第六話 新たな仲間
目の前で小さな女の子が泣いている。
「どうして泣いているの?」
僕はそう訪ねると女の子は喘ぎながら
「パパとママが・・・ヒグッ・・・死ん・・・グス・・・死んじゃったの・・・」
何故だろう、この子が泣いているのを見ると僕も悲しくなる。でも僕にはどうすることもできない
「泣き止んで」
ありきたりな言葉しか掛ける事が出来ず、目の前の女の子は泣き止んでくれない。どうすれば泣き止んでくれるだろう
「ゴメンね、ゴメンね」
女の子は泣きながら僕に謝る。なぜ謝るのか分からなかった。でも自分のする事は分かっていた。それは・・・
「・・・な、泣き止んで欲しいでヤンス、おやびん!」
僕がそう話すと女の子はキョトンとした顔で僕を見てくる
「えっ・・・何その喋り方?」
女の子は少し喘いでいるが涙は止まったみたいだった
「ぼ・・・じゃない、オイラはおやびんに泣いて欲しくないでヤンス!パパとママが居なくなって悲しいのなら・・・オイラが漫画の子分の様にずっと側に居るでヤンス!だから泣き止んで欲しいでヤンス!」
僕はこの日、女の子と太陽に誓った。一生側に居るから・・・何があっても側に居るから。だから一生笑っていて欲しい
「はっ!」
テイジは見知らぬ所で目が覚めた。パッと辺りを見回すと岩穴の中らしい
「・・・懐かしい夢でヤンス」
いっそのこと異世界とかの事も夢であって欲しかった、と思わずにはいられなかった
「ここはどこでヤンスかねぇ?」
と、悩んでいると後ろから声がした
「お!気が付いた様だな。良かった良かった」
振り返るとそこには漫画でしか見たことの無いあの骨付き肉を両手に持っているアベルハルがいた
「あ、ハルさん。ハルさんがここまで運んでくれたでヤンス?」
「ああ、いきなり倒れるからビックリしたぞ。さっきの魔法の負担か?」
「面目ないでヤンス。そう・・・でヤンスね、5倍なんて初めてやったもんで体が付いて来なかったんだと思うでヤンス」
「ふうん・・・」
何故か変な目で見ている気がするのは気のせいだろうと、テイジは気にしなかった
「ま、いいか。ほら、疲れたら飯を食うのが一番だぞ」
と、アベルハルは肉を渡してきた
「これ何の肉でヤンス?」
「こいつはマイトワイバーンの尻尾の肉だ。常に動かしている部位だから結構旨いぞ」
「マイトワイバーン?」
「マイトワイバーンはワイバーン種の中でも一際デカイ奴でな、この山の1/3位の高さの紫のワイバーンだ」
(確かこの山の高さが確か1400メートル位だから・・・約460メートル、デカ過ぎでヤンス!」
「途中から声に出てるぞー」
約460メートルと言えば某光の巨人や某人形決戦兵器の約11倍の高さであり、東京タワーより127メートル大きいのだ。
「どうやってそんな大きいの倒したでヤンス?」
「なーに、どんな奴でも心臓か核を潰されれば死ぬさ」
(答えになってないでヤンス)
話が一旦終わるとテイジは肉にかぶり付いた
肉は柔らかく、かぶり付いた瞬間肉汁が弾け飛び、しっかりと肉の味がしている上に、ほんのりと塩胡椒の味がして食べやすかった
「ハハハ、旨いだろう?」
「最高でヤンス!こんなに旨い肉は初めてでヤンス!」
(白ご飯があったらもっと良いんスけどね)
ふと、アベルハルは思いだしたように質問してきた
「そういや、獣人族の国に行くんだっけ?」
「ングッ!」
この質問でテイジは喉に肉を詰まらせてしまい、ちょっとした騒ぎになってしまった
「だ、大丈夫か?」
「ゲホゲホッ、だ、大丈夫でヤンスよ」
(でもどうするッスかね。帰る方法が無いわけで・・・いっそのことこの世界に住むでヤンスか)
ふっ、とさっきの夢が頭に浮かんだ
(いやいや、何を考えてるでヤンス!何がなんでも絶対帰るでヤンス!)
「んで、獣人族の国に行くのか?」
「そうでヤンスね。自分の知らない魔法が在るかも知れないでヤンスし」
そう言うと、アベルハルは少し笑ってこう言った
「よし、なら俺はお前に付いて行こう」
・・・は?いきなり過ぎないか?
テイジは一瞬固まった
「何で付いてくるのか?って顔だな」
「そりゃそうでヤンス。何で会って半日も経って無いのに付いてくるでヤンス?」
アベルハルは真剣な顔になった
「簡単な事さ。お前に惚れたんだよ」
「・・・はぃ?」
再びテイジは固まった
(惚れた?イヤイヤ、多分この惚れたは男気に惚れたって事ですよね?そうだと言ってくれ)
テイジは脂汗をダラダラかきながら真剣にそう願った
「ふむ、こう言った方が分かりやすいかな?」
しかし、次の一言でテイジの願いは打ち砕かれた
「や ら な い か」
(逃げたい!)
そう思うテイジだが、洞窟の出口はアベルハルの後ろだった
(ああ、残念!オイラの冒険はここで終わってしまった・・・ってアホか!)
自分で自分にツッコミ入れてどうする
(でも本当にどうする!新たに魔法創るか?いや、レベルが分からないから創れないときのデメリットがでかすぎる!)
テイジは焦りすぎて語尾を忘れている
「・・・フフ、残念だ。」
不意にアベルハルが笑った
「な、何がでヤンス・・・?」
「どうもその様子だと俺はフラれたみたいだな、ってさ」
本気で残念そうに言っているようだ
「なぁに、俺は無理やり関係を作ろうとは思ってないさ」
(良かった。オイラがあー!な展開は無いでヤンスか)
心の底から安心したが、続けてアベルハルはこう言った
「でも、お前に付いて行くのは変わらんからな」
(再び危機が!)
「付いていくのは惚れたってのもあるが、もう1つ、アンタに付いて行ったら面白い事が起きそうだがらな」
「面白い事でヤンスか?」
「ああ、何て言うかな・・・退屈しそうに無いってのかな。そんな感じだ」
その気持ちはテイジにもよく分かる。それはロマンを追いかける漢の気持ちに似たものなのだ
「人生に刺激が欲しいんでヤンスね。・・・ヘンな事しないって約束出来るなら付いて来ても良いでヤンスよ」
そう言った途端アベルハルの顔が明るくなった。代わりに次の一言でテイジの顔は青くなった
「ああ、約束するさ。だけど・・・いつかお前を落としてやるからな」
(やっぱり止めようかな)
一癖あるアベルハルを仲間に加え、テイジ達は国境の関所を目指し再び山を登り始めた
その後ろ姿を見つめる小さな人影が居た
(これで・・・一人目・・・頑張って)
影は小さな声で呟いたが誰も聞いてはいなかった