背にした崖の上だった。目の前にいるのは、あの時の父だ。母を死なせた事を責め、俺を殺す為にここに呼んだ。


 ああ、分かっている。分かっているとも・・・


 何をしても俺の罪は消えはしない。

この先何があろうと、親殺しの罪が消える事はないのだ。


 だから俺は、敢えてあんたに殺された。

泣きながら剣を振るい、五体を刻み、それでも怒りを鎮められずに何度も剣を打ち降ろした。


 バラバラにされながら、俺が何を考えていたか分かるかい? あんたには分からないだろうな・・・ あの時のあんたは、怒りで我を忘れていた。そして最後に言った言葉は、俺に真の絶望を与えた。


「お前を永遠に封じる」


 この言葉が意味するモノを俺はすぐに理解した。

そうだ。死の安息すら与えてはやらぬとあんたは言ったんだ。


 永遠に苦しめとあんたは言った。

だから呪った。あんたに愛された者にも同じ絶望を与えてやると、俺は世界の全てに炎の呪いを掛けた。絶対に避けられぬ終焉の炎を世界に放った。お節介な叔父貴の言った通りになった事に内心おもしろくなかったが、その時の俺にはそのような事を考える余裕はなかった。ただ、絶望と苦しみが俺をも支配していた。


 父は、俺が絶対に復活できぬようにバラバラにしたあと、体ひとつひとつを違う神に作り替えた。そして最後に残った首に剣を突き立てながら「封じる」と言った。そこから俺の時間は止まっている。消滅せずに魂が残っていたとは奇跡としか言いようがないが、たぶん叔父貴が何かしたのだろうと想像している。



 一番嫌なシーンを再現しやがって・・・

誰か知らないが、この代償は高く着くぞ!

この感じは覚えた。この匂いも忘れねぇ!

絶対に見つけ出し、落とし前は着けさせて貰う!


 その者は天に向って吠えた。

その怒りに満ちた雄叫びは、父親の幻影を吹き飛ばし、アビス核に取り返しのつかぬダメージを深く刻み付けた。バリンと割れた水晶の柱から転がり落ちた七色の核を手に取り、小さく縮めてポイと口に放り込む。



 俺はまだ復活できる程に成長していない。

体質も随分と変わっちまったようだ。この感じは人間? いや、まさかな・・・俺に干渉できる人間が存在するはずがない。たぶん、気のせいだ・・・



 暫く立ち止まり、胃の部分を押さえて考えて込んでいたその者は、(おもむろ)に「火梦羅ホムラ」と叫んだ。その声に呼応して目の前の空間が揺らぎ、巨大な筋肉質の男が現れる。


「来たか。突然に呼んで悪かったな」


「まさか!?――――おおぉ!本当に!本当に!」


「お前の声は相変わらずウルサイ。少しトーンを落とせ」


「その口調、その雰囲気、まさに!まさに~」


「だからうるさいって!」


 うおおおっと大声を上げて男泣きする鬱陶しい男に人選(神選)を誤ったかと思いつつ、その者は言葉を続けた。


「お前を呼んだのは他でもない。俺はこの世界の核を食っちまった。このままだとこの地は崩壊して消える」


「それが何か問題なので?」


「食ってから分かったんだが、この世界はどうやら人(神)工的なもんらしい。それに技術的には我々の神界よりも優れた神が創った物らしくてな、復活のエネルギーに使おうと思ったんだが、上手く消化できないんだ」


「大丈夫ですか? そんな訳の分からない物を食べて、お腹壊したりしやせんか?」


「それは大丈夫だが、お前はここに来て何か感じないか?」


「何かと言われましても、質問の意味が良く分かりやせんが?」


「やはり神選を間違えたな。帰れと言いたいところだが、お前は来た道を辿れるか?」


「そんなこと言わねぇで下さい! 若にせっかく会えたのに、役に立たないなんて言われたら死んでも死にきれませんぜ。お役に立てるまでは帰るわけにはいきません!」


「いや、そうじゃなくて、帰り道が解るかと聞いてるんだ」


「子どもの使いじゃないんですよ? 帰り道くらい分かります。来た道を戻るだけ・・・あれ?あれれれれ?」


「分からないんだな?」


「すいません若。お迎えにあがりましたのに迷いました。帰る方向が全く見えません」


「別に責めてるつもりはない。帰れない事が確認したかったんだ」


 ウム。と少し考えて言葉を続ける。


「理由は分からんが、俺はこの女の腹に転生したようだ。今はまだ形すらない卵に毛の生えたくらいの状態だ。すぐ神界に戻れたなら良かったんだが、どうやらここはそんな単純なモノでもないらしい。暫くはこの女の腹の中で成長を待つ。産まれる頃には飲み下した核の仕組みを解析し、神界に戻る事も可能になっていることだろう」


「おお! それは素晴らしい!」


「ば、バカ野郎!抱きつくんじゃない! 壊れる。このボディーはメチャクチャにか弱いんだ。俺を産む為の体でもあるんだから丁寧に扱え!」


「―――すいやせん」


 大男が女の前でしょんぼりするする姿は中々にシュールだった。


「お前と話してると話が進まん。

俺がお前を呼んだ理由は、だ。 お前に核の代わりをして欲しいんだ。お前は飛び抜けてタフだから、大丈夫だろうと思って呼んだ」


「へい。丈夫さなら誰にも負けやせん!」


「お前が適任だ。動けなくて退屈だろうが、暫く我慢してくれ」


「大丈夫でさぁ! 妄想に夢を膨らませていれば時間なんて気になりやせん。あっしの得意技です!」


「そ、そうか・・・それは良かったな」


「で、あっしは具体的に何をすればいいんですかい?」


 こいつ、なんか気持ち悪いなぁと思いつつ、若と呼ばれた者は水晶の柱があった辺りを指差した。


「あの破片が散乱してる場所があるだろ? あの下には柱が続いていて上にも柱がある。間に立って、上下の柱を支えるイメージを作れ」


「こ、こうですかね?」


 大男は砕け散った柱の間に入り、手を上に挙げて大地を支えるポーズをとった。イメージだけで良かったんだがと思いつつも、余分な事を言うとややこしい事になりそうだったので、「そんな感じでいいぞ」と言って話を終らせた。


「後はこれをくわえていろ。中身はカラッポだが、核だったモノだ。かなり特殊な素材で出来ていて解析できんが毒ではない。何かの役に立つかも知れんからな」


 そう言って、口から吐き出した丸い塊をポイと投げた。


 手で受けとると思ったのに、両の手を上に挙げたままの大男はそれを器用に口でパクンチョと受けとると、「ウオォォ!若と間接キッスじゃあ!」と叫びクネクネしながら猛烈に悶え出した。


 若と呼ばれた者は鳥肌が立ち、ブルブルと震えたあと「んじゃ、後はヨロシク!」と、片手をスチャっと立てて早々にこの場を立ち去った。


 しばらく悶えていた大男は、正気に戻り周りを見渡すと若が居ない事に気付くが、再び妄想に入った彼には現実などどうでもよかった。


「ウオォォ!若と間接キッスじゃあ!」


 一定時間を起き、彼の叫び声がこだまする。聞く者など誰ひとりいないこの空間で、その行為は、アビス崩壊の時が来るまで永遠に繰り返されるのだった。





************************************************

序曲を挟みました。

本編の続きは今回より


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。