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湯けむり温泉郷【3】計画実行


 脚王ラヴェイドは急いでいた。

 それに、内心焦ってもいた。


 天歩であっという間に本拠地に戻るやいなや、居城の地下にある禁書庫へと急いだ。その僅かな間にも、次々と重臣達が寄って来ては報告と指示を求めてくる。それらを適当にあしらい、人払いをしたラヴェイドは最も信頼する二人の息子の名を呼んだ。


「アレン、リュオン、おるか」


「は、ここに!」


 名を呼ばれてすぐ、空間が裂けてニつの影が現れた。ひとりは体術系スキルを使い、もうひとりは妖術系スキルで移動して来た。


「首尾はいかがでしょうか?」


 口火を切ったのは頭ひとつ大きい筋肉質な男、長兄アレンだった。


「プランDだ! ヤツに幻惑催眠は効果がないと分かった」


「プランD? では、母上と妹達は?」


 プランDと聞いて狼狽(うろた)え、質問したのがリュオン。少し小柄だが、見るからに聡明そうな顔立ちをした美男子だ。アレンと違い武術の才には恵まれなかったが、それを差し引いて余りある妖術と魔術の才能の持ち主である。


 幼少の頃よりその才は群を抜いており、大人でも難しい高位魔術を安易とこなし、妖術においてもラヴェイド陣営の中で彼を越える者は存在しない。第8妃アフロデアの子であり、21番目の男子として生まれながら、長兄アレンと同格視される一族きっての天才であった。


「リュオン、言いたい事は分かる。だが今は堪えろ」


 リュオンが父に近寄り、更に発言しようとしたのを見たアレンは、ズイと割って入り弟を背にして父の前から下がらせた。普段なら咎められぬくらいの行動も、今の父が普通でないと察したからだ。絶対的権力者であるラヴェイドは、自分の子供であれ、迂闊な事をすれば厳罰に処す事がある。


「妹のシュジュは新婚です。それに、アリスは成人したばかりの乙女ではありませんか!なぜ二人を参加させたのです!私はこの作戦には賛同しかねます」


 拳を握り肩を震わせるリュオン。

彼はこの国には珍しく貞操観念の強い情の厚い男であった。そのリュオンの肩をやんわりと触り、アレンは労るように静な口調でリュオンを諭した。


「言葉を慎んだリュオン。気持ちは分かるが、父上とて辛いと察しろ。我が母麗々と、妹の凛々蘭々も参加しているじゃないか」


「凛々殿と蘭々殿は、はじめからあの異世界人と夫婦になる計画だったでしょう?認められた上での事なら私も文句は言いません。契りの約束もなく、ただアダムの最強遺伝子を手に入れるが為に皇族貴族の女性たちの腹を貸すなど承諾できない!もっと別の方法があるはずです! 例えば、先日申し上げたように・・・」


「息子よ、そう熱くなるな。これは一度きりの事だ。それに、お前が言う竜王軍との協力体制など絵空事だ。他に方法など有りはしない」


「いえ、その事ばかりではありません。プランDという事は、兄上が犠牲になるという事ではありませんか! この国にとって兄上の存在がどれほど大きいかなど、父上が一番知っているでしょう。リスクが大き過ぎます。兄上を失えば、我が国の戦力は二割以上低下しますよ!お考え直し下さい。今ならまだ間に合う!竜宮への使者の件ならば、わたくしが直接・・・」


「出過ぎた発言だリュオン! 父上に向かってなんという・・」


「いいのだアレン。お前の身を案じての発言だ。最も敬愛する兄が、納得できぬ作戦で犠牲になるのが許せないのだろう」


 ラヴェイドはアレンの言葉を途中でさえぎり、やさしい口調で言った。


「リュオンは昔から優しい子だった。争いを好まず、常に他者をいたわり、周りに対しても細やかな気配りを欠かさない男だ。今にしても、兄が言いたいであろう事を代弁し、自分が罪を被る覚悟で我に意見をしたのであろう?でなければ、控え目なリュオンがこれ程に強く我を通そうとする筈がないからな」


