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集合

 湯船家の別荘に帰りつくと、床にゴロゴロと寝そべりながらだらしない恰好でお菓子を食べる春日が居た。

「おい、行儀が悪いぞ。せめて、座って食べてくれよ」

「お堅いわね。いいのよ、こうやって糖分を接種しながら頭に血をやって、脳に栄養送ってるんだから」

「そんなバカな……」

「そんな事より、早速集めてきた情報を教えて頂戴よ」

「へいへい」

 的葉は、学校で見つけた物と、中井少年の証言、九条なるみの暴露した事実、それから小学校で聞いた話や安田先生へのインタビューについて話した。

「ふぅん、つまり学校の消しゴム飛ばしについては、アンタの推理が正しかったって事なのね」

「まあ、一応はそうなるね。それよりも、君は安田先生の件にもっと食いつくかと思ってたんだが」

「……まあ、何も思う所が無いといえばウソになるけどね。でも、安田先生の口から語られてない以上、まだ確信は無いじゃない」

「ぼくの見立てでは、先生はクロだよ」

「どうしてそう思うの?」

「まあ、勘と言ってしまってもいいけどね。彼女ね、いじめをコントロールする意見について尋ねた時、態度がまるで変わらなかったんだ。一切ね。おかしいと思わないか? わざわざ悲しい話ですが、何て前置きまでしておいて、いじめを無くそうって団体を引っ張ってるような人が、教頭に感情的に食いつくような人が! 言葉や態度に少しの感情も滲まないなんてさ」

「同じような事を言う人間が多くて、セリフを丸暗記しちゃったのかも」

「取材だぜ? それこそ、正義感たっぷりの感情込めまくりで言うのが正しいだろ。丸暗記する必要なんて無いさ」

「どうしても安田先生が悪者であって欲しいみたいね」

「もちろん。その方がぼくの予想にピッタリとハマってくれるからね」

「アンタ今、物凄く悪い顔してるわよ。どっちが悪人なんだか」

「人を騙す人間を暴き立てる悪人って事か? なるほど、そう言われるとそんな気もするけど、個人的には嫌いじゃない」

「まあ、いいわ。それじゃあアンタの予想っていうのを聞いてから判断するとしましょうか。話はそれから」

「了解」

 そう言って、的葉が部屋の隅に置いてある地図へと向かおうとしたその時、ベランダのガラス戸が勢いよく開き、外から人が入って来た。

 それは、迷彩服を着て、エアーガンで武装した神部だった。

 神部は的葉に銃口を向けながら言った。

「早く離れるんだ! こいつは、加賀くんじゃない!」

 協力者の突然の乱心に、二人はしばらくポカンとしてしまい、何の反応もできなかった。

 そうしている間に、神部は春日に近づくと、その体を引き起こそうとする。

「ホラ、何してるの! 早く立って!」

 やや困惑しながら、的葉が恐る恐る話しかけた。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ、神部さん。一体どうしたんですか?」

「近寄るんじゃない! お前が虫男だという事は知ってるんだ!」

「何言ってるんですか。そんなわけないでしょう。頭でも打ったんですか?」

「口が滑ったな! 俺の頭を殴ったのはお前じゃないか!」

「もう、何が何だか……」

 三人ともが混乱している中でこの状況を打開できるのは、もはや自分しかいない事を悟った春日は、一旦落ち着いてから、的葉に尋ねた。

「アンタ、虫男なの? 違うなら何か証拠を見せて頂戴よ」

「証拠って言われても……」

「所属するクラスと出席番号、好きなオカズとラーメン屋で頼むメニュー、それから好きなタイプの女の子と初恋のエピソードを言いなさい」

「ちょっと待って。そんな事聞いてどうするんだよ! 第一、答え合わせできないじゃないか!」

「いいから黙って答えなさいよ。さもないと、撃つわよ! 神部が!」

「分かったから撃つな! ちょっと待ってよ。えーっと、クラスは二年二組、出席番号は八番。好きなオカズは、から揚げかな。ラーメン屋で頼むのは、こってりラーメンの細麺カタメ大蒜入りで、半ライスの定食。好きなタイプの女の子は清楚で思いやりのある子かな。初恋は、中学生の頃だ。女子バスケのスポーティでちょっと汗臭い先輩が好きだった。ショートカットがよく似合う人でね」

「なるほど、アンタは活発なスポーツ系が好き、と」

「そうだね。丁度君と真逆な感じ」

「神部! こいつ偽物だ。撃ち殺せ!」

「すいませんでしだ! 春日さんもすごく美人でイケてると思います!」

 そのやり取りを聞いていて、神部は力が抜けるのを感じた。

「……君、もしかして本物?」

「ええ、そうですよ! もうこれ以上、何を言えばいいんですか!」

「神部、この的葉は本物よ。だって、出席番号までちゃんと答えたし、私の事も美人って言ったわ!」

「ええー、何かもっと信憑性のある事を言って欲しいんだけど……」

「しょうがないわね、的葉。バスタオル」

「絶対に嫌」

「間違いなく本物だわ。これは信用しても大丈夫」

 その言葉に、神部は半ば疑いつつも、とりあえず銃口を下げた。的葉はとにかく胸を撫で下ろし、その場で脱力した。

「それで、神部さん。一体、何があったんですか?」

「あ、ああ……実は……加賀くんと別れた後、中井くんの家の近くで虫男が出たんだ。それで、写真を撮ったんだけど、奪われてしまったんだよ。その時、相手が加賀くんソックリの姿で……」

「なるほど、擬態してたわけですか。しかし、参ったな……。そうなると、ぼくらはもうバッチリと目を付けられてるわけだ……。こんなに早く見つかるなんて予想外にもほどがある……」

「まあ、一番しつこく調べまわってたのは俺達だしね……」

「こうなってくると、中井くんの事が心配ですね。あと、ぼくらもどこまで放置して貰えるものやら……」

 室内に重苦しい雰囲気が漂う中、春日だけはなおもお菓子を食べ続け、気楽そうにしていた。その様子を男性陣二人は複雑な面持ちで見つめ、更に不安で気が重くなったのだった。

「やれやれ、本当にアンタたちはなってないわ。これだから私がしっかりしなければならないのよね」

 春日は棒状のプレッツェルにチョコがコーティングされたお菓子を一本取り出すと、それを天井に掲げながら言った。

「相手にバレたなら、今すぐ仕掛ければいい! グダグダとしてる間に後手に回るなら、一か八かで先手必勝の方がナンボかマシだわ! さあ、今ある情報で一番可能性の高いのを絞り込むのよ! 大丈夫、一回くらいならミスしても何とかなる!」

「それでいいのか、春日……。まあ、確かに言ってる事は最もだけど」

「的葉、あんたの脳細胞に全額ベットしてあげる。存分にやってみなさい」

 爛々と妖しく光る瞳には、全幅の信頼があった。これ以上ないほど強く背中を押され、的葉の気分が一新した。

「…………。まあ、君がそう言うんなら、やってみるけどね」

「ノープロブレム! アンタにできないのなら、お手上げで結構!」

 突然ヤル気になってしまった的葉を見て、神部も覚悟を決めたらしく、闘志を漲らせた顔つきに変わった。


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