Episode4 孤独ナ少女
旧友カナリアとの再会を果たしたサフィ達は別荘の中に案内された。しかし街の外と同様、カナリアとサフィとセクトの他に人の姿はなかった。ここまで広い家ならば使用人の一人ぐらいいても可笑しくはない。
「別荘の管理を任せていた従者は、あたくしの家が滅びたと聞いて逃げ出したそうよ。本当、愚民っていうのは忠誠心の欠片もないですわ」
嫌味ったらしくカナリアが言ってサフィは苦笑いした。カナリアが目の前の装飾のされた扉を開ける。そこには、豪華な金色のシャンデリアが目立つ客間があった。部屋の中央にある大きな大理石のテーブルが高級感を放っている。
「綺麗な部屋ね!」
自慢げにカナリアは微笑する。
「ありがとう、サフィ。公爵家の娘である貴女にそう言って頂けて嬉しい限りよ。……まずは座って頂戴」
どこか棘のある言い方のカナリアに促されて、また苦笑いするサフィは椅子に座った。隣にセクトが立つ。当のカナリアは大理石のテーブルを挟んで向かい側の席に着いた。
「そちらの騎士様も席に着いてよろしくてよ」
セクトは首を横に振った。
「いえ、私はこのままでけっこうです」
護衛が座る必要はないと言いたげだ。ふふっとカナリアは笑った。その瞳は何を考えているか全く読めない。サフィの方にカナリアは目を向けて言った。
「貴女の従者はとても優秀みたいねぇ。あたくしの家にもこの人のような方がいれば、あたくしが孤独になってしまうなんて事はなかったのに」
サフィとセクトは気まずくなり閉口する。カナリアは愉快そうにもう一度笑った。
「でも今は友達の貴女が来てくれた。もう孤独ではないわ」
そう言うとカナリアは手を差し出す。その手をサフィは笑顔で強く握った。
「ええ、私も貴女に会えて本当に嬉しい。」
カナリアもサフィの手を握り返すとゆっくりと立ち上がった。
「どこへ行くの、カナリア?」
「再会を祝してワインでも飲みましょう。」
嬉しそうな様子のカナリアが部屋から出て行く。その様子を見てサフィは首を傾げた。
「カナリアってあんな人だったかしら?」
「カナリア様のご様子が少し……変に感じましたが」
セクトの言葉に同意するようにサフィは頷く。
「もっと彼女は優しかった気がするのだけれど……」
「あら、何を話しているのかしら?」
いつの間にか三つのワインの入ったグラスを乗せたトレーを持って、カナリアが扉の前で笑みを浮かべ扉の前に立っていた。
「なんでもないわ」
驚いたサフィはカナリアに動揺を悟られないよう無表情で返す。セクトも無言で返した。
「そう、じゃあ早速頂きましょう?ロムネス地方の物だから味わい深く美味よ。」
そのワインは美しいガーネット色にブラックベリーの匂いが上品に香る代物だった。カナリアは席に座り、テーブルにトレーを置いてその中の一つを手に取る。サフィも、残された二つの内の一つのグラスを取った。
「貴方もいいのよ? 騎士様」
「いえ、遠慮させて頂きます」
キッパリと言い放つセクトを見てカナリアは溜め息をついた。
「つれないのねぇ……。まぁ、いいわ。二人で飲みましょ? サフィ」
「え、ええ。」
二人の少女はグラスを掲げる。乾杯。硝子の軽くぶつかり合う、透き通った音が辺りに木霊した。先にサフィがグラスを傾けてワインを口に運ぼうとする。その時、カナリアが微かにほくそ笑んだ……。