月明かりの怪盗
こんにちは?おやすみなさい?
変上 狂未です。
本日は一風も二風も変わった怪盗ものを
お届けします。
注意書き:この作品は「怪盗ムーンライトへの依頼 その1」のタイトルを変更したものです。内容も文書も変わっておりません故、ご注意ください。
月が明るく見える夜、
地面に魔法陣を書いてその中心に立つ。
そして月の光を浴びながら
手を合わせてこう唱える。
「怪盗ムーンライト様、
どうか私のモノを奪ってください。」
そう唱えた終わったら
魔法陣を跡形もなく消して
夜が深まらないうちにお家に帰る。
そうすると次の日に怪盗ムーンライトが
自分のものを何でも一つだけ
奪いに来てくれる。
その話を私が聞いたのは一昨日の木曜日の話。物凄いオカルト好きな友だちに教えてくれたのだ。(その友だちは、手順通りにやったのだが結局のところ現れなかったらしい。)
女子高生というのはこういう噂やオカルト話が大好きでこの手の話題は尽きた事がない。(私も女子高生なんだが…)
こんな根も葉もない話を私はバカにはしていたが、私にはどうしても奪ってもらいたいものがあった。だから昨日ダメ元でやってみたのだ…ダメ元で。
そして今、我が家の玄関前に
それらしき変質者がいる…
ピンポーン
「すみませーん。怪盗ムーンライトでーす。
貴女様のものを一つ奪いに参りましたー。」
私は今、パニックとやらに陥っている。怪盗ってこんな感じだっけ?こんなラフだっけ?そもそも玄関からご丁寧に入るものなの?!
取り敢えずドアスコープを覗く。
見えるのは
黒いシルクハットにタキシード姿の可愛い少年だった。しかも金髪碧眼!年齢は12.3才くらいだろう…まさか年下だとは思わなかった。外に出しておくのは可哀想だがこの少年が怪盗なのか信じられない。子供とはいえ完全に不審者だ。確かめてみよう。
「こんにちは。ぼく。さっき怪盗って言ってたけど、本当?」
「はい。その通り!私、怪盗をやらせていただいております。ムーンライトと申す者です。本日はお嬢さんのご依頼を受けに参りました。宜しくお願いします。」
少年は名乗り終わると丁寧にお辞儀した。少年曰くこの少年こそが怪盗ムーンライトらしい。こんな相手を私は様付けで呼んでいたのか…あ!今、気が付いたがこれはマズイ。この状況をご近所さんと言う噂魔に見られたら確実に私は社会的地位を失う。この少年が怪盗かどうかはともかく急いで家に入れなくては…
「そうなのー。取り敢えずお話したいから中に入ってねー。」
私は何か犯罪をしているような感覚に襲われた。これは違うのだ。そう私は悪くない。
「これはこれはご丁寧に、どうもありがとうございます。」
怪盗と名乗る少年は無邪気にまた丁寧にお辞儀して
「お邪魔します。」
と言いながら我が家に入った。
私は恐る恐るリビングに案内する。幸運な事に今日、両親は居ない。一人っ子で良かった。
「椅子座ってね。」
こんな不審者を椅子に座らせたくはないのだが子供だし…ちくしょう。子供ってズルい。
「失礼します。」
これまた丁寧に言って怪盗ムーンライト(自称)は椅子に座った。
さて…
「君、だぁれ?」
このガキがどこのドイツが調べなくては…
「私、怪盗ムーンライトと申します。あれ?先程も申した筈ですが…驚いて聞きそびれてしまいましたか?これは失礼しました。前もって手紙を出しておくべきでしたね。」
ったく…これだからガキは。
「そういう問題ではないんだよ。ぼく。いたずらは良くないな。」
「いたずら?なんのお話ですか?あ!分かりましたよ!貴方様もですね!」
自覚あるのかよ…一応それについてなのか聞いてみる。
「なぁに?ぼく。」
「私を怪盗ムーンライトという事を信じていませんね!」
「その通りだよ。よく分かったねー。偉いよー。ぼく。」
ちょっとバカにしてみる。少し面白い。
「むむむ。さっきからの丁寧な口調は私を子供扱いしていたからですか。こう見えても私は1万と514才です!人間と同じにしないでください!」
何言ってるんだ…中二病か?
