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夏の大三角  作者: とも
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人生初の

 キーンコンカーンコンと授業の終了を知らせるチャイムが学校に鳴り響く。

 「じゃあ、今日はここまで教科書の練習問題は次の授業までにやっておくこと。答え合わせからはじめるからな。しっかりやっとけよ」

 教室内に不満の声が沸きあがるが教師はそんなことには気にせず出て行く。

 ……マジか。僕ほとんど寝てて聞いてなかったぞ。

 どうしようと頭を抱えている僕の目の前に一冊のノートが差し出された。

 「お前寝ててノート何にもとってなかったろ?写させてやるよ」

 目の前のノートの持ち主は小学生からの幼馴染。名前は夏目日向。小さいころから何かと僕の面倒をよく見てくれるすごくいいやつなのだが、昔クラス内で僕たちが付き合っているのではと小さなうわさが流れて少し面倒なことになったこともある。

 「ああ、いつも悪いね日向。本当に助かるよ」

 「いいよ。その代わりといっちゃあ何だけどさ、放課後の掃除変わってくれないか?俺部活の招集かかってて早く行かないと先輩に怒られるんだよね」

 そう申し訳なさそうに拝まれると僕も無下にはできない。なによりこいつには借りが腐るほどあるからな。

 そろそろ返さないと利息をつけて請求でもされたら僕は自己破産しかねない。

 「わかったよ。それにしても融通の利かない部活だよね。何部だっけ?」

 「エアギター部」

 何だエアギター部って……。

 そんな部活がこの高校にはあったのか。ぜんぜん知らなかった。

 「……その部活楽しいの?」

 「うーん、それなりには?」

 何だその返答。すごい微妙そうだな。

 まあエアギターだしな。てか、ほんと何でエアギター?

 「まあいいや。部活頑張ってね。」

 「おう。……そういえば葵は部活やらないのか?」

 「いや、なんかすごいいまさら感があってね。それにもう僕二年生だし。今入っても部内の人間関係できちゃってるでしょ」

 「まあそうだけどさ。別に自分で何か部活作ってもいいんじゃね?俺らの学校結構適当に部活作れるし」

 まあ、そうなんだけどさ。

 僕たちの通う高校は基本的に校則がゆるゆるだ。

 私立だからというのはあるのだろうがそれにしても髪の毛がピンクでもお咎めなしの上にピアスOK。

 部活も職員室にある新部活動設立希望書なる紙に記入を済ませると新たな部活が誕生するというゆるさ。

 そのおかげでうちの学校には変な部活がやたらと多い。

 代表的なのはエクストリームアイロン部。写経部。円周率計算部。筋トレ部など。

 ほかにもかなりの数の部活があるがどれも活動目的が怪しいものばかりである。

 もちろんバスケ部やサッカー部。野球部や文芸部などきちんとした部もあるのだが、僕はそのどれにも所属していなかった。

 「いや、僕は自分から何か始めるのなんてガラじゃないから」

 「そうか?まあ何にせよ高校時代なんてのはすぐに終わっちまうもんだからな。悔いが残らないように全力で楽しんでおかないと損だぞ?」

 「それ現役高校生のお前が言っちゃだめだろ」

 「それもそうだな。おっとそろそろSHR始まるな。席も戻るわ」

 「何で今わざわざエス・エイチ・アールって言ったんだ。絶対読んでる人"ショートホームルーム"って読んだと思いうけど。てか、そのネタわかりにくいよ」

 「そんなどうでもいいところ突っこむなよ。疲れるだろ」

 「こうゆうのにいちいち突っこんじゃう質なんだよ」

 そんな話をしている間に担任が教室にはいってきた。

 「じゃ、俺席に戻るから」

 日向も席に戻り日直の挨拶でSHRが始まった。

 僕は担任の自分の娘がこんなに可愛い自慢を聞き流しながら日向に言われたことを考えていた。

 ……部活か。でも、本当に今さらだよな。

 「それでな、今日一番大切なことな、これだけは覚えて帰ってもらいたい。2013年7月7日……」

 「先生それ何の日付ですか?」

 「俺の……娘の誕生日だ!」

 「……日直。HR終わりにしよう。」

 「起立。礼」

 「ありがとうございましたー」

 「ちょっ、まだ話し終わってないよ!?明日体力テストあるから体育着忘れないでね!」

 ぞろぞろと出て行く生徒の背中に声をかける先生だが誰一人立ち止まらない。

 まあしょうがないだろう。娘の話長すぎだよ先生。

 日向との約束どおり掃除を終わらせて帰ろうとした下駄箱で僕は高校生活が始まって以来の大事件が発生した。それはたとえるのならば僕のたがだか16年ほどの人生の中で生まれた瞬間をファーストインパクトだとするならば、今この瞬間僕はセカンドインパクトが起こっているような衝撃。何を言っているかわからないな。どうやら僕は激しく動揺しているようだ。

 しかし端的に事実だけを述べるのなら別にたいしたことではない。非常にありふれているであろうこと。

 どこの学校でもきっと日常的に見るんじゃないかという光景だ。

 ただその光景が僕にとっては非現実的すぎてまったく持って現実を認識できないというだけなのだ。

 いい加減引っ張りすぎたな。そろそろ何があったのか言えよって感じだ。

 そう端的に言ってしまえばひどく簡単なこと。

 

 僕の下駄箱の中には女の子からの手紙が入っていた。



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