現代世界ツアー1
次の日、学校を無断欠席した王利と真由は、他の三人を連れ立ち、周辺地域の案内をしていた。
まさか気が付けば次の日だったとは、王利には予想すら付かなかった。
でも、起きたら日が昇り始めていたのだから少なくとも一日は経っていることだろう。
残念ながら女性だらけの家にあって、王利に浮いた話は一つも発生しなかったようだ。
既に朝食はほたるんが用意していて、なぜかハルモネイアも朝食作成を手伝ったらしい。
ハルモネイア曰く、真由に言われて人間の気持ちが分かるからということらしいが、王利にはどう繋がるのか全く理解できなかった。
食事を終え、さぁどうしようと全員で話し合った結果、学校に向ってクロスブリッドカンパニーに襲撃を受けるのもマズいし、何よりヘスティたち部外者を連れていく訳にもいかない。
ならばこの際休んでしまおう。ということで、全員で町案内と称した遊びに出掛けることにしたのである。
しかも正義の味方であるはずの真由からの提案で、王利は首を傾げながらも全員が賛成だったので仕方なく付きそうことにした。
意外にも真由が一番乗り気で、ヘスティたちが戸惑う程にテンションをあげていたりするのだが、王利は暖かい目で見守るに留めていた。
家を出て真っ直ぐに駅前へと向かう。
途中、真由はどこかにスマホで連絡を取っていたが、何故か激昂して電話相手と口論を始めたので、王利たちは彼女を残して足早に駅へと向かう。
この町の駅はそれなりに大きい。
といっても上りと下り一車線しかない、通過駅でしかないのだが。
門構えをいくら立派にしたところで中身が伴なわなければ意味がない、を体現している駅でもあった。
ちなみに急行と特急は止まらない駅である。
ポプラ並木が綺麗にステーション広場を色どり、夏には快適らしいミストカーテン完備、噴水とベンチの憩いの場も作ってロータリーにはタクシーが縦列駐車。バスの入り込む余地がないほどである。
そのせいでバス停がロータリーの真ん中なのにロータリーに入る手前で停車して乗り降りするバスの光景が見られたりする。
今回は電車に乗るわけではない。
ただ、駅のモール街がウインドウショッピングには向いているのでやってきただけである。
ここでまずは王利と真由によるデートはこうあるべきという感情を教え、次に実際にハルモネイアにやって貰い感情について知って貰おうという真由の試みである。
王利としては二度デートらしきモノをするのでちょっと恥ずかしいというか、これからの展開が容易に想像できるので余り嬉しくないのだが、もともと王利が言いだしたことだ。ハルモネイアに感情を教えるために、あえて茨の道を進む所存であった。
まずはほたるんにヘスティの護衛を任せ、ハルモネイアと共に行動して貰い、王利と真由がラブラブバカップルを演じてのウインドショッピングを敢行する。
果たして無事演技できるのか……というと、真由は自然体で王利の横を歩く。
王利の方が緊張しているくらいだが、真由はその横を普通に歩くだけで決して近すぎたり遠すぎたりはしていない。
恋人、というより友人といった様子で接して来る真由に、王利も次第緊張を解していった。
「王利さん王利さん、見てください。あれ、ドーナツっぽいシュークリームですよ。こういうとこしか売ってないせいか高いですけど美味しいんです」
「へぇ……って、お前食べたいから俺に奢れと言ってるんじゃないだろうな?」
「あれ? そう聞こえちゃいました? そうですねぇ。奢ってくれるならさらに惚れちゃうかもしれませんよぉ」
などと小悪魔的に微笑む真由。その視線はハルモネイアに見せつける為にここは買いでしょ? と言っているようだった。
ため息を吐き、王利は仕方なく購入。ヘスティが物欲しそうに見ていたので三人分購入した。
ほたるんとハルモネイアは機械なので無しだ。
さらに土産物屋を物色し、怪しげなストラップを揃いで購入。
センジュナマコという手袋のような生物の携帯ストラップである。
商品名はセンちゃんストラップ。何かのゆるキャラらしくつぶらな瞳が存在していた。
「うふふ。見てください王利さん、おソロのストラップとか、葉奈さんだって持ってないですよ」
「そういえばそうだな。……って、もしかしてマズくないか?」
「構いませんよ。葉奈さんはもう、王利さんがどれ程外道に落ちても尽くしてくれますから」
そういう問題じゃないと思う王利だったが、真由は気にしたふうも無く、今度は積極的に腕を絡めて王利に近寄った。
「ちょ、真由!?」
「もうちょいラブラブッぷりを見せつけませんとハルモネイアには伝わりませんよ」
「いや、本当の彼氏彼女ならともかくフリなんだから無理があると思うんだが」
「それはそうかもですが……あ、見てください王利さん、あの服可愛い!」
そう言って、真由は王利を引っぱり服屋へと消えて行った。
あまあまデート……に見えますが、真由の目的は別の所に。