「ぼく。嘘はよくないよ。お姉さん怒るよ。」
「嘘ではないです。年の方は信じてもらわなくて結構ですが…怪盗である事は信じてもらいたいですね。そうだ!お試しに貴女様のモノを一つだけあっという間に奪ってみせましょう。勿論、後で本題のモノも奪って差し上げます。」
まぁ話が長くなるのは好きではない。年のコトは置いておこう。
「ほほう。じゃあ何にしようかな…」
私は考える。ここで本題のモノを奪ってもらっても構わないが折角のチャンスだ。奪える筈のないモノを奪ってもらおう。
「そうだ!私が一ヶ月前になくした消しゴム。奪ってくれない?」
「一ヶ月も前になくしたんですか?因みに確認ですがそれは貴方様のモノですか?」
怪盗は少したじろいた様子だ。
ふ。早速、一昔前の龍がやる…「孫○空は既に生き返った事がある。生き返らせる事はできん。」状態に陥ったか!ざぁまぁみろ。
「できないの?」
「できますとも。よーし。」
怪盗(自称)は被っていたシルクハットを脱いで中から蓋つきの青色の紙箱を取り出した。
「あ、お名前を教えてください。呪文を唱えるのに必要なので。」
怪盗(自称)はそう言いながら蓋を開け空である事を確認しまた蓋を閉めた。そして袖からステッキを取り出してマジックでも始めるように蓋をトントンと叩いた。
「名前が必要なの?わかったわ。私の名前は新垣 陽菜。好きに呼んでくれて構わない。」
「では、いきますよ。『一ヶ月前になくなった新垣 陽菜の消しゴムよ!今この箱の中に現れろ!』」
ドカーンっと箱から爆発音がして蓋が散った。箱自体は無事だ。爆薬でも入れていなのだろうか。
煙がなくなると怪盗(自称)は箱の中から見覚えのある消しゴムを取り出した。
「へへん。どーですか?すごいでしょ!はい。ですから私こそが怪盗ムーンライトで御座います。」
すごい。と普通に思ってしまった。私の予想ではこの消しゴムは夏休みの旅行先でなくしたモノだ。元々用意していたかもしれないが何でも奪うと言ったからには私のモノを全て用意しなくてはならない。だからトリックなしの筈だ。この少年は怪盗…かもしれない。今まで心の中でバカにしてすみませんでした。
「驚き過ぎてしまいましたか?私、そろそろ自前の消しゴムがなくなりそうだったのですよ。ありがたく頂戴します。」
そうだった。消しゴムは奪われてしまったのだ。消しゴムのケシコちゃん…さようなら。
「大事に使ってよ。すぐに使い切ったら承知しない。」
「勿論です。その様子だと私が怪盗だと信じてもらえましたね。さて、本題に入りましょう。陽菜さんが奪ってほしいモノはなんですか?」
礼儀正しい怪盗だ。そして今、この怪盗は何でも奪えると言った。ならばきっとこれも奪ってくれるハズ。
「睡魔。」
「すっ睡魔!睡魔って睡眠の魔と書いて睡魔ですよね?」
「そう。無理?」
「ハハハ。舐めてもらっちゃ困ります。ですが睡魔は、やめといた方が良いですよ。」
「なんで?!眠くなると勉強も読書もはかどらないじゃない!睡魔は邪魔なのよ!」
我ながら名演技。
怪盗は少し俯き、考えてからこう答えた。
「なるほど。分かりました。一日限定で睡魔を奪わせていただきます。効果は呪文を唱えてから24時間丁度。それが終わってから陽菜さんがまた望めば一生分の睡魔を奪わせていただきます。それでどうでしょうか?」
一日だけでも奪ってくれるだけでもありがたい。さらに後で一生分を奪ってくれるらしい。
「いいわ。早速お願い。」
怪盗はシルクハットから緑の箱を取り出すと先程と同様ステッキでトントンと叩いた。
「新垣 陽菜の睡魔よ!一日だけ我のモノになれ。」
何も起きなかった。先程の爆発音などの音は全くなかった。私の頭からスルスルと何か抜けていく感覚もなかった。
「はい。一日だけ奪わせていただきました。
24時間後、また陽菜さんの元へ参ります。それでは失礼します。」
怪盗はそう言うと突如、怪盗の後ろに青い扉が現れその中に怪盗は入っていった。扉は閉まるとポンと音と煙を出して消えた。
正直なところまだ実感が湧かない。元々眠くなかったから。どうせなら眠くなる時に奪ってもらいえば良かったと後悔した。
さてこれから何をしよう。実は決まっている。勉強や読書の為とは言ったがアレは子供だまし。嘘だ。何を隠そう私は生粋のヘビーゲーマーだ。RPGからギャルゲーまで幅広いゲームを愛している。特に最近凝ってるのがオワタファンタジー004。このゲームは歩かずともモンスターがわらわら出てくるタイプの奴で、寝落ちをして起きたら教会だったなんて話が多々ある。睡魔が邪魔だったのだ。そして出張により今日と明日、明後日は両親も居ない!つまり今、私を阻むモノは全て居ない!存分にゲームをプレイしようではないかぁ!ナハハハハ!!!待っていろ殺されるしか能のないモンスター達よ!!
