第七話 新たな歯車の追加
テイジとアベルハルは関所前まで来ていた
「いよいよ獣人族領ッスね」
「ああ、道中のモンスターの大群の事は忘れて心機一転、新天地へ行くぞ」
そう、実はアベルハルが仲間になった後、50は居ようかというようなアサシンビートルに襲われていたのだ
アサシンビートルはその名に恥じぬ隠密性を持っており、普通のカブトムシと同じ大きさで角だけが大きく、音もなく飛びながら敵を突き殺すという恐ろしいモンスターである
テイジたちが関所を通ろうとすると、門番に呼び止められた
「ああ、待ちたまえ君たち。今は通行禁止だよ」
「どうしてでヤンス?」
「王国から御触れが回って来たんだ。何でも近々近隣国に攻めるから誰も通すな、とね」
「戦争か、穏やかじゃないな」
「どうにか通して貰えないッスか?」
門番は少し悩んだ様子で
「通しても良いけど、死んでも自己責任だよ?」
「構わないッス。冒険者なら当たり前でヤンスし」
門番は呆れた様子で首を軽く振ると横を向いてしまった
「な、何してるでヤンス?」
「・・・フ、いい男だなアンタ」
アベルハルはそう言いながら関所を抜けようとしていた
「早くこいよテイジ」
「で、でも」
「その兄ちゃんは、見ていない内に越えろと言っているんだ。見ていない者に注意は出来ないからな」
なるほど、そういうことであれば遠慮せずに通らせてもらおう
「ありがとうでヤンス」
通り際にそう言うと、門番は少し照れくさそうに笑った
時を同じくして・・・
茶髪のショートカットの女の子が手を振りながらこっちに走って来ていた
「あーおーいー!」
「・・・あ、かなちゃん、廊下は走ったら危ないよ」
「お、心配してくれるの?やっぱり葵は優しいねー!」
「アハハ・・・」
私は力なく笑っていた・・・彼が消えてしまったあの日から私の中の大事な何かがなくなってしまったかのように、何をするにもやる気が出ないのだ
「・・・アイツが消えて良かったじゃないか。鬱陶しがっていたじゃない」
そう、私はおやびんとか呼ばれたくなかったし、彼の前であの性格を演じるのも少し鬱陶しかった。でも優しかった、離れたくなかった
「かなちゃん?いくら何でも言い過ぎだよ」
「・・・ごめん」
何処に行ったの?禎司君・・・
回りにいた人の話ではトラックが突っ込んできて、逃げた様子もなかったのに、血も死体も見つからなかったらしい
「生きているならもどって来てよ・・・」
「・・・い、・・・おい!・・・葵!」
ふと我に変えると友達が何故か叫んでいた
「早くこっちに来い!」
「もー、どうしたの?かなちゃん」
かなちゃんと呼ばれた女の子は慌てているようだった
「足元みろ!足元!」
「えっ?」
言われた通り見てみると足元から謎の光と魔方陣が出ていた
「な、何これ!」
急いで魔方陣から出ようとするが、光の壁に阻まれ出ることが出来なかった
「いや!助けて!誰か助けてよ!」
しかし、その叫びとは裏腹に魔方陣にどんどん沈んで行った
「助けて、禎・・・司・・・くん」
そして魔方陣に完全に引き込まれてしまった
気がつくと葵は石造りの部屋に居た
「ようこそ・・・異世界の勇者よ。私の名はノーランド・クレイマール。クレイマール国第37代目国王である。」
「ここが獣人族領・・・何て言うか人間族領とあんまり景色が変わらないでヤンス」
「まあな、獣人族は基本は人間とあんまり変わらないからな。生活風景も変わらんし、違うとすれば身体能力と見た目位だろう」
なるほど、自分は思っていた以上に異世界に幻想を抱いていたのかも知れない
「そういえばハルさんは王国が何処にあるか知ってるでヤンス?」
「大まかな位置ならな。何せ地図でしか見たことが無いからな」
アベルハルの記憶を頼りに首都、レクアール王国へと歩き出した
「あれは・・・人間?」
ピョコン、と茂みから兎・・・いや、ウサミミを付けた女の子が覗いていた
「何をしに来たのかしら・・・はっ、まさか戦争のために破壊工作をしに来たのでは!こうしちゃいられないわ!」
そういうなり、茂みから茂みへとこそこそ移動しながらテイジたちを付けて行った
「王国まで何kmくらいあるでヤンス?」
「今のペースだと大体10日って所だな」
山を降りながら他愛ない会話をしていたテイジたちだが、テイジはステータスがどうなっているのか気になっていた
(オイラだけじゃなくてハルさんのも知っておきたいでヤンスし、もしも怪しい人なら逃げたいでヤンス)
しかしどうしてステータスを見たものか?
