蕾凰真霧について 外伝
本当に、ただの外伝です。
特に意味はありません。
もうちょい続くかも
蕾凰 魔斬
名字も去ることながら、
かなり物騒な名前でしょ?(笑)
僕だったはずの名前さ。
文字通り、魔を斬るための子。
正義感とか、そういうものじゃなくて、
ただただ本当に、魔を斬るためだけの。
それ以外に、何の要素もない。
家族としての愛情も、その夫婦のなかでも愛も
何一つだってない。
ああ、ひとつあったかな?
嫌悪感。
母は、僕を見るたび、それはそれは苦しそうな顔をした。
そりゃそうでしょ?
好きでもない男とヤって、そっからできたよく解らない生き物がうろうろしてるんだ。
それも自分の家のなかで。
さぞ、気持ち悪かっただろう。
もちろん、その男と籍を入れてることも、同居してることも。
ま、その男はあんまり帰ってこなかったから、まだましだろう。
でも、僕はずっと居る。
休まるときなんてないんだ。
そのストレスは、何処にぶつけることもできなくて
密閉されたそのコミュニティでは誰に頼ることもできず。
ただただ、溜まっていった。
そのうち…ま、言わなくったって解るでしょ?
そのストレスは僕にぶつけることしか出来なかった。
僕はそれを甘んじて受け入れた。
当時、幼稚園年中だったかな。
よく耐えた方だと思うよ。うん。
受け入れると言っても、痛いものは痛かった。
痛かった。
痛かった。
苦しかった。
殴る蹴る、水責め?(笑)、死なない程度の切り傷。
そのうち僕は、あらゆるものへの興味を失っていった。
周りに居た子供、先生、
親戚
父
母
……………自分。
自分への興味を無くした僕は、痛みを忘れた。
悲しみを
寂しさを
苦痛を覚えていなかった。
喜びも、幸せもね。
そんなある日、適当に散策して森に行き着いたとき、俺は天使に出逢った。
案外 速く迎えが来たものだと思ったけど
その天使は、かなりキツかった。
「何してんの」
と、天使は凍りつくような視線と声を発した。
その銀色の瞳と、恐ろしいほど白い肌に、僕は恋に落ちた。
「こっちに来なさい。」
うっかり恋に落ちたせいで、一斉に自分への興味を取り戻してしまった。
恐ろしい天使だと思った。
美しく優しく愛しい天使。
僕はその天使の言う通りについていった。
そこは、光の場所だった。
どうしてだか、そこだけ木が生えていなくて、そこだけ太陽の光に照らされていた。
そこに座る天使もまた、美しかった。
でも、その天使は結構キツいから、無理矢理、座らされた。
「…アンタ、名前は?」
天使はその小さな口で、キツい言葉を放った。
「………まきり」
口の中が切れていて、一言しか喋れなかった。
一言でも痛かった。
その痛みで、頭がズキズキする。
その痛みに耐えられそうもなくて、また自分への無視したくなったけど
その天使がいるせいで、どうにも興味が失えなかった。
「私はかれん。
懸ける、憐れって書くの」
さすが天使は頭良いな…と思った。
全然解らなかったけど。
それから天使は、黙々と治療してくれた。
天使は不器用で凄く痛かった。
でも、一生懸命なのが解って、心臓が暖かくなった。
僕は生まれてはじめて嬉しいという感情を知った。
「また来なさい。」
………ああ、なんだ。帰らなきゃいけないのか。
と、僕は絶望したけど、でも次の瞬間にはまた会えるんだ!と嬉しかった。
まるで世界が生まれ変わったように、鮮やかに見えた。
世界は変わったんだと思った。
すべてが…そう、まさに薔薇色だった。
天使と…、カレンと出逢った。
ただ、それだけで。
でも、世界がそう簡単に変わるわけもなく、痛みは続いた。
ひとつ変わったのは、僕が痛みを感じるようにってしまったこと。
それでも、感覚が麻痺してるせいか、殴る蹴るならさほど痛くはなかった。
声が出るほどでもなかった。
そんな日々が小学校高学年まで平気で続いた。
わりと全身傷だらけだったから、学校の人を気づいただろうね。
でも、誰も助けられなかった。
助けられるって言う感覚も、僕にはないんだけど。
とにかく、うちに対して誰も何も口出ししなかったのは、雷の家系が少なかったから。
能力者が不足してたから。
その数少ない雷や能力者を亡くすわけにはいかなかったからだ。
助けて欲しかった。
助けてあげて欲しかった。
…母さんを。
どこかでそうやって叫んでた僕にも、その頃にはすっかり興味を亡くしていた。
どんどんどんどん全てに興味を亡くしていく僕。
それに比例するように、母のそれも大きくなっていた。
ある日、アイロンを当てられた。
アイロン責めっていうのは初めてだったね。
人間、熱いって言うのには弱いらしくて、僕は初めて声をあげて暴れた。
後にも先にも声をあげたのも、暴れたのも、その時だけだ。
その瞬間に母は、ハッと我に返ったみたいに、アイロンを放り投げて家を出ていった。
そのときちょうど、入れ換えに珍しく父が帰ってきたけど、母はそれもふりきった。
父はそれを追うようにまた外に。
誰も居なくなった部屋。
とりあえず、天使の元へ向かった。
カレンが天使じゃなくて能力者なのは、その頃には知ってたけど、僕は今も天使と思ってる。
性格のキツい、ね。
カレンは特大の氷を出してくれた。
……ほんと、死ぬかと思った。
重すぎた。あと冷たすぎる。
すぐ大きさ調整してくれたけどさ。
それから父と母の間に、なにかあったらしく、仲良くなった。
そのことで、僕は表情筋を綺麗に操れてることに気付いた。
僕は二人を笑顔で祝福した。
普通に良かったねと思ったよ?
本当さ。
…うん。あんまり掘り返したくないな。
恨んでるような気もするし、薄情だなと思ってる気もするし、どうでも良いと思ってる気もするし。
どうでも良いでしょ?(笑)
僕の感情論なんてさ。
とにかく、そうして湊が生まれた。
僕なんかよりずっと出来た弟だよ。
父は相変わらず帰りが遅いけど、それでも手伝おうとするようになった。
二人を愛そうとするようになった。
湊は、それにとびきりの笑顔で返した。
母も少しずつではあったが、穏やかになって笑顔も増えた。
一方の僕はなるべく、それらの家族から離れた。
そんなに違和感がないように、にこやかに軽やかに、3人から逃げた。
その頃から、リクホともつるむようになった。
リクホは、気の良い奴だった。
優しい奴だった。
怒るとひたすら怖いけど(笑)
その怒るポイントで、本気でカレンが好きなんだと知った。
「お似合いだね」
それに関してどう思ったかも、良いでしょ?
僕は二人の事を本当に大切に思ってるんだ。
あまり、ドロドロした思いを思い出したくない。
二人は、本当にお似合いだと思うから。