そんなこんなで24時間後…
「やったよ…勝ったよ…魔王に。これでもう…」
すると後ろから声がした。
「これでもう睡魔をお返ししますね。」
「あ、怪盗くん。ダメだよー。勝手に入ってきちゃー。」
後ろには声の主、怪盗がいた。
「一応、怪盗なので大目にみてください。」
「いーよー。」
「これは重症ですね。頭は痛いですか?目ははっきり見えますか?肩、いえ身体は重くないですか?」
「ぜーんぶそうだよー。」
怪盗はシルクハットから昨日の緑の箱を取り出して袖から出したステッキでトントントンと叩く。
「直ちに睡魔をお返しします。『新垣 陽菜のモノだった睡魔よ。今、主の元へ帰り給え。』」
リリリリリリリリリリリリリ!!
うるさい目覚ましが鳴っている。
昨日は…日曜日だったから今日は…月曜日!
勢いよく上半身を起こし目覚ましを見る。
針は9時を指していた。遅刻だ!
急いで学校の支度を済ませる。朝飯なんて要らない。廊下の扉を開けると玄関前に怪盗が居た。帰ったと思ったのだが。
「邪魔!」
「どうしたのですか?」
「今日、学校なのよ!」
「学校?今日は祝日ですよ。」
「え?」
急いでカレンダーをみる。この前の金曜日か木曜日が10日で今日が月曜日だと思うから…今日は10月13日月曜日、体育の日だ。
「助かったー。あーびっくりしたー。」
「身体が相当疲れていたのでしょうね。陽菜さんは睡魔をお返しした途端に眠ってしまいましたよ。」
「そうだったの。」
つまり私は怪盗によってテレビの前からベッドまで連れていかれたのか。
「それでどうします?一生分の睡魔、奪ってあげましょうか?」
少し考えた。眠くなければ夜中ずっと眠らずにゲームが出来る。だが身体は今も少し痛く頭が重い。
「残念だけどやめておく。ありがとう怪盗さん。」
「そうですか。なら私は失礼します。」
そう言うと怪盗の背後に青い扉が現れた。
「待って!」
一つ今更ながら聞いておきたいコトがある。
「どうしました?」
「私のオカルト好きの友だちが貴方を呼んだらしんだけど来なかったんだって。どうして?」
「色々条件がありますし…何より同じ日に呼び出されると抽選になってしまいますからね。これでも私、人気者なんですよ。」
人気者ねぇ。
「へぇ。そう。なぜか聞いて損した気がするわ。」
「そうですか。ではさようなら。」
怪盗は扉の中へ入ると扉はポンっと音と煙を出して消えた。
何者なのだろう。あの怪盗は。
私はそれを聞けば良かったと後悔した。
楽しんでいただけたでしょうか?
自分としましては
もう少し捻りが欲しかったのですが
力及ばずというコトで
終わってしまいました。
モノを奪うけれども誰も咎めることはない。
そんな理想の怪盗を描きました。
怪盗ってカッコイイですよね。
近頃は
コロコロコミックの「怪盗ジョーカー」や
名探偵コナンの作者さんの第一作目、
「まじっく快斗」など
怪盗もののアニメ化がされて
怪盗好きとしてはとても嬉しいです。
お気が向きましたら感想の方を
宜しくお願いします。
それではよい一日を。
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