1日目
入学式から全ては始まった。
「蒼士!結局、同じ学校だったな!」
机に突っ伏していると9年は聞き続けているいつもの声が耳に入ってくる。
「あぁ、残念ながらな」
俺が軽口をたたくと友人の長崎優斗は苦笑いをした。
「お前そんなんじゃ、またぼっち生活になるぞ!」
「いいよ、別に・・・」
やる気なく答えると前方の扉が勢いよくスライドする。
「おい、静かにしろー!」
「「「・・・・」」」
先生が発言すると同時に生徒は静かになり、まだ会って間もない先生に「は~い!!」と返事をするはずもなく出席番号順もとい名前の順であらかじめ決められていた席にぞろぞろと戻っていく。
「えぇ~、これから入学式があります。みんながすることは名前を呼ばれたら返事をして起立してください。クラスの全員の名前が呼ばれ終わったら着席してください。以上です。それでは廊下に並んでください。」
すでにいくつかのグループができているようで廊下まで距離があるわけではないのに固まって移動している。
さすがに一人で行くのも何なので優斗の背中に張り付くように、一人であることがばれないように移動する。
入学式が始まった。
校長の点呼が終わると保護者代表のあいさつがあり、ついに俺が初めて彼女を見ることになる新入生代表の言葉が始まった。
新入生代表の言葉、つまりは入学試験で1位をとった人ということだ。
興味はある。
「新入生代表の言葉。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上で終わります。
桜田 奏」
え?・・・・
彼女が顔をあげるとき意識的にこちら見た気がした。
偶然だよな?
教室に戻ると先ほど新入生代表の言葉を言っていた桜田さんを中心にグループが再結成されていた。
「桜田さんって頭いいんだね!」
「私、坂城っていうのよろしくね!」
などと媚びを売っているようだ。
頭がいいだけならそこまでならなかったのだろうが彼女、桜田さんはとても美人だった。
そんなことを思っていると再び先生が入ってくる。手には籠を持っており、中にはこれから配るであろうプリントや連絡すべきことの書かれた紙が入っているのであろう。
「みんな座れ~!」
先生は生徒が座るのを確認するとプリントを配りながら明日することを話していた。
「明日は自己紹介してもらうから今配っているプリントに書いて来てください。
ちなみに書いてもらったプリントは教室の後ろに掲示するので丁寧に書いてきてください。
明日の日程はプリントに書いているので各自確認しておいてください。」
先生は手短に帰りのあいさつをすませると教室を出て行った。
すると再び先生が入ってくる前の状態に戻った。
今日は入学式だから昼で終わりだ。さっさと帰ろう。
鞄をもち帰ろうとすると捕まってしまった。優斗に。
「なんだよ?」
「いやいや何さっさと帰ろうとしてんだよ!」
「え?」
「「え?」じゃなくて!今、友達作らないと!明日じゃ遅いから!」
・・・・・・とりあえず乗っかるか。
優斗の近くに座ってと。
「よろしく~」
「「よろしく!」」
しばらく雑談していた俺はこちらに向かう視線に全く気付いてなかった。
帰り道、優斗とともに自転車に乗って帰っている。家が隣だからという理由だけでいつも
いっしょに帰っていた。おそらくこれから3年また一緒に帰るのだろう。
「桜田さんかわいくね?」
突然、優斗が聞いてきた。
「まぁ、美人だなぁと思うけど・・・」
「だよな!くぅぅ~お話してみて~!」
「俺らみたいなのに話かけてくるわけないし、諦めるんだな。」
「だよな~ でも諦めれね~!」
くだらない話を続けていると家の前につく。
軽く優斗と別れのあいさつをし、それぞれ家の中に入っていく。
その日夢を見た。
名前もわからないだれかに告白する夢。
名前もわからないだれかに告白される夢。
名前もわからないだれかとデートする夢。
記憶には残すことのできない夢しかし心には刻んである夢。