血のつながりって重要ですか?
カーテンの隙間から陽光が差し込み、俺の頭を覆っていた眠気を吹き飛ばす。
嗅覚をくすぐるパンの焼けた香りが漂ってくる。
「ああ、そうだ、昨日はゆずが布団に潜り込んできたんだった」
そうしてゆずがいないのでこのパンを焼いているのはあいつなんだと気づいた。
ベッドから起きるとスマホを充電器から外して通知をチェックする、今日も何もない、いい日だな。
「おはようお兄ちゃん! 今日はピザトーストだよ!」
「ああ、おはよ。うまそうだな」
「お兄ちゃん! もっと喜んで! 最愛の妹の手料理なんだからもっと感動的にしてよ!」
「さらりと自分を格上げしてきたな。まあうまいよ」
トーストを口に書き込みながらミルクを飲む。
いつもコイツの作った朝飯が食えるのは正直うれしいのだが、褒めると調子に乗るのでそこそこにしておく。
ゆずの金髪が怒った顔を挟んで揺れている、俺が昔、軽い気持ちで褒めて以来ずっと髪型を変えていない、正直ちょっと重い。
「可愛いから黙ってくれ、俺は物静かな子が好みなんだよ」
「は、はい。お兄様」
「いや、呼び方まで変えなくていいから」
「はい、お兄ちゃん! ノリのいいところも好きですよ!」
「お、おう」
「なあゆず……その……確かにうれしいんだが……兄妹のフリはやめないか?」
ショックを受けた風にうろたえるゆず、だが俺はここで引くわけにはいかない。
「その、確かにお前は兄妹みたいなもんだけど、ただのご近所さんだろ?」
ちっとも「ただの」ではないのだがそこは棚に上げる。
「お兄ちゃんは私のこと嫌いですか?」
「いや好きなんだけどさ、確かに親公認ではあるんだけど……お兄ちゃん呼びは恥ずかしいっていうかさ……」
「大丈夫ですよ! お兄ちゃんは恥ずかしがりすぎなんですよ! 受け入れちゃえばすぐに慣れます」
断言するゆずだが俺は恥ずかしいのだ。なにより兄妹と思われていてはこれ以上の関係は望めない。
ぶっちゃけ恋人になりたいと思うのだが、ゆずがどう思っているのかは怖くて聞けない、チキンだと言うなら言え、そんな度胸あったらもう恋人なんかできるんじゃないかと思う。
「恥ずかしいんだよ……あとずっと兄妹でいいのか?」
「どういう意味ですか?」
コイツ、ほんとに分かってないのか?
「いや、その……なあ。あるだろ? いろいろと」
「兄妹より良い関係なんてあるんですか? 兄妹はずっと一緒にいられるんですよ? お兄ちゃんが結婚とかしちゃってもずっと一緒ですよ?」
マジで分かってないなコイツ。
「その……ほら、アレだよアレ、思春期にありがちな甘酸っぱい関係とか、憧れないのか?」
「お、お、お兄ちゃん何言ってるんですか!? そんな爛れた関係認めませんよ!」
「思春期に偏見ありすぎじゃないか!?」
思春期ってもっと健全なものじゃないの!
「ほらほら! お兄ちゃん食べて食べて! 大丈夫、私はお兄ちゃんの趣味が何であれ味方だから!」
「えぇ! 人を変態みたいに言うなよ」
そうして俺たちは押し出されるように家を出た。
俺たちが血を分けた兄妹だと知ったのはまだ遙か先のことになるのだった。




