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ドコカデ・イツカ  作者: 塩 こーじ
1/3

ームゲンなノベルのフラグメンツー 01.

01.


 真っ白なベッドの上で彼女は静かに眠り続けていた。


 凍りついたような青白い横顔。わずかな呼吸にシーツの下でかすかに、だが規則正しく、形のよい胸が上下している。


 ベッド脇のパイプ椅子に腰かけ、遠流(トオル)はずっとさっきから長いあいだ、彼女の横顔をじっと眺めつづけていた。自分にはほかにどうにもなすすべがない。ただ見守りつづけるだけだ。


 そっと手を伸ばし、彼女の頬に触れてみる。かすかなぬくもりが指先に伝わってくる。


佳世(カヨ)……どうして……」


 突如はげしい思いに突き動かされ、遠流は立ち上がった。勢いですわってたパイプ椅子が音をたてて倒れる。


 彼はその椅子の背をつかんで思いきり振り上げる。


 そのまま病室の窓めがけて振りおろした。2度、3度。


 ガラスが割れることはなかった。ひびすら入らなかった。


 窓の外は無数の星がちらばる闇だ。特殊ガラスに憔悴しきった自分の顔が映りこんでいる。


「こんな閉ざされた空間、俺がぶちやぶってやる!」


 遠流は低くつぶやくと、さらに何度もパイプ椅子をガラスに打ちつける。鈍い音が何度も病室に響いた。


 部屋の外の廊下で神経を逆なでするような警告ブザーが鳴り響く。


 バタンと音をたててドアが開き、二名のロボット看護助手が入ってきた。


 彼らは通称カンゴロイド。アンドロイドよりも数段スペックが落ちる単なる使役ロボットだ。


 彼らの頑丈なアームが両脇から遠流をはがいじめにする。遠流は全身の力で暴れ、自由になる脚で手近のパイプ椅子を蹴りつけながら叫んだ。「離せ、このポンコツのクズ鉄ども!」


 ロボットたちと遠流との激しい争いがしばらく続いたが、ベッドに横たわる佳世が目をさます気配はなかった。


 少し遅れて、病室の入口に、白衣をまとった若い女性が立ちはだかった。


 遠流をやや上回る上背だ。180センチはあるだろうか。


「かなり興奮してるわね」


 彼女は腕を組みながら暴れる遠流を冷ややかに見つめ、ついでその視線をベッドの上で眠る佳世に移し


「いったいどっちが患者(クランケ)だか、わかりゃしないわ」


 皮肉っぽいため息をつく。


「このヤブ医者!」


 遠流は憎悪で顔を歪め「はやく佳世をもとに戻せ!」


「ものには頼みようってあるんじゃなあい?」


 女医はおもむろに手にしていた薄い金属のケースを開く。銀色に鈍く光るメタリックボディの注射器をおもむろに取り出し、薄いブルーの液体が入ったアンプルをセットする。


 両脇からカンゴロイドに羽交い絞めされ、自由を奪われた遠流に近づく。


「何をするつもりだ……」遠流は必死にもがく。


 女医が不敵な笑いを浮かべながら、遠流の首筋、青白く浮かんだ頸動脈に針を突き立てた。


 薄れていく意識のなか、遠流は最後の力をふりしぼり、ベッドに眠る恋人に呼びかけた。


「佳世……」


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