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305号室の世界  作者: 瑞希
あなたと出会えた
3/11

〔木曜の菫〕

「ああ、また来たんだね」

次の日も廊下から教室を覗いて居ると

また、蕾凰らいおうくんに声をかけられた。


「昨日しっかり顔覚えたと思ったんだけど、

 見つけられないの」

視力も記憶力も悪い方ではなかったから

すぐに見つけられる自信があったのに全然見つけられない。


「もうすぐ帰ってくると思うよ」

「ああ、納得。」

蕾凰らいおうくんは女子トイレの方角を見て行った。

まぁ、いくら綺麗な人でもトイレの一つや二つくらい行くよね。

それにしても、私のタイミング悪いなぁ。


「…アナタまた来たの。」

「あ。神氷かみひょうりさん。」

蕾凰らいおうくんの言った通り、すぐに帰って来た。


「何の用」

「何の用…何の用??」

何の用と言われたら、特に用はないけど。

私は神氷かみひょうりさんを知りたいだけで、

いや、下心とかはないよ。

ちょーっと友達になりたいなぁなんて思ってるだけで…。


「カレンに友達になって欲しいんだって」

「そう!それだよ!」

用と言ったらやっぱりそれしかない。

ああ、でも周りの視線と神氷かみひょうりさんの視線が痛い。

めっちゃ見てる。怖い。怖いです。


「どうして…?」

あれ、びっくり。てっきり、はねのけられると思ってたのに。


「えっとね!きっかけはあの絵で、

 綺麗だなぁと思って、どんな人だろうって。

 そしたらこの前かばってくれたから、

 優しい人なんだなぁって」

私は思っている事を身振り手振りで神氷かみひょうりさんに伝えた。

神氷かみひょうりさんは少しだけ目を見開いて、

笑ってくれた気がしたが、すぐに元の顔に戻った。


「そう。でも、見当違いだったわね。」

神氷かみひょうりさんは、私に冷たくそう言うと、

また、教室に帰ってしまった。

蕾凰らいおうくんも私に一瞬笑いかけ教室に戻った。




神氷かみひょうりさーん!」

次の日も私はめげずに会いに行った。

神氷かみひょうりさんは本を読んでいたようで、

一瞬を私を見るとあからさまにびっくりした顔をした。


「アナタ…もう三回目よ!」

「おお、記憶力良い~

 CとBだからね、体育も一緒にならないし。」

私のクラスのB組はA組と合同授業なので

神氷かみひょうりさんと一緒になる事はない。

なのでこうして会いに行くしか接点が作れないのだ。


「そうじゃなくて…。

 昨日冷たい事言ったでしょ…。」

確かに、冷たい雰囲気は持ってるが、

こうして毎回無視もせず、きちんと話を聞いてくれるから、

みんなが言うような氷姫ひょうりひめとはかけ離れてる。


「だって神氷かみひょうりさん優しいし。

 神氷かみひょうりさん休みは何してる?

 私は家で読書かな~。」

昨日のうちに聞くことリストを考えておいたのだ。

さっきまで忘れてたけど!


「え。ええっと。私も読書ね。

 ってそうじゃなくて…。」

「そうなんだ!何読んでる?

 私はファンタジーとか、SFとか、なんか宗教?のやつ!」

神氷かみひょうりさんもなんだ!

良かった。さっそく共通点あったよ~。


「しゅ、宗教?それは読まないけど、

 ファンタジーやSFはたまに読むわ。」

「いつもは何読んでるの?」

「…小難しい本よ。」

「おお、かっこいー!」

なんとなく神氷かみひょうりさんが

話したくなさそうだったから、それ以上聞くのはやめた。


「私はまず、表紙で選ぶからな~。

 小難しい本は手に取ったこともないよ~」

「私だって自分で選ぶときは、絵の好みで選ぶわ」

私は共通点が以外とあるのに少し意外に思って、

二番目の基準を口に出した。


「「それから最初と最後の文を読んで借りる!」わ」

するとなんと神氷かみひょうりさんとハモったのだ!

私はビックリしたのと嬉しさで思わず笑ってしまった。

すると、神氷かみひょうりさんもつられて可愛い笑顔を見せてくれた。


「やぁやぁ、二人とも。

 もうすぐチャイムが鳴るよ」

「あ、本当だ!じゃあね、神氷かみひょうりさん!と蕾凰らいおうくん!」

蕾凰らいおうくんに言われて、私は慌てて教室に帰った。

今日が水曜日だったことも忘れて。




「結局来なかったね。あの子」

「…」

「あの子?」

三人で帰っている時、ふと蕾凰らいおう 真霧まきりがうわ言のように呟いた。


「うん。最近カレンに通いつめてたんだけど。

 三日目でダメになっちゃったみたい。」

「またか!カレン。大丈夫?」

マキリの言葉に、一つ年上の大石おおいし 陸穂りくほ

驚いて立ち止り、私の顔を心配そうに覗き込んだ。


「違うのよ…。今回は、優しい人だった…。」

私は目を伏せて呟いた。

優しい人だったから、余計に私と関わって傷つけたくなかった。

私は神氷かみひょうり家の令嬢。

それだけでも、十分いじめの標的に遭うのに、

美術部のコンクールの一件で、より一層…。


私は令嬢だからあからさまに何かされる訳じゃないけど、

言葉さんのように優しい人は真っ先に標的にされるだろう。

だから、冷たく突き放した…。

ううん。自分が傷つきたくなかっただけかも知れない。


「そう、なんだ。だったら、

 たまたま休んでたとかじゃないの?」

「クラス違うしそこまで見てないよ~」

リクホの言葉に一瞬だけそうかもしれないと思ったが、

すぐに希望を持つだけ無駄だと思いなおした。


「私が嫌になったか友達に止められたんでしょ。

 どっちにしてもこうなるように仕向けたのは私だし。」

そう。これは私が望んだ結果。

私の望み通り。私にはこの二人が居る。

このままで平気だ。


「僕は年の近い女友達が必要だと思うけどなぁ。」

「必要ない。私は二人で充分」

私は目を閉じて、自分に言い聞かせるように言った。

もう、誰も触れないで。私の世界に入ってこないで。

“私”が壊れてしまいそうになるから。


「それは嬉しいけど…」

「まっ。相手次第さ。」

二人は私の少し先を歩きながらそう言った。

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