ームゲンなノベルのフラグメンツー 03.
「星乃佳世さんは数か月前、自宅の自分の部屋で意識を失い倒れているところを父親に発見され、ここに運ばれてきました。以来、私たちは全力を尽くしてきましたが、いっこうに回復する様子は見えません」
黒澤冷香は感情を殺した声で淡々と説明する。「ただひとつ、手がかりになりそうなものといえば、意識を失う寸前まで彼女が手にしていたと思われるハンディフォンです」
女医はデスクに向かう。先ほど遠流とカンゴロイドが争う映像を写していたPCを操作する。
PC画面にパールピンクのハンディフォンの画像が映しだされた。たしかにデートのとき彼女がよく手にしていたものだ。幸せだった日々の記憶がつかの間、遠流の脳裏をよぎった。
「佳世さんはハンディフォンでゲームをしているときに倒れたらしいの」
「ゲーム?」
冷香の意外な言葉に、思わず遠流は問い返す。
冷香はうなずき「お父さんの話によれば、意識を失っている佳世さんを発見したとき、落ちていたハンディフォンの画面にはプレイ中のゲームが表示されていたということよ」
ゲームの刺激が、佳世の意識を失わせたのか――遠流は思う。
テレビアニメなどの激しい光の点滅などが原因で見ていた子供が意識を失ったという話は、昔からよく聞いたおぼえがある。
病室で眠り続ける佳世を思い出し、急に口数が少なくなった遠流を見て女医・黒澤冷香は席を立った。
「あなたが取り乱す気持ちも分からなくはないわ」
窓辺に近寄って腕を組み、どこか遠くを眺めるような目で「あともう少しで一緒に暮らせるというときに、婚約者があんなことになってしまったんですものね」
その瞳は窓の外の果てしない宇宙空間ではなく、もっと別のものを見ているようでもあった。
「彼女のことをよろしくお願いします」
遠流は精いっぱいの誠意をこめ、女医の背中に向かい頭を下げた。
ゆっくりとドアに向かい「じゃあ僕はそろそろ。地上に戻るシャトル便がそろそろ到着するので」
「待ってよ」
窓の外を眺めていた冷香がきっと振り返り「あなた、あれだけのことしてこのまま帰るつもり?」
「それは――」
遠流は自分の行状をふり返り「たしかにいま思い返すと、恥ずかしい真似をしました」
「いちおう反省してるんだ?」
「はあ――」
「まあ反省してすむなら警察はいらないって話よね」
冷香は白衣の胸ポケットからハンディフォンを出して指先でぶらぶらさせてみせ「でももう呼んじゃったんだなあ。ごめんなさいね」
いきなり診察室のドアが開き、入ってきたのは、カンゴロイドよりひとまわり大きなサイズのポリスロボ二体だった。
「宇宙ステーション所属国際警察です」左側のロボが合成音声で名乗る。
右側のロボが「サイコロジカル病棟からの要請により、被疑者の確保にまいりました」
彼らは二体とも、太く頑丈そうな機械の腕に武骨な銃を構えていた。
先端の1秒間に700発の弾丸の発射も可能な射出口が、ぴたりと遠流の胸のあたりに向けられていた。