「リュオン、お前・・・」


 そこまで考えていなかった自分を恥じ、アレンはあらためて弟の器の大きさに震撼した。同盟の事を口にしはじめたのは二週間ほど前だが、リュオンがただ希望的観測で物を言う訳がない。ある程度まで進めて、目処が立ったからこその発言だった筈だ。


 父ラヴェイドは全く取り合おうともせず議題にもしなかったが、竜王軍と協力できるならアダム因子取得の件も希望が持てる。今回の作戦は一族繁栄の為には必要だと思っているが、完全に納得している訳ではない。


 だからと言って、父にヤレと命令されたからしているのではなく自分の意思だ。だが、犠牲が少ないに越した事はないし、リュオンの提案を完全に無視した事に少しの不満も無いと言えば嘘になる。リュオンは随分初期の段階から危険過ぎると警告していたのだから。


「父上・・・ではせめて『転魂の御役目』を私にやらせて下さい。私如きがいなくなってもこの国にさほどの影響はありませんが、兄上は絶対に失なってはならないのです。術が成功したとしても、異世界人の体となった兄は20年後の召喚で贄となり消える運命。それに、兄では大魔王ゾーダとあの狡猾な鼠や蛇、竜王までを騙し通して次の召喚まで時を稼ぐ事は難しいでしょう。兄は嘘が苦手なのです」リュオンはそう言って頭を下げた。


「それはダメだ!」


 アレンは両手でガシッと弟の肩を握り、覚悟を決めた強い眼差しでこの優秀な弟に向かって言った。


「秘薬『留魂丸』の呪いは、常人に耐えきれるような物ではないと聞く。お前では、精神は耐えられても肉体が崩壊して2分と保たずに絶命してしまうだろう。留魂丸は劇薬だ。その苦痛に耐えきれる強靭な肉体が不可欠なんだ。その点オレは、体だけは無駄に頑丈だからな。お前と父上が補佐してくれれば術が発動するまでの約5分を耐えきるなど造作もない。この御役目はオレが適任なんだ。昨日の作戦会議の時もそう言ったではないか。今さら蒸し返してどうする?」


「しかし、兄上・・・」


「しかしもカカシもあるか。オレは今のお前を見て確信したよ。オレの代わりにこの国を託せるのはお前しかいないとな」


「自分は兄上ほど強くないし、体も弱い。戦場では兄上に全く敵いません。そんな私よりも、兄上が残った方が良いに決まっています」


「自分を過小評価し過ぎだぞ、リュオン。

お前の評価はオレと同格だ。確かに体は小さいし、腕っぷしも弱い。だが、お前には誰にも真似の出来ない飛び抜けた才能があるじゃないか!妖術や魔術の冴え、作戦の立案力もさることながら、魔法戦においてのみなら父上をも凌ぐ実力がある。お前は我が国が誇る参謀総長なんだぞ。自信を持てリュオン!」


 美しき兄弟愛。

 肉体美のアレン。

 可憐な美男子のリュオン。


 ふたりの美しい兎男はひしと抱きあい抱擁を交わす。リュオンの頬が少し紅く染まっているのは見まちがいではないのだが、そこはあえて触れないでおこう。


「息子達よ、本気で時間がないのだ。今こうしている間にもアダムの捜索は続いている。足取りは捕まれてないと思うが、屋敷の結界も怪しまれずに張るとなると今の出力が限界だ。そろそろ奴等の最も得意とする時間帯となる。夢魔どもに見付けられる前にカタをつけねばならん!」


 ラヴェイドはアダム発見の報告などしていない。一族の者に念話を送ったのは確かだが、アダムを発見して接触してからすぐ結界を張り、会話を交わした時点から痕跡を全てを完全に消していた。


 アダムを誘い出し、屋敷に招待するのも、異世界召喚がはじまるずっと以前から計画されていた事だ。召喚されるのが男であり、過去最大規模で行われる完全召喚陣(パーフェクトリング)で最強のアダムが現れる事を知った時から、今回の計画は水面下で画策されていた。


