獣狩り
木々をへし折り飛び出てきたのは動物ではなく獣だった
咄嗟に叫んだ声を聞いて伏せたフィリナリスの手を掴んで引き寄せ背中の狩斧を片手で構える
構えて再度獣を見るとそれはアーマーベアとファングボアだった、どちらもリストの中ランクに位置する獣だ
アーマーベアは4足の状態でも全長5mほどだろうか、ファングボアの方はアーマーベアよりも少し大きく全長6mほどだ、互いに向かい合い睨み合っている
「フィナ!戦闘準備!」
「うん!」
戦闘準備の声にはっとして鋸鉈を構える
二人が武器を構える前でおそらく縄張り争いをしていた2匹はこちらに気づいてはいないようだった
「私が熊の方行くから猪頼んだ」
「え!?片方ずつじゃなくて!?」
「フィナもいいとこ見せてよね」
「え、えぇ!?」
そういうフィリナリスをおいてアーマーベアへと飛び掛かる
斧を後ろ手に左手で木を掴み更に加速してアーマーベアの右腕を斬り跳ばした
勢いのまま木に飛びつき掴まる
「グゥルゥアアアアアアアアアアア!!!?!!?!」
腕を斬り跳ばされたアーマーベアが絶叫を上げて標的をこちらに変えた
ファングボアの方もこちらに気づくがその後ろにはフィリナリスが両手で鉈を振り上げていた
「たぁあああああ!!!」
フィリナリスの声に気づいて振り返ったファングボアの脳天に鉈が振り下ろされゴグンという音とともにファングボアが悲鳴を上げる
「ピギィイイイイ!!!!!」
額から大量の血を流しながらファングボアの標的がフィリナリスに変わる
「さぁ!ショータイムだ」
言うが早いか木を蹴りアーマーベアへと飛びながら斧を両手で持ち柄を伸ばす
飛び掛かるマオンに対しアーマーベアは残った左腕を振り下ろし叩き落とそうとする
「そうするしかないよね」
人に振るわれれば一瞬でミンチにできる腕が迫ってくるがそれに合わせて斧を振り左手に持ち替え右手で熊の腕を掴み振った反動で引き絞られた斧をアーマーベアの首へと叩き込んだ
首を無くしたアーマーベアの体が崩れ落ちるのを確認してフィリナリスの方を見ると向こうも決着がつくところだった
突然頭をかち割られたファングボアは目の前の敵に向かってその牙を振るうがフィリナリスはそれを躱し振るわれた牙に向かって鉈を振りぬいた
それによってファングボアは振った方とは逆の方向へ頭を弾かれる
フィリナリスはその横に回り込みファングボアの後頭部へと鉈を振り下ろす
その衝撃に耐えきれずファングボアは脚を折るが頭を振りフィリナリスを離れさせた
「結構丈夫いな…」
距離を置いた状態で向かい合う
見ればマオンはすでにアーマーベアを倒したようだった
「こっちも終わりにしないと」
そう呟いて鉈を持ち直し鋸をファングボアに向けて構えた、その瞬間にファングボアが突進を始めた
フィリナリスはそれを躱し横を通り過ぎようとするファングボアに向けて両手で持った鋸を押し当てる
彼我の距離は短い物ではあったがファングボアの突進の勢いは十分だった
ファングボアは自らの勢いで鋸により斬り千切られ血を振りまきがらもブレーキを掛け振り向き再度突進をしようとしたところで崩れ落ち動かなくなった
脳天を割られ後頭部を割られ横っ腹を捌かれたファングボアは獣特有の回復が追い付かずに失血により息絶えたようだ
「お疲れ」
「はい、お疲れ様です」
「最後の突進のよく吹き飛ばされなかったね、横っ腹に鋸押し当てるだけでも結構力いるでしょ」
「いえ、この鋸がよく斬れるようでさっくりといきました」
「見かけによらないもんだね、んじゃ、持って帰ろうか」
「そういえばそうでしたね」
「狩りの証はファングボアは牙と耳でアーマーベアは手と耳だからそれは分けとくよ」
「ほかの部分はどうしますか?」
