病院にて
私が蓄膿の手術をするために夏場に都内の病院に入院した時の事です。
無事手術を終えた数日後、病院では控えめの冷房しかされないせいか、午前一時を過ぎても蒸し暑くてなかなか寝付けませんでした。
それと同時に喉の渇きも覚えたので、何か飲料水を買いに行くことにしました。
それで財布を持って自販機のある階までエレベーターで降りていく事にしたのです。
まず最初の異変は、私が大部屋を出た直後におきました。
部屋を出たら右側にある喫煙所から複数の人の話し声が賑やかに聞こえて来たのです。
消灯時間中でしたからありえないと思い、私がそちらを見るとピタッと話し声は止まりました。
気のせいかも知れないなと思いつつ、エレベーターホールに向かう為、隣の大部屋の前に来た時にまたも異変が起きました。
「ここよー、ここよー。」とか細い老婆の声が聞こえて来たのです。
でもこれもありえない現象なのです。
大部屋の入院患者の構成は全て同じ性別の6人となっていましたし、その部屋は私がいた部屋と同様に、全員男性の入院患者で占められていましたから。
泊まり込みの付き添いも個室ならともかく、大部屋では許されていませんでしたし、他の入院患者さんの安眠の邪魔になる様な非常識な人が入り込んでるとは思えません。
2時間に一度看護師さん達による見回りもありますし、そんな人がいればすぐにつまみ出されるでしょう。
私は立て続きの異常事態を不思議に思いつつもエレベーターホールに着き、下の階へのボタンを押してエレベーターを待っていると、またしても異変が起きました。
この階は1階でも最上階でも無いのに、二台のエレベーターがポーンというチャイムと共に同時に到着して同時に扉が開いたのです。
これもあり得ない事でした。
複数台のエレベーターを制御する管理ソフトは、省電力や利用者の利便性を最大限に考えて作られていて、こういった場合一台だけが呼ばれる様に出来ています。
一階等人の出入りが激しい所ならともかく、私のいた階はただの入院用の病室しか無い階だったので、二台同時にやって来るなんてありえない事なのです。
私は不思議に思いつつ、そのうちの一台に乗って自販機のある階に降りました。
すると隣のエレベーターも同時に着いたようで、またしても到着を示すチャイムが同時に鳴ったのです。
素早く降りた私が隣のエレベータの中を見ると、そこには誰もいなくて空でした。
無論隣のエレベーターから誰か出て行く様子はありませんでしたし、フロアは静まり返っていてエレベーターを呼んだ人もいない様でした。
私は自販機でエビアンを買って自分の部屋に戻り、ボトルの半分くらい飲んで寝ました。
翌朝目が覚めた時、一連の出来事が夢だったのかも知れないと思い枕元を見ると、中身が半分になったエビアンがそこにありました。
あの体験はどうやら夢では無かったようです。
その日から退院するまでの間にエレベーターに何度も乗りましたし、夜中にトイレに起きることもありましたが、あのような体験をする事はありませんでした。
もう一つ不思議な事は、これだけ立て続けに様々な現象が起こったのに、私は当時も今もこの件について全く恐怖を感じないのです。
こうして書き記していても同様です。
人にこの体験を話すと怖がる人はいるようですけどね。
皆様にもこのような体験はありませんか?
この話は、随分前に有名な実話系怪談サイトにも投稿しましたが、長すぎたのか不採用になりました。
その事も思い出しながら書いた次第です。