 異世界人の肉体は召喚された時点から全く生長しない。歳を取らぬ肉体は子も孕めない。召喚者が女性では、その遺伝子を手に入れる機会はないのだが、男なら別だった。交配可能な体形なら混血種を作る事は可能なのだ。闇のアダム獲得は、覇権を狙う他の種族の間でも共通の目的なのである。


 混乱や争い事を防ぐ為のルールは存在するが、とある理由により今回のソレは上手く機能していない。理由については後で知れる事になるので説明しないが、ラヴェイドがアダム独占を計画した経緯にもその不具合が大きく影響していた。



「アレンよ。体調を整え準備をせよ。

我とリュオンは禁術の封印を解き、『転魂魔方陣』の準備をする。時間にして約2時間半か?屋敷へは空歩で行く。到着したら直ぐに術式を展開させるから、それに合わせ留魂丸を飲め。効果が現れるのは、飲み下してから約40分後だ」


 ラヴェイドからの指示に、二人は頷き「ご指示のままに」と答えた。もはや匙は投げられたのだ。どんなにリスクが高かろうと進める他に道はなかった。


「リュオン。この姿でお前と接するのも今日が最後のようだ。お前の言う通り俺は嘘が下手だ。だから、この計画を知らぬ者達にはお前が上手く説明してくれ。お前なら誰にも気付かれぬよう話を合わせられるだろう?」


「それでは私が嘘つきのように聞こえます」


 はははと笑うリュオンの手をアレンは握る。


「後ひとつ、妻のローラの事だがお前に頼めないか?

お前はまだ結婚していないだろ?姉さん女房になるが、あいつもお前の事を気に入っている。お前がいいなら貰ってやってくれ」


「なにを言うのですか! 異世界人の体になったとしても20年は生きられるのですよ? 兄上がそれまでは一緒に住むべきです」


「ダメだ。一緒に住めば必ず中身がオレだとバレる。この秘密は作戦の内容を知る者以外、絶対に知れてはならない最重要機密だ。嘘が下手だと言ったのはお前だぞ? 最後の願いだ。お前にしかこんな事は頼めない」


 ふたりの間にしばし沈黙が続く。


「――――――――解りました。ローラさんの事は責任を持ってお引き受けします。でもいつでも会いに来て下さい。必ずです!」


「ああ、無論そのつもりだ。息子や娘の成長する姿も見ていたいしな。その時はローラの作るザニニアをご馳走してくれ。オレの大好物なんだ」


「もちろんですとも!」


 そして見つめ合う二人。


 ほっておけば何時までもそうしていそうな雰囲気にいい加減うんざりして来た脚王ラヴェイドは、少しイラつきながら突っけんどんに言い放った。


「あ~、おふたり共そろそろいいかな?

マジ時間ないんだけど!!」



 脚王ラヴェイドは急いでいた。

 そして少し焦ってもいた。


 理由は闇のアダム捜索に躍起になっているであろう夢魔族(ナイトメア)の羊達に発見される事ではない。まあ、それも重要な事には間違いないのだが、真の理由は他にあった。それは自分が最も溺愛する王妃麗々が、この作戦に参加すると知ったからだ。確かに奥の衆を仕切らせ、人選を任せてはあった。だからと言って、第1王妃の麗々が子づくりに参加するとは思っていなかったのだ。


《我が最愛の麗々の腹を貸すなどとんでもない!》


 実はこれが本音だった。


 魔族界で数々のスキャンダルをはし、嘘の陰には脚王ありと言われるドンファン・ラヴェイドは、他人の妻や恋人を寝取った事は星の数ほどあっても、寝取られた事など一度もなかった。


 まあ、本人がそう思っているだけで、実際のところどうであったはあえて書かないが、ともかく彼は動揺していたのだ。麗々の参加。それは脚王の心に今まで感じた事もない感情を生み出していた。


 はじめて知る『嫉妬心』

 彼にとっての麗々とは、それほどに特別であった。


《麗々は身持ちの堅い女だ。今回の事も、強い義務感から嫌々ながらするに違いない。第1王妃が参加するとなれば、皆も従わぬ訳にいかぬからな。ああ、なんて素晴らしい妻なのだ!我の為に身を犠牲にして尽くすとは! 麗々は気を使って最後に参戦するはずだ。待っていろ麗々! お前が交わる前に間に合わせてみせる!》


