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召喚の儀式【1】はじまりの祝詞

挿絵(By みてみん)


イラスト:大魔王ゾーダ

****************************************




 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!

 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!


 我が神にして全能たる魔神ヨゴルゲスよ!

その偉大なる力をもて、混沌なる漆黒の魂『闇のアダム』をここに導きたまえ!


「「「「 導きたまえ~」」」」


 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!

 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!


 継承の時は来た!

 東醒のスーラ、西醒のルヴェル、南醒のアブレス、北醒のダラハム、方醒を守護せし理の鍵を持て、蒼き星の扉を開くのだ~!!


「「「「 開くのだ~」」」」


 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!

 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!


 雲ひとつない突き抜けるような星空の下、隣り合う巨大な二つの月が闇を赤く照し出す。ベラチョンパと冗談のような緊張感のない祝詞(のりと)が響く、人の身では決して寄りつけぬ秘境の中の秘境、禁忌の地『ノースラフ』に、10日前に突如と現れた巨大な石の建造物があった。


 ひとつが10㌧は軽く超えるであろう立方体の巨石が規則正しく積まられ、正確な四角錐をかたちづくっていた。八十四段のピラミッド状の巨石建造物の頂上は水平になっており、高さが地上57㍍、頂上の広さは600㎡の巨大な石舞台となっていた。


 頂きの中央には石造りの台が置かれ、上に黒一色の薄衣を申しわけ程度に羽織った黒髪の少女が横たわっていた。いかにも生け贄だという感じの少女を中心に、円と三角形を組合せた幾何学模様の円陣が幾重にも描かれ、直径10㍍ほどの複雑な魔法陣を作り出していた。その円の周りを、人為らざる異形の者達が呪文を繰り返し唱えながらゆらゆらと歩いている。


 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!

 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!


 時おりГア、ソーレ!ハイ、ハイ!」と先頭の者から相の手が入り、その度に後ろの12名が頭上でパチンパチンと柏手を二回打つ。


 それぞれがブカブカのローブを纏い、頭から深々とフードを被っているので、その容姿を正確に知る事は困難だった。しかし、彼等が普通の人間でない事は明らかだ。 


ある者は禍々しく捻れた二本の大きな角を持ち、またある者は猛禽類の嘴と翼を持つ鳥類を思わせた。まだら模様の尾と大きな爪と牙を持つモノや、3㍍を超える巨躯に、捻れた長い角を持つモノまでいた。かと思えば、身長60㌢に満たない赤子のような体の小さきモノも混じっている。


 そのような異形の姿をした者達が13名。歩き方からしても、同じ骨格の同じ種族が一人もいない事が解る。


 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ! 

 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!


 もうかれこれ1時間以上もその行為は続けられていた。異形の者達にも流石に疲れが見え始めるが、疲れの原因は体力の低下などではない。そもそもこの程度で疲労を感じるような半端者はこの場に近付くことさえ出来ぬのだ。


 石床に刻まれた多重復層式魔法陣は、その役目を果す為に現在フル稼働中だった。故に大量のエネルギーを必要としており、近寄るもの全てから無差別に『存在力(プラクリティ)』を奪う。


 存在力(プラクリティとは、この世界のほとんどの生命体が持つ魂と肉体を繋ぎとめる為の根元たる力の呼び方で、存在力の大量消費は生命力を急速に低下させ、枯渇すれば当然のごとく死に至る。


 もし仮に一般兵士レベルの者がこの場に居たとしたなら、全ての存在力を瞬く間に搾り取られ、5秒ともたず干からび塵となって消えるだろう。


 そのような状況下で、1時間以上に渡り魔法陣に存在力(プラクリテ)を供給し続け、ましてや少し疲れた程度で儀式を継続できるこの集団はあらゆる意味で異常であり、この世界において誰もが知る恐怖の対象であった。


 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!

 ベラベラチョンパ、ベラチョンパ!