ギルドクリスタルを使う訳にもいかないし、直接聞くのもあれだしなぁ、とテイジは考えていた
「・・・あっ」
不意に思い出した。自分のユニークスキルを何故忘れていたのだろうか
「ん、どうした?」
アベルハルが不思議そうにこちらを見ていた
「あぁいや、何でも無いでヤンス」
「そうか?何かあったらいつでも言えよ」
なんとか誤魔化したので、早速作ってしまおう。
しかしこのスキルはどうやら細かく設定を作れば作るほど微妙に消費レベルが少なくなるようだ。重力操作と異空間生成にレベルの違いが出たのはおおざっぱに作ったのと、僅かながら設定を作った違いのようだ
(さて、魔法名は・・・『情報開眼』でいいでヤンスかね)
そんな感じで魔法を造り始める。効果は任意で解除、但し時間が経つと一定時間ごとにMP消費、目に見える者のステータス、自分自身のステータスを見ることが出来る、魔法の発動には発音を必要としない、などと考え完成した
(さて、んじゃやってみるッス。『情報開眼』!)
少しの疲労感の後に目の前に自分のステータスが浮かび上がった。初めてしっかりとした魔法を作った気がしてとても嬉しかった
(成功でヤンス!えっと、なになに)
NAME テイジ・イナツキ
SEX MALE
AGE 17
LEVEL 14 NEXT 17450/28340
HP 210/320
MP 2000/2400
HEAD ---
BODY ボロボロの襟詰め学生服
LITE ベアラビットの皮のグローブ・スチールブレード
REFT ベアラビットの皮のグローブ
LEG ボロボロの学生ズボン
FEET ボロボロの運動靴
ACCESSORY ---
SKILL・MAGIC 『創造魔法LV.2』『自己流武術LV.3』『重力操作LV.2』『異空間生成』『加速魔法LV3』『情報開眼』
TITLE 子分気質・異世界の勇者(仮)・駆け出し冒険者・見習い創造主・コボルトハンター・速き者・ホモに好かれた男
やっぱりMPがとんでもないことになっているではないか。称号も増えているが、嫌な称号もある
(称号は一旦置いておいて、なんでMPばかりこんなに高いんでヤンスか?)
怪しいのは称号なので色々調べてみた。すると原因と思わしき称号があった
(えっと・・・うん、多分これでヤンス)
それは『見習い創造主』だった
この称号はMPを12倍にするらしい。正直そんなにいらないのであるが・・・
(まあ、多いに越した事はないでヤンスからねぇ)
次は本命、アベルハルだった
NAME アベルハル・ミスタルド
SEX MALE
AGE 25
LEVEL 36 NEXT 28540/57250
HP 1260/1420
MP 260/260
HEAD ハチマキ
BODY 白い武道着
LITE 包帯の自作グローブ
REFT 包帯の自作グローブ
LEG 黒い武道着
FEET 疾風の靴
ACCESSORY 力の護符
SKILL・MAGIC 『キナスレス流武術LV.6』『衝撃拳LV.4』『衝撃掌LV.4』『内爆掌LV.3』『空気拳LV.2』
TITLE 武の道を歩みし者・鬼神・ホモハーレム・強き武人・王宮戦士・大会優勝者
いたって普通のステータスだった。拍子抜けである
(しかし・・・なんでヤンスかね?鬼神って・・・)
不安を抱えたままテイジはレクアール王国を目指し、フタガ山林へ入っていった