「血抜きだけして簡単にばらしたら縄で引きずっていくよ」
「雑だね…」
「獣が出るのは予想外だしこの血の臭いでほかの獣が来そうだし」
「そういうものなんだ」
「特に肉食のとか血に敏感なのがね」
「うへぇ~」
「んじゃばらすよ」
そうして斧や鉈でファングボアとアーマーベアを解体し縄で縛っていく
縛り終わった時には街を出てからおよそ4時間は経っていた
「さっさと帰らないと晩御飯遅くなっちゃうね」
「ここからちょっと真面目に走れば行きと同じ1時間ぐらいで戻れるから大丈夫だいじょーぶ」
そんなことを言いながら笑っていると二人の居る場所に影が差した
それと同時に周囲にアーマーベアやファングボアの物よりも濃く、腐敗したような臭いが漂い始めた
「フィナ、先に言っておくごめん」
「なんかこれやばい?」
「いや、ちょっと晩御飯遅くなる」
そうため息をつきなら振り返るとそこには巨大なイエティとトナカイを足してがりがりに痩せさせたような全高10mほどの異形の化け物がいた
それはリスト上位に位置する獣狩りの獣、キングディアファングだった
普通はもっと人里から離れた山奥で獣を主食とした山の主のような存在だ
二人が見ている中でキングディアファングは大きく雄叫びを上げてその巨大な拳を振り下ろした
「オォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
振り下ろされた拳をフィリナリスを抱えて避ける
「ちょっとこれは面倒かも、一人でやるわ」
「え!?」
「ここで肉見てて」
言うが早いかアーマーベアとファングボアの肉の元にフィリナリスを降ろし斧を構え柄を伸ばす
「さぁ、獣狩りの時間だ」
キングファングディアは跳び掛かるマオンをに気づき腕を振るい叩き落とす
「っつぁったいなぁ~」
叩き落とされ地面に激突したがスキル向力奪与で自分が受ける衝撃を地面へと向けることで無傷なのだが痛い気がするのはなんとなくだろうか
立ち上がり再度キングディアファングへと跳ぶ
同じように腕を振るってくるが今度は熊へした時と同じように腕に取りつき今度は首ではなく拳へと斧を叩き込む
叩き込まれた拳は斧によって裂かれ血が噴き出し、キングディアファングは腕を押さえ悲鳴を上げる
そこから腕を駆け上りキングディアファングの目の前へと飛び出す
全身を捻り飛び出した勢いのままに全力で斧をその側頭部へと叩きつけると骨が砕け肉がひしゃげる
そのまま斧を振りぬき横になぎ倒される標的にさらに追い打ちを仕掛けるべく落下しながら今度は縦に振り下ろす、肉がつぶれる音がしてキングディアファングは動かなくなった
「うわくっさ、しかも硬いし、帰ったら念入りにお風呂入らなきゃ」
「マオ!大丈夫!?」
「ん~大丈夫大丈夫、スキルもちゃんと発動したしデカブツ相手にも戦えたし、あとはさっさと帰ってギルドに報告して帰ろ帰ろ」
「うん!」
そして今度こそアーマーベアとファングボアの肉を引き摺って街へと帰っていくのだった
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「なに?街の近くの山にキングディアファングが出ただぁ?」
「はい、本日狩人ギルドに登録したばかりの者から報告が上がっており確認したところ事実のようです」
「そのキングディアファングはどうしたのだ」
「その者らで倒したようです」
「今日なったばかりのなり立てがか?」
「はい、どうやら元より腕が立つようです」
「そうか、この件はほかの支部にも知らせ、原因を調査しろ、あの山に獣狩りの獣が出たとあっては新人が育たん、冒険者ギルドにも依頼を出しておけ」
「はい、了解いたしました」