 ラヴェイドは心の中でそう叫んでいた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 舞台は温泉郷に戻る。

脚王ラヴェイドの想いとは裏腹に、真っ先に前頭を切ったのは最愛の王妃麗々だった。


 岩場にわざと俺を逃がし、最適なところまで誘い出してあっさりと捕まえた。仰向けに大の字に寝かされ俺は、両手両足を馬乗りになった女達に固定され身動きひとつ取れない状態だ。


 右手を凛々、左手を蘭々、両足を押さえているふたりの名前は分からないが、両手を押さえるふたりの顔はよく知っている。俺を檜風呂で洗ってくれた二人だ。どうやら王妃麗々の実子らしく、皆が遠慮がちにしている事からも、この中では一番身分が高いのであろう事が分かる。


「なあキミ達、二人はまだ若いんだろう?こんな破廉恥な事しちゃいけないと思うんだよね。手を離してくれないかな?」


「破廉恥?ナニおかしな事言ってるの? 蘭々解る?」


「蘭々にも全く意味が分かりませ~ん! キャハハ」


 体は立派に成長して素晴らしいナイスバティなのに、頭の方は残念なことに全く成長していないようだ。破廉恥の意味も解らんとは身分が高いくせに教育が全くなっとらん!


 親の顔が見てみたいわ!

と思ったが、その親は目の前にいた。しかも、娘よりも破廉恥な格好で妖艶に微笑んでいる。


「ごめんなさいね、わたくしの教育がなってなくて。この子達は自由奔放に育ててしまったものだから、興味がある事以外はからきしなの。ちょっとあなた達、少しは勉強なさい! 破廉恥とは恥を恥と思わない行動を意味する言葉よ。全く恥ずかしいわ!」


 と言う彼女は俺の腰の上に膝をついた状態で股がり、興奮した様子を隠そうともしない。こんな母親に破廉恥の意味について説明されて知らなければ恥ずかしいなどと言われては、言われた方が可哀想というものだ!


「あんた、二人の親なら娘の前でこんな事はやめろよ。教育上良くないし、集団逆レイプとかアブノーマル過ぎるだろ!そういう事は別のジャンルでやってくれ。どうせ表現できないんだしさ!!」


 そんな俺の叫びなど素知らぬ顔だ。麗々をはじめ、誰ひとりとして耳を傾ける者はなく、俺が嫌がれば嫌がる程に興奮した様子をみせてニヤニヤ笑みを浮かべた。


「いい加減その口、鬱陶(ウットウ)しいわね。凛々、塞いでおしまいなさい」


「ハ~イ、お母さまぁ〜ん!」


 元気に返事をした凛々は、腕の上に乗ったままの体勢で俺の頬を掴み、首の方向をねじって強引にキスして来た。口を塞がれた俺は、ただモゴモゴと唸るだけで言葉が出せない。頭の中ではゆかりとのリンクを回復させようと、必死でキーワードを唱え続けていたが、時間稼ぎをしようとするもそろそろ限界のようだ。何やらやたらと自信ありげだし、一方的にテクニックを使われた場合、理性を保てる目算なんてほとんどない。


「もういいでしょう? 覚悟は出来たかしら?」


――――ゆかり・・・すまない。

薬を盛られちまって体に力が入らないんだ。理性の続く限り抵抗するが、ダメでも恨まないでくれ・・


 情けなく弱気な俺に、麗々の毒牙が襲いかかる。

しかし、不思議なことに、全く平気だった。持ちが良くない訳ではないが、心地よいマッサージを受けているような感じで全く余裕のヨイチャンだった。


 それに反して必死な麗々は、苦痛にも似た表情で歯を食いしばり襲い来る快楽の波に懸命に耐えている様子だ。俺がきょとんとした顔で平気にしているのを目にすると怒りの表情を浮かべ、更に激しさを増したが、それが命取りになった。大きく絶叫した後にぐたりとして動けなくなってしまったのだ。