 儀式は尚も続く。

 しかし、時空を超えて異世界から超常なる存在を引き寄せる奇跡の召喚術は、大量のエネルギーを吸収しながらもいっこうに発動する気配を見せなかった。




「ちょっと!まだ発動できないの?」


 異形の者達も流石にコレっておかしくね?という雰囲気を漂わせ出した頃、明らかに怒気を含んだ声が祝詞(のりと)を遮った。


「わたし、もう我慢できないんだけどぉ」


 声の主は、陣の中心に置かれた石の台に横たわる少女だった。頬をぷくっと脹らませ、プンプンと効果音を口にしながら上半身を起こしてキッと内の一体を睨みつけた。


 彼女の視線の先には、先程から先頭で音頭をとり、呪文と並行して祝詞を唱えていたモノがいる。輝く漆黒のローブの下に、金糸の装飾が施された高価そうなを衣装を纏い、限られた者だけが持つ支配的覇気を漂わせていた。


 色とりどりの宝石が組み込まれた金属製の板をいくつも繋げた首飾りを3重に掛け、腕には呪術的意味相いがありそうな幾何学文字が刻み込まれた金の腕輪をしている。異形の集団においては人類に近い骨格をしてはいるが、もちろん人間ではない。


 というより、そもそも生命体であるのかも疑問だった。彼には筋肉も内臓もなく、眼球すらないのだ。要するにガイコツなのだが、その骨は黄金に光り輝いていた。その黄金ガイコツは少女からの怒気を浴びると明らかに動揺し、それを隠そうともせずあたふたと喋り出した。


「う、うん。そうだよね?確かに時間が掛かりすぎだと誰だって思うよね?」


 喋り出した姿には、先程まで感じられた威厳も覇気も無かった。何か弱見でも握られているのか、少女に対して卑屈にも見える歪んだ態度を感じさせた。しかし誰もその事には触れようともせず、不思議に思ってもいないようだった。


「おっかしいなぁ~。

いつもはこんなに時間は掛からないんだけど・・・

10年ぶりだからかなぁ?」


 腕組をした片方の手を額にあて、指の隙間から少女の様子を伺いながら言葉を続けた。


「ハハハ、ほんとマジ困っちゃうよねぇ。召喚陣も大型連休明けで調子乗らないのかも?」などと軽口で少女の怒りをかわそうとするが、目論みはかえって反感を色濃くしただけで、立場は急降下真っ最中だった。


 先程までプンプンと効果音を口にしていた可愛らしい唇は怒りを噛み殺そうとでもしているかのように真一文字に結ばれ、視線を落とし、拳を握りしめた手は小刻みに震えていた。


―――これはマジでヤバイかも!?


 かつて、少女の怒りを受け負傷した古傷がチクチクと痛み出す。今までなら、特殊な薬を使用して意識を混濁させてから行う儀式を、今回は彼女の希望もあって使用していない。儀式の最中に暴走でもされたら何が起きるか分からないから、普通は絶対に許可出来ない申込みであったが、彼女だけは特別だった。


 ある日を境に急速に強くなった彼女は、今や魔法戦において比類無き無双の存在となっていた。ここに集いし超常の者たち全てを相手に戦ったとしても彼女には勝てないだろう。それが分かっているから尚さら怖かった。死を前にして何処まで正気を保てるかは誰にも分からないのだから。



「あ!もしかしたら魔法陣に埃が詰まってるとかで、作動不良を起こしたりして!」


 チラリ


 13体のうち最も背の低い、身の丈からしたら人間の5歳児程度しかない影に視線が集まった。


Гな、な、な、なにを言われるか!まさか、我輩のせいにされるおつもりなのですか!?」


 視線を集めた小さき影は、ぴょんぴょんと跳ね飛びながら甲高い声で抗議をはじめた。


「動員した部下は述べ6784名。起動確認のために存在力を提供して犠牲になった一族の猛者は666名!実験では問題なく臨界域まで達していましたぞ!代々異世界召喚陣を管理する栄誉を与えられし()の一族の長と致しまして、今回のお役目、ただのひとつも不備は無いと断言します!」


 弁明を終えると、その場で片膝をつき頭を下げた。

少女の声で祝詞は中断されたが、止まった位置からは誰も動いてはいない。立ったまま、あるいは腰を下ろし、ある者は感心を持って、ある者は無関心にこの状況を眺めていた。


ーーー召喚陣は完璧だっチュ!

