ームゲンなノベルのフラグメンツー 01.
01.
真っ白なベッドの上で彼女は静かに眠り続けていた。
凍りついたような青白い横顔。わずかな呼吸にシーツの下でかすかに、だが規則正しく、形のよい胸が上下している。
ベッド脇のパイプ椅子に腰かけ、遠流はずっとさっきから長いあいだ、彼女の横顔をじっと眺めつづけていた。自分にはほかにどうにもなすすべがない。ただ見守りつづけるだけだ。
そっと手を伸ばし、彼女の頬に触れてみる。かすかなぬくもりが指先に伝わってくる。
「佳世……どうして……」
突如はげしい思いに突き動かされ、遠流は立ち上がった。勢いですわってたパイプ椅子が音をたてて倒れる。
彼はその椅子の背をつかんで思いきり振り上げる。
そのまま病室の窓めがけて振りおろした。2度、3度。
ガラスが割れることはなかった。ひびすら入らなかった。
窓の外は無数の星がちらばる闇だ。特殊ガラスに憔悴しきった自分の顔が映りこんでいる。
「こんな閉ざされた空間、俺がぶちやぶってやる!」
遠流は低くつぶやくと、さらに何度もパイプ椅子をガラスに打ちつける。鈍い音が何度も病室に響いた。
部屋の外の廊下で神経を逆なでするような警告ブザーが鳴り響く。
バタンと音をたててドアが開き、二名のロボット看護助手が入ってきた。
彼らは通称カンゴロイド。アンドロイドよりも数段スペックが落ちる単なる使役ロボットだ。
彼らの頑丈なアームが両脇から遠流をはがいじめにする。遠流は全身の力で暴れ、自由になる脚で手近のパイプ椅子を蹴りつけながら叫んだ。「離せ、このポンコツのクズ鉄ども!」
ロボットたちと遠流との激しい争いがしばらく続いたが、ベッドに横たわる佳世が目をさます気配はなかった。
少し遅れて、病室の入口に、白衣をまとった若い女性が立ちはだかった。
遠流をやや上回る上背だ。180センチはあるだろうか。
「かなり興奮してるわね」
彼女は腕を組みながら暴れる遠流を冷ややかに見つめ、ついでその視線をベッドの上で眠る佳世に移し
「いったいどっちが患者だか、わかりゃしないわ」
皮肉っぽいため息をつく。
「このヤブ医者!」
遠流は憎悪で顔を歪め「はやく佳世をもとに戻せ!」
「ものには頼みようってあるんじゃなあい?」
女医はおもむろに手にしていた薄い金属のケースを開く。銀色に鈍く光るメタリックボディの注射器をおもむろに取り出し、薄いブルーの液体が入ったアンプルをセットする。
両脇からカンゴロイドに羽交い絞めされ、自由を奪われた遠流に近づく。
「何をするつもりだ……」遠流は必死にもがく。
女医が不敵な笑いを浮かべながら、遠流の首筋、青白く浮かんだ頸動脈に針を突き立てた。
薄れていく意識のなか、遠流は最後の力をふりしぼり、ベッドに眠る恋人に呼びかけた。
「佳世……」