 その様子にびっくりしたのは俺ばかりではない。

周りにいた女達は皆同じ様に大きく目を見開き、愕然とした表情でそれを眺めていた。最初に口を開いたのは凛々だ。


「何があったの? なぜお母さまが先に?」


「姉さま! こんな事・・・信じられない」


「私にも分からない。お母さましっかりなさって!」


 そう声を掛けながらも、ふたりは俺の腕を離さない。妻だと紹介された内のひとりが駆けより麗々の腕を引く。


「気をしっかりなさって下さい。最年長のあなたがそれでは、皆に示しが付きません。いつもの強気はどこに行ったのですか!」


「手厳しいわねアフロディア。確かにあなたの言う通りだわ。わたくし達年長者が頑張らねば、経験の浅い娘達では荷が重い。逆に呑まれてしまい正気など保てないでしょう」


 年長者?どれくらいの歳かは解らんが、俺には誰も同じくらいの歳に見えた。違うのは耳の長さくらいか?母親と娘とかも言われなきゃ全く解らんし、外見的に歳をくわない種族なんだろか?


 状況が把握できてない俺は、そんなどうでもいい事をぼんやりと考えていると、麗々が二人の女性にかつぎ上げられ少し離れた場所に寝かされた。全身が痙攣して腰が立たないようだが、懸命に起き上がろと上半身を腕で支えながらこちらを睨んで来る。


「次は私が行きます!」


 アフロディアと呼ばれた女性が次なる挑戦者として名乗りを上げた。すると、少し離れた場所でふたり抱き合って震えていた片方の女性が声を張り上げて叫んだ。


「母さま、やめて下さい! その男は普通じゃありません!」


「シュジュ・・・そんな事は百も承知です。アダムという存在が普通である方がおかしい。これは闘いなのです」


「そういう事を言っているのではありません! このまま続ければ、この国にとって取り返しが着かない事になる気がします。私達の生活を根本から変えてしまうような、劇的な変化が世界を覆い尽くすのです!」


「それはあなたの予知? それともアリスかしら? いずれにしても、私達は既に引き返せないところまで来てしまっている。ここでやめても、闇のアダムに対して行った不義という逃れられない大罪が残るのみ。大魔王ゾーダに知れた時点で国は取り潰され、一族は路頭に迷うでしょう。同じ潰されるなら、やれる事を全力で行い、万にひとつの可能性に掛けるしかないのです」


「母さま!」


「見ていなさい、娘たち。たとえこの場で力尽きようとも、必ずやこの男の理性を削いでみせます。後に続く者の負担を少しでも軽くする為に、全身全霊をもってお努めに望みましょうぞ!」


「母さま、駄目〜!」


 悲痛な叫びが湯けむりを上げる水辺に響きわたる。しかし、従おうとする者など誰一人いないし、予想外の事態に動揺しながらもアフロディアの意思は変わらなかった。


ーーーおい、おい! なんか知らんが、変なテンションになってないか? 襲われてるのは俺なんですが、こいつら分かってんの? あんたらが勝手にやってんのに、俺が悪役扱いかよ! おかしいよそれ! モーレツに抗議します!


 声を大にして叫びたいが、俺の口は凛々の右手と蘭々の左手でしっかりと押さえられ、ただ「モゴモゴ、モゴモゴ、ウ~ウ〜」と聞こえるだけだった。


「覚悟しなさいこの悪党! 麗々さまの仇は必ずこの第8妃アフロディアがとってみせます!」


――――でたぁ~! ついに出たよ、そのセリフ!

俺が悪党とか何言ってんだ? 俺は麗々を殺してねぇし、てめぇらとこうなったのは全部ラヴェイドのせいだろうが! 俺は被害者だぞ! 恨まれる筋合いはこれっぽっちもないだろうが!


 激しくモゴモゴ、モゴモゴ、モォ―、モォ〜と抗議したが、完全に無視され、ありえねー出来事は尚も勝手に進む。細かい設定などどうでもいいが、いい加減にしてくれと心の底から叫びたかった。


 俺にはエム基質はない。

やるのは好きだが、ヤラれるのは好きではないのである!!






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