問題があるとしたら呪文としか考えられない。毎度毎度緊張感の欠片もない呪文だが、今回のは少し・・・いや、これは?やはり大魔王様は、心の底では望んでおられいないのだ。その気持ちも分からないではないが、それでは困る。もう後戻りは出来ないと分かっているだろうに・・・


 唇を動かしはしたが、声には出していなかった。


「聞こえておるぞ。魔王チュロスよ」


「――――チュ!?」


「まさか、余の呪文に問題があるというのか?」


 少女に向けた怯えの色もどこ吹風、そこには圧倒的パワーが支配する虚無の空間が突如として広がっていた。触れる者を一瞬で消し去る膨大な力が吹き出し、辺りの空間を瞬く間に侵食してゆく。大気がビリビリと痛みを伴って震え、気温が急速に低下して視界が不規則に揺れはじめた・・・


「おお・・・大王さま!?」


 本能的に死を覚悟するチョロス。

絶対的支配者の怒りを買ってしまったのだ。これ程の殺意を、ためらわずに家臣に向ける姿をチョロスを含めここにいる全員が久しぶりに見た。


 魔法の知識においては魔王12柱中随一、行使においても大魔王は別として他の者に劣るところ無しと自負するチュロスであったが、どんな防御魔法を用いても一瞬で消し飛ばしてしまえるこの圧倒的エネルギー量を見れば、自分の死など容易に図り知る事が出来た。


「こりゃ、死んだな!」

「チョロスちゃん、耐えれるかな?」

「無理だろ?」

「あの~、アチシは逃げても良いデスかね?」

「ふわぁ、眠い・・・・zzz 」

「ボキ、腹減ったンだナぁ〜」

「コレ、マジやばくね?」

「へっくしょん!むちゃ寒いんですけど~!」

「あ~あ、やってもうたな~。ほんま久しぶりの大激怒ってヤツや!こりゃ無事では済まんナ」

「大王様LOVE♪」


 周りの傍観者達はひとことふたこと感じた事を口にするが、誰も大魔王の怒りを鎮めようとする者はいなかった。


 チョロスは思う。

自分が死ぬのは仕方ない。例え悪意のないひとことが原因であったとしても、親愛なる大王様の怒りを買うという不忠に及んだのだ。服従の盟約を交わした間柄である以上、大王様には絶対に逆らえない。しかし・・・と、ふいに苦笑めいた笑みがチョロスの口元に浮かんだ。


 ここ数年で大王様は穏やかになってしまわれた。

以前のように怒りに任せ、暴虐無人に振る舞う事がほとんど無くなった。魔族世界の支配が完了し、恐怖を見せつける必要がなくなった事も理由に上げられるだろうが、実はそれだけではない。


 原因は、目の前の少女と大王様との間に起きたあの出来事にある。チョロスもあの場に居合わせたひとりなので、穏やかに変わってしまわれた大王様には何の不満も無い。だがあの事実を知らず、その後に起きた不思議な現象が何を代償にしていたのかも知ろうとしない者達からは、不満の声が上がっていたのは事実だった。


 虫の居所が悪い、なんとなく気にくわないというだけで、他国のみならず自国の村さえ消し去り、逆らう者には容赦なく死を与えた恐怖の象徴『大魔王ゾーダ』


 人類側の最終兵器『勇者』との闘いで肉体は失ってしまったが、比類なきその魔力は今もなお健在だった。勇者を葬った全盛期と比べても、魔力だけなら上回ってさえいると感じられる。


 彼は歴史上でただひとり『勇者』を倒した存在として国内外を問わず魔族の間で絶大な人気を誇っており、その武勇伝は広く知れ渡ってゾーダを憧れる者は数多い。


 本来魔族では絶対に倒せない異世界からの召喚者『勇者』を倒し、そのあと種族ごとに分かれ紛争が絶えなかった魔族世界をわずか2年で平定し、現在のグロスキ王国を一代で建立した偉大なる存在。


