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305号室の世界  作者: 瑞希
あなたと出会えた
2/11

〔月の涙と蒼い海〕

「おいおい見たかよ

 氷姫ひょうりひめの絵!」


「見た見た!あれ超怖いよね~」


その噂は瞬く間に広がった。

神氷かみひょうりの令嬢。通称、氷姫ひょうりひめ

世にも恐ろしい絵をコンクールに出し、金賞を取ったというのだ。

以前から、怖い。冷たい。金持ち令嬢。

と、良いイメージを持たれて居なかった氷姫ひょうりひめは、

すぐに注目の的となった。


「金賞取れたのも

 絶っ対、親の力だよね」


「絶対そうだよ!

 あんな怖い絵が金賞とるわけないもん!」


そんな噂話をしてる人の波を何とか抜け、

職員室前に飾られている絵を見た。

その絵は大きな三日月から

真っ赤な血が海に流れていると言うものだった。


確かに、みんなの言う通り、その絵はとても怖かった。

でも、それだけではなかった。

不思議なことに血が流れているはずの海は驚くほど蒼く綺麗なのだ。

みんな三日月しか見ていないんだ。

三日月の後ろにある綺麗な夜空も

海に浮かぶ小舟も。全く見ようともしない。


私はこの絵を描いたのは、

几帳面で、とても繊細な人なのだと思った。

だって、こんなに綺麗で、切ない絵を描けるのだ。

私は会ってみたいと思った。

氷姫ひょうりひめではなく。

神氷かみひょうり 懸憐かれんに。




「ん?どうしたの

 そんなところに突っ立って。」

「あ、えっと…蕾凰らいおうくん。

 神氷かみひょうりさん、居ない?」

廊下から教室を覗いていると、蕾凰らいおうくんに声をかけられた。

喋ったことはほとんどないが、とても気さくで気も効く優しい人だ。


「カレン?二人って友達だったの?」

「ううん!会ったこともない!」

私は自信満々に言った。でも。これから仲良くなるのだ!

きっと優しい人なんだろうなぁ。


「なに~?言葉ことのはさんも興味本位で来たの~?」

「うん。あの絵を見て」

も。というのが気になるけど、

私は他の人とは違うなんて言うつもりはない。

他の人と同じように絵を見て興味を持って来たのだから。


「そういうの止めてくれる?

 迷惑なんだ。」

私は思わず息が止まりそうになった。

日頃から誰にでも優しい蕾凰らいおうくんが

見たこともない怖い顔で、私を睨んできたからだ。


「えっ…。ど、どうして蕾凰らいおうくんに

 そんなこと言われなくちゃいけないの?」

私が少しおびえながらも頑張って聞き返すと、

蕾凰らいおうくんは少し目を見開いた。


「ごめん。今呼んでくるよ

 返答は期待しないでね」

ほっ…良かった。更に言い返されたら、

蕾凰らいおうくんがいない時を狙わないといけなかった…。

ちなみに諦めるという選択肢はないよ!


「何の用?」

「あ、神氷かみひょうり…さん?」

「そうよ」

びっくり。とっても美人さんだ。

繊細だっていう私の見立ては間違ってなかったね。


「えっと。私は言葉ことのは すみれです!

 隣のクラスなんだけど

 あの絵を見て、どんな人なんだろうって気になって」

「そう。それでどんな人だった?

 想像通り?」

うーん。繊細なのは合ってるけど

優しそうかは解らないな…。今のところむしろ怖い。


「あんまり…。神氷かみひょうりさん怖いね~」

すると神氷かみひょうりさんは目を見開き

蕾凰らいおうさんは吹き出し。周りの人が絶句した。


「あの子やばくない?」


「目ぇつけられちゃうんじゃ…。」


「ちょっと、誰か助けてあげなさいよ」


「やだよ。関わりたくない」


ちょっとイラッとしてきた。

私は神氷かみひょうりさんと話してるのに。

親切心なのか嫌味なのかは解んないけど。


「でも、神氷かみひょうりさんの描いた絵は

 すごく優しくて綺麗で、切ない絵だった。

 本当のあなたはどっちなの?」

私がそう言うと周りの人たちは更にざわついた。


「あの子おかしいんじゃない?」


「あれが優しいとか…ないわぁ」


また…。私は神氷かみひょうりさんと話してるのに

神氷かみひょうりさんは私から目を離さず。

ずっと黙っていたが、やっと口を開いた。


「そんなこと、ここに居る全員が知ってるわ。

 冷然れいぜん 冷徹れいてつ 冷酷れいこく氷姫ひょうりひめよ。」

神氷かみひょうりさんはわざと大きな声で言うと周りの人を睨んだ。

すると私と蕾凰らいおうくん以外の全員が凍りつき、

全員、顔を青ざめながら我先にと立ち去った。


「本当に?」

私の最後の問いには答えず、神氷かみひょうりさんは

蕾凰らいおうくんと共に、教室へ帰ってしまった。

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