誘いの手紙
今時下駄箱に手紙を入れる古風な女子はいねーよ!と、どこからか突っ込まれたような気もするがそんなことは今の僕にとっては些細なことだ。
手紙にはきれいな文字で放課後に天文部の部室まで来てほしいということが書かれていた。
もちろん僕は天文部の部員ではないし、天文部にも知り合いはいない。天文部があることだってこの手紙を読むまで知りもしなかった。(くだらない部活ばかり覚えているけど)
少なからず、不信感は持ったが人生初の女子からの手紙の誘いとあらば僕も少なからずそうゆう展開を期待してしまうお年頃なわけでり、別段断る理由もないわけで。手紙の最後に書かれている柊楓という女子のことを全く知らなくても僕は全然お構いなしだった。
というわけで、僕は深く考えることを放棄し学校の昇降口からUターンし、本校舎から渡り廊下を通り、文科系の部室が集まる通称部活棟の天文部の部室へと向かうことにした。
天文部の部室は案外簡単に見つけることができた。道行く生徒たちに聞きながらではあったが。
天文部の部室は部活棟三階の一番端の教室だった。学校の最果てともいえる立地である。
校庭では陸上部やサッカー部、野球部なんかの掛け声が聞こえ、中庭からはアカペラ部?の練習の声が聞こえてくる。
僕は天文部の部室の前で今更ながらもドキドキしながらとりあえずノックをしてみる。
コンコンと軽くノックをすると中からはーいと間の抜けたような間延びした声が返ってくる。
僕は失礼しますと言いながら扉をスライドさせ中に入る。
「いらっしゃい。待ってたわ」
天文部の部室は思っていた以上に狭かった。まず面積が狭い。おそらく四畳半くらいだろうか?普通の教室では考えられないほど狭かった。そして教室の両脇には本棚やら棚が敷き詰められておりさらに部屋を圧迫している。部屋の中央には会議軟化でよく使う長机が二つ並べて置いてあり、パイプいすが二脚置かれている。入口の対面にあたる窓のそばには天体望遠鏡が置かれていた。
その天体望遠鏡のそばには女生徒が一人いた。
腰あたりまで伸ばした長い黒髪はよく手入れをされているようでツヤがあり、まるで天使の輪のようだ。二重まぶたの瞳は見たものを虜にする魔法でもかかっているのではと疑うほどに美しい。身長も女子にしては高く、僕と同じくらいか少し小さいくらいだ。いかにも年上のお姉さんという感じだった。
「えっと、僕を手紙で読んだのはあなたですか?」
そう聞くと、彼女は小さく微笑み僕に笑みを向ける。
「ええそうよ。あなたと話したいことがあるの」
「いったいなんでしょう?」
改めて言われてみても僕には全然この人との共通点が見当たらない。
「そう警戒しないで、まあそんなところに立っていないで座ったら?」
「ああ、そうですね。失礼します」
僕は手じかにあった椅子に腰を落ち着けることにする。
「それで、僕に何か用ですか?」
「そんなにせかさなくてもいいじゃない。初対面なのだしまずは自己紹介でもしましょうか。」
そういって先輩も手近な席に腰を落ち着ける。
「初めまして。私の名前は柊楓。現在三年生で、この天文部の部長です。私が君をこの部室まで呼んだのはあなたにお願いがあったからなの」
「お願いですか?さっき先輩が言った通り僕たちは初対面だと思うのですけど?」
今更ながら記憶を探り目の前にいる先輩との接点を思い出そうとするが、どうにも引っかからない。
いったい誰なんだこの人。超美人だけど。
「初対面の僕にいったい何の用があるんですか?」
「そんなに初対面を強調しなくてもいいじゃない。私のこと嫌いなの?会ってまだ数分も経ってないのにそんなに不快にさせるようなことしちゃったかな?」
泣きそうな顔でこちらを上目遣いで見返してくる先輩は、恐ろしく可愛かった。
なんだ。きれい系のお姉さんかと思ったら可愛い系か。どっちにしろ可愛い過ぎる。
「別にそんなことはないですよ。初対面なので若干警戒しているだけです」
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。そんなに大変なことじゃないから。」
先輩は一呼吸おいてわざと間を開け、そして僕に頼みたいという要件を口にした。
「ぜひ君にわが天文部に入ってほしいの!」
「……はい?」
僕はあっけにとられてそれしかいうことができなかった。