第八話 未知との遭遇
フタガ山林に入ってしばらく歩いているとアベルハルがトイレに行かないか?と聞いてきた
「いきなりなんでヤンス?ハッ!まさかオイラを無理やり手込めにしようと・・・」
「違うっての。この先に村があるんだがそこまで半日はかかるからな、早い目にしておこうと思ってな」
「なるほど、なら行っとくでヤンスか」
道を外れ、近くを流れている川に着いた途端にアベルハルは紙と鉛筆をだし、何かを書き出した
『何者かにつけられている』
それはテイジにもわかっていた。何故なら・・・
「も~、早くしてよね!」
・・・あれだけ大きな声に、茂みからピョコンとウサギの耳が出ていれば誰だって気がつく
(頭隠して尻隠さずならぬ頭隠して耳隠さずッスね)
『どうする?』
テイジは声を出さずに
「任せるッス」
と言った
(だいたい15mってところでヤンスし・・・4倍で行けるッスかね?)
テイジは少しだけ力を入れて呟いた
「4倍加速魔法」
体が青いオーラに包まれた途端にテイジはその場から消えた
「えっ、なにが起こったのよ!」
そう叫び茂みから出た時、ウサミミ少女は後ろに気配を感じ振り返ろうとしたとたんに首に鈍い痛みが走り気を失った
「4倍のスピードで当身してしまったッスけど・・・死んでないでヤンスよね?」
テイジは、痙攣しながら倒れている少女を心配そうに見下ろしていた
見た所歳は16・7だろうか?黒い髪のショートヘアーで頭のてっぺんからウサギの耳が生えている以外は人間と変わり無さそうだった
この少女をどうしようか悩んでいると川からアベルハルが水筒に水を入れて持ってきた
「取り敢えず水かけてみるか?」
「ちょっと待つでヤンス。一応逃げださないように縛っておくでヤンス」
アベルハルの鞄からテント用のロープを取りだし、女の子を木に縛った。例え逃げだされても加速魔法が有るので逃げることは不可能だろうが
木に縛り付けたあとテイジは女の子の体をゆすって起こそうとした
気が付く気配は無いので水を顔にぶちまけてみた
「冷たぁ!」
「気が付いたでヤンスね」
「いきなり何すんのよ!って、あれ?動けない・・・」
「ちょっと聞きたい事が・・・」
テイジが質問しようとすると女の子はとんでもない事を言い出した
「やめて!私にひどい事するつもりでしょ!◯◯◯とか、×××とか!」
・・・もしや頭の痛い子なのだろうか?気のせいか頬が紅潮し、息も上がっているようだ
すかさずアベルハルが反撃にでた
「そんな事はしないさ。何故ならオレはホモだからな」
ドストレートに言いやがったよこいつ。ほらもう、女の子だって引いて・・・あれ?気のせいかな、オイラとハルさんを交互に見て更に息を上げている様な・・・
「そう、残念だわ。あなた達がそんな関係なら私を◯◯◯する事は無いわね」
いや、違うよ?ハルさんはそうだけどオイラはノーマルだよ?
ねぇ、ハルさん?・・・ってこの女の子もアッチ系の人なのかよ
「そうだ、誰も俺たちの愛の中には入れないんだ」
アルェー?何で否定してくれないの?何、外堀から埋めていくつもりなの?もうショックで語尾付けてないよオイラ
「ハルさん・・・勝手な事言わないで欲しいでヤンス」
「チッ・・・済まないな、さっきのは冗談だ」
今舌打ちしたよね?あぁ、カッコいいハルさんが崩れていく・・・
「じゃあやっぱり私を◯◯◯するつもりなのね!」
はいそこの君、顔を輝かせながら言う事じゃないよそれ。ってか状況説明をオイラに任せて文章は何処へ行ったんだ・・・いい加減疲れてきたでヤンス
流石に変態二人に疲れた様でテイジはぐったりしていた
「そんな事しないでヤンス。ただなんで後をつけてきたのか聞きたいだけでヤンス」
女の子は少し残念そうな顔をして渋々話始めた
「いやね?最近人間が戦争するって噂があるのよ。そんな時に獣人族領に入ってきたから、工作部隊かなーなんて思ったのよ」
案外マトモな考えで後をつけていたようだ
「そして後をつけてあわよくば◯◯◯な展開になるかなーって」
前言撤回。やっぱりマトモじゃない、変態だ
「えーっと・・・オイラ達はただの旅人ッスよ」
「どうやって信じればいいのよ?嘘かも知れないじゃない」
確かにその通りだ。どうやって信じてもらえば良いのだろう
「どうすれば信じて貰えるんだ?」
「取り敢えず私を自由にしてくれない?」
言われた通りに紐をほどくと、女の子はしゃがんだと思ったら消え、砂ぼこりだけが立ち昇っていた
「兎人大跳躍」
上から声が聞こえ見上げるとなんと女の子が20m位上空を飛んで、いや跳んでいた
「な、なんて跳躍でヤンス!」
「しまった、忘れていた!獣人達は俺たちのユニークスキルに該当する特殊能力を全員持っているのを!」
「えっ、ユニークスキルに該当って・・・それヤバくないでヤンスか?」
なんということだろう。まさか獣人全員がユニークスキル持ちとは、もうそれではユニークではなくコモンスキルではないか
などと考えていると再び上空から声が聞こえてきた
「とりあえずあなた達の事はレオナム様に報告しておくわ。じゃーねー」
「あっ、待て!」
「兎人超蹴進・空」
当然聞き入れて貰える訳もなく、女の子は空を蹴って飛んで行ってしまった
そしてその場にたたずむテイジとアベルハルであった
(まさか跳ぶとは思わなかったでヤンス。加速魔法を使ったジャンプでもあそこまでは無理ヤンスね)
もっとも、届いたとしても空を蹴る技が無いのでどのみち逃げられていたことだろう
厄介な事になったかもしれないと思うテイジであった