 人類側に再び勇者が召喚されるまでの約9年間、魔族は栄華を極め歴史上最盛期をむかえる事が出来た。故に、大王の理不尽な振る舞いは例えどんなものであったとしても英雄的に捉えられ、それが暴力的であればあるほど魔族達の心を魅了した。魔族が本能的に破壊行為に好意を抱く種族だとしても、それは盲目的だと言わざるを得ないほど熱愛されたのだった。


 今回も例外なく、大王の怒りをすんなりと受け入れる魔王達。チョロスは喜びすら感じこの状況を受け入れ、このまま消滅する運命を選択していた。ただ巻き添えにしてしまうであろう、魔法に耐性が薄い3名には申し訳なく思うが・・・


 大王の魔力が臨界点を超え、破壊のエネルギーに変換され空間に充ちて行く。変換される時に大気中の熱を大量に奪うこの魔法の特性により、足元の石盤には細かな霜が放射線状に走り、気温がぐんぐんと低下して行った。


 つき出した左掌の上に浮かんだ、黒々とした球体が徐々に密度を増し、それは人ひとりを覆い隠すには充分過ぎる大きさにまで成長する。


超重力圧滅魔法(グラビタン・グランデル)』触れたモノ全てを押し潰し、無形の闇に呑み込む非情なる最上級の闇魔法である。


 今まさに放たれようとしてしている絶大なる破壊エネルギーを前に、チョロスは単純に驚き、純粋に感動し、そして憧れた。純粋な破壊の衝動に心踊らずにいられないのは、魔族である者の性であった。


ーーーああ・・・大魔王サマ、ばんざい!


 大王の魔力が放たれたと思われた瞬間、パン!と手を叩く音が響き、同時に存在した全ての魔力がプチンという音と共に跡形もなく消え去った。


 手を叩いたのは黒髪の少女だ。台の上で半身を起こし、横座りした状態で足をぷらぷらさせながら「プンプン」と効果音を口ずさむショートボムが似合う少女、名は姫城ゆかり。しかし、彼女を名前で呼ぶ者はほとんどいなかった。


「そこまでよ。大ちゃん!」


「むむ?」


 大ちゃんと呼ばれた大魔王は、消し飛ばされされたエネルギーの余韻を感じながら非常にバツの悪い様子で少女の方に向き直った。


「言わなくても分かってると思うけどさ、今のはちょっとヤリ過ぎだよね?」ぷんぷん!


「チュロ助はもちろんだけどさ、後ろの脳筋三人組は私が止めなきゃ巻き添え食らって死んでるよ?分かるよね?分からないハズ無いよね?大魔王なんだし!」


 無言のままの大魔王に『姫城ゆかり』は言葉を続けた。


「それとも、私が止めると分かってて八つ当たりに一発ぶっぱなしてスッキリしようかなんて思ったのかな?」


 彼女はかなり怒っていた。

はじめこそ「プンプン」と効果音を口ずさむ程度で可愛らしく怒った態度をしていたが、今はマジで怒っていた。自分のセリフに怒りを重ね、怒れば怒る程にボルテージを増す。姫城ゆかりは怒らせてはいけないタイプの女性だった。


 やがて怒りは出口を求め空間に干渉しはじめた。満天の星空に厚い雲がもくもくと生まれ、瞬く間に星を覆い尽くすと遠くでゴロゴロと雷鳴が聞こえ出す。


 天候を操るなど、魔法が当たり前に実在するこの世界であっても普通でないのだが、目の前の姫城ゆかりに至ってはもう当たり前の現象であり、怒りを表現する演出にすぎない事をここにいる大魔王とその配下である魔王12柱はとてもよく知っていた。


 それに、これから間もなく行われるであろう理不尽極まりない物理法則も魔法原理も無視した『重いオシオキ』についてもいわずもがなである。


「こんなスケスケの恥ずかしい格好させた上に、冷たい石のベッドに長時間寝かされて、もう我慢出来ないって言ってるのに魔法使って気温なんか下げちゃってさ!」


 こころなしか頬を赤らめながら、モジモジしていた。


「察しなさいよ!大人なら分かるでしょ?もうホントに限界ギリギリなんだからぁ!」


 少女は先程よりも更にモジモジしている。

ちょっと恥ずかしそうに膝を擦り合わせながら。


ーーーああ、なるほど。そういう事ね!


