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305号室の世界  作者: 瑞希
あなたと出会えた
1/11

〔コトノハ〕

「チュンチュンッ」

「ふふっ、そんなことがあったの」


個人病室の窓はいつも全開にしてあり

そこから入ってきた複数の鳥が

ベッドで横たわっている少女の肩や指先に乗っている


ガラッ


病室のドアが開き花を持った少女が入ってきた

「スミレまたドア全開で…」


鳥たちを外に逃がして窓を閉めた

「だって息が詰まっちゃうじゃない………」


この少女は305号室の病人である言葉ことのは すみれ

生まれた頃から病弱で入院と退院を繰り返している

そしてその親友の神氷かみひょうり 華憐かれん

小学生の頃に知り合い

それから高校生の今までずっと仲良しなのだ

「花、ここに埋けるよ」


そういって慣れた手つきで

花瓶の花を出して新しい方の花に塩をつけて埋けた

「今日は黄色ね

 何か良いことでもあったの?」


スミレは花を見てからカレンを見て言った

「ちょっとね、今日

 英語の小テストで百点取れたのよ」


カレンが少し照れくさそうに

そういうとスミレは嬉しそうに笑って

「凄いじゃない

 退院したらカレンに教えてもらおうかな?」


「もう、スミレは元々頭良いじゃない」


そんな他愛ない会話をしていると

すぐに日が暮れてきてしまった

「あ、日が暮れてきたね

 そろそろ塾行かないと駄目じゃない?」


「ええ、そうね…じゃあ、また明日」


「うん、またね」


カレンは鞄を持って足早に病室を出て行った

足音が聞こえなくなり誰もいない病室が静まり返ってきた


「また…か」


病弱で入院と退院を繰り返しているスミレは

実際いつ死んでも可笑しくないほど体が悪い

高校生に入ってからは安定していたのだが

不審者か何かにカレンと追いかけられ

極度に運動をしてしまったため

また入院となった。

不審者は未だに見つからず

スミレも途中で気を失ってしまった為、犯人の顔どころか姿も見ていない

「もしも明日死んでも

 後悔が無いようにしたいな……」


そっと窓を開け風に当たっていると

外から子供の遊び声が聞こえてきた

覗いてみると2人の男女の子供が遊んでいた

その近くでは幸せそうな夫婦が笑いあっていた

下は広間になっていて公園代わりにと子供がよく遊びに来る

「あ、お姉ちゃん!こんにちは~!」


スミレに気付いた男の子が

満面の笑みで笑ってこっちに手を振ってくれた

女の子も男の子の後ろに隠れてお辞儀をした

「こんにちはー!」


ありったけの声で叫ぶと

わずかに聞こえたようで満足げに笑ってまた遊びだした

「ケホッ…」


こんな事で咳が出る明らかな悪化を感じる

自分の身体のことは自分が一番わかってる

きっと長くは生きられない

それなら短くても濃い人生を生きたい

「チチッ」


そんなことを考えているとまた鳥がやってきた

肩に乗った鳥をみてから本を取り出して読み始めた

「うん」


私は昔から動物や植物と会話ができる。

普通のことだと思っていたけど

小学生の頃から違うんだと気づき始めて

両親にそのことを話したら

元々病弱な私をもっと心配して

色んな病院にまで連れて行かれた為

自分が可笑しいんだと気づき

両親はもちろん友人にも誰にも言っていない。


でも、人の前ではみんなも無口になるから

こちらから言わなければ特に何もない

ただ、私が知るはずないことを

みんから聞くことがあるからそこだけが大変


そもそも私は人と話すこともほとんどない

唯一親友のカレンと話すときに困るときがある

学校に行っていない私が鳥さんから

聞いたことをそのまま話してしまったり…

「え?(かい)くんが?」


話を聞いてクスクスッと笑った

アオくん(鳥)の話によると

同じクラスの(かい)が体育の時間にふざけ、叱られたらしい

クラスの盛り上げ役の彼は

先生も手を焼かされることもあるが誰からも好かれる憎めない人だ


退屈な時間もみんなの話を聞いていると少し安らぐ

まるで私も学校に行っているような錯覚にさえおちいる

「うん、じゃあね、バイバイ」


アオくんはお家に帰るからと

窓をでて手を振るようにクルッと回ってから帰っていった


次にくるのはコウモリのチイちゃん

チイちゃんは洞窟や

友達のお家のこと、夜の学校のことを教えてくれる

どんな形でどんな音を出してどんな硬さなのか

そんなふうに教えてくれる情景がすべて浮かんでくるようだった

そしてチイちゃんが帰る時間になると私も眠りにつく


朝はアイさん(アオとは別の鳥)が起こしにきてくれる

私が知ってる中では一番年長者だからさんづけなのだ

何の種類なのかはよくわからないけど

私が物心つく頃には既に

最初から居ましたけどなにか?みたいな感じでやってきた


それからみんな増えては減り減っては増えを繰り返し

私も成長して大きくなった

みんなと同じように私もそろそろだと思う

最近はそんなことばかり考えるようになった

「うん、チイちゃんバイバイ」

チイちゃんは少し名残惜しそうに窓の向こうで

一回転してから帰っていったあといつも通り私は目を閉じた…………。




「カレンさん!こっちに!」


放課後になりホームルームを始めようとすると

先生が学年主任の先生に呼ばれて話していた

内容を聞くと先生はショックを受けたように

手で口をおおってから慌ただしく教室に戻り

カレンを呼び出した

先生から内容を聞いたカレンは顔が青ざめ

カバンを取ってすぐに校舎に走り出し門の向こうでまつ

両親の車に乗って急いで向かった

「カレンちゃん…!」


スミレのお母さんが

305号室の前でお医者さんと何か話していた

「これから緊急手術を行います」


「よろしくお願いいたします…!」


お医者さんがスミレのお母さん、美和子が

そういうとスミレはすぐ近くにある手術室に運ばれた

「スミレは…!?」


カレンが美和子にそう言うと

「今朝病状が急変してね…」


「そんな………」


カレンは口を覆って絶句した

美和子は言ってからしくしくと泣き出してしまった

カレンの母、奈央子が美和子と椅子に座り慰めていた


一時間くらい経ったか実際は

もっと短かったかもしれないが

カレンたちにとってはそれ程長い時間だった

お医者さんが出てきた

「命は取り留めました」


お医者さんがそういうと

スミレはまた運ばれて305号室の部屋に戻った

薬の効果で今日一日は目を覚まさないと言われ

カレンたちは家に帰った


「スミレちゃん、良かったわね」


車に乗っている最中

佳子がカレンに話しかけた

「…うん」


「あら、元気がないわね?」


外はいつの間にか

雨が降ってきていて雨音が聞こえてくる

「私さえ居なければ

 スミレはあんな事には…」


「カレン………」


佳子は少し悲しそうに

自分の娘と娘の制服の名札に書いてある苗字をみていた。

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