 一同はうんうんと頷いた。


 んじゃ、ここは素直に謝っておけば問題なし!と、お互いに視線で会話を交わし、皆一斉に土下座をした。そして大きく声を揃え、


「「「「ごめんなさ~い!!」」」」


と、せーので額を床に叩きつけた。


 途端、


「ズズーン!!」

「ガガガガガガーツ!!」


 地響きと共に大地が跳ねた。


「わ、わ、わぁぁぁ~!」


 魔王達の渾身の土下座は、石舞台の床に想定外の衝撃を与えた。ひとりひとりが災害級のパワーの持ち主だ。額を床に叩きつけた最大級の謝罪は、大地に大きな傷痕を残す事となった。


 後に『赤月の激震』と呼ばれる震災の原因が魔王達の土下座によるモノだったと知れば、家を失い家族や財産を失った者達からの非難はその元凶たる魔王達に集中したであろう。しかし、そのような事はやった本人達ですら自覚していないので、原因は謎のまま歴史に埋もれて行く事となる。


 それどころか、魔王達はこのあと天から降りて来た『恐怖の大王』によって生死をさ迷う者が出る程にタイヘン目に合い、大地が数分間の間盛大に揺れた事など全く記憶にすら残らぬ些細な出来事だったのだ。




 わ、わ、な、なに?

 地震?地震なの?


 ダメ!今揺らしたらダメだって!

 ホントにダメ!ダメだから!

 ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!ダメ~!!


《チョロロ・・・》


 い、いや!

 と、止まってよ!

 私、止まりなさい!

 止まりなさいってばぁ~!!!


「いやぁぁぁ~!!!」


 ほとばしる絶叫。


 揺れる石台の上の少女をアララと見つめる13対の眼。

 ある者は慌て、

 ある者は無関心に、

 ある者は興奮ぎみに、

 ある者は悲しげに微笑みながら・・・


 揺れがおさまった石舞台の祭壇では、台に腰掛け、先程と同じく足をぶらんとさせた状況で座っている悲しげな少女の姿があった。


 彼女はうつ向いたまま動かない。

大きく見開いた目は焦点を結ばず小刻みに揺れている。沈黙と静寂が空間を支配し、ポチャンと最後の一滴が足を伝わって水溜まりに落ちる音を必要以上に大きく響かさせた。


 音に反応するようにビクンと肩を振るわせた少女は、ゆっくりと両手で顔を覆った。


 私、まだ清純な乙女なのに・・・


 汚れてしまった・・・

 汚れてしまったよぉ


 呟くようなか細い声であったが、人外の彼らにはハッキリと聞き取れた。流石にこのままにしておく訳にもいかず、大王に促され女性である蛇王ヨムルと夢魔王メリーサが声を掛ける。


「あ、あのね・・・残念な事になっちゃったけど・・・」


 おそるおそる声を掛けるメリーサ。

聞こえているのか、いないのか分からない。


 メリーサが続けて言葉を掛けようとしたその時、にゅううっと少女の両唇の端が不気味につり上がった。そして静かに顔を上げてゆく・・・


 ゆっくりと状況を確認するかのように周囲を見渡す少女。しかし、開いた目には瞳がなく、真っ白な空洞からは細いがはっきりとした赤いスジが走って、それはポチャリと足元の水溜りに落ちて広がって行った。


 ビシャン!!と、何かがひしゃげるような音がした。そして魔王たちは見た。暴走したら誰にも止められない存在が、お漏らし一つで世界を終わらそうとする狂気と絶望の瞬間を!!








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