自宅ハーレム・地獄編
ゾリッ
背中に押しつけられた金属質の身体が擦れた瞬間、王利の背中からありえない音が聞こえた。
次いで激痛。
思わず悲鳴を上げて飛び退いた。
具合の悪いモノが晒されるがそんなものを気にしている余裕はない。
背中の感覚がない。いや、痛みが強すぎる。
空気の感覚や風呂場の熱など全く分からなくなっていた。
何が起こったのか理解できずにハルモネイアを見る。
すると胸元に真っ赤な液体が塗りたくられていた。
「ち、血ぃ――――っ!?」
なぜそんなモノが彼女の真っ白なボディに付いているのか理解できずに半狂乱になりかける王利。
しかしとにかく冷静になれと自分に言い聞かせ、ようやく思考を働かせ始めた。
考えれば簡単だ。ハルモネイアの身体は人のそれではなく、硬い金属板を曲げたようなもの。
さらにいえばボディソープも付けず湯をかけず、摩擦係数を減らしもせずに王利の背中を鋼鉄ボディで擦りつけたのである。
当然、王利の背中の皮が捲れ、ハルモネイアが血だらけになったのだった。
しかし、当のハルモネイアは気付かない。
なぜ逃げられるのかが理解できずに首を捻る。
「王利、なぜ逃げる? こうすれば喜ぶのではないのか?」
「お、お前の身体でこれは無謀だッ! 無理無理、諦めろッ、汚れが落ちる前に俺の身体がすり減るわッ」
「どうしたんですか王利さん。何かありましたか!? ってぇ!? なんてもん見せてんですかバカァ――――っ!!」
何も知らない真由たちは近くに待機して成り行きをデバガメしていたのだろう。
王利の声に驚き風呂場へと侵入して来た。
そして直視する。
近くに投げるモノがなかった真由は、遅れてやってきたヘスティの襟を掴み、王利向けて投げ飛ばす。
「な、なぜワタシ……!?」
投げ飛ばされたヘスティの頭突きをドテッ腹に受け止め、王利は断末魔の呻きと共に倒れ伏すのだった。
「痛た……お、王利サンだいじょ……っ!!」
頭を押さえて起き上がったヘスティ、目の前にあったのは男のシンボル。
そして、絶叫と打撃音が近所に響き渡ったとか……
王利が気がつくと、もう部屋は真っ暗だった。
いつの間にか自室へと戻ってベットに入っている。
布団だけは被っていないが、ちゃんと寝巻を着ていた。
背中に痛みはあるが、風呂場の時程ではない。
背中に手を回して調べてみると、応急処置だろう、包帯が巻かれている。
誰かが治療してくれたのかと一息ついた王利は、気絶前の自分の状況に思い至る。
「お目覚めですかマスター」
見られた!? と顔を青くする王利。部屋の中に誰かが居たことには気付いていなかった。
声がしてようやく自分以外の存在に気付く。
視線を向けると、暗闇の世界の奥まった場所に、青白く輝く存在が一人。
まるで幽霊の様で、唐突に気付いていれば間違いなく絶叫モノだった。
「ほたるん……か」
「はい。状況の把握を終えたので応急処置を行いこちらに運ばせて頂きました」
「ってことは、この服も?」
「はい。私が気着けさせていただきました。ハルモネイアも酷い事をするものです」
ぷんぷん。という擬音が聞こえそうなほたるんは、静かに怒りながら両腕を胸元で組む。
「人と機械の違いってのはいろんな場所で影響あるんだと気付かされたよ。せめて摩擦がなければ被害も少なかっただろうけど……ところで他の三人は?」
「はい、空いている部屋を割り振らせていただきました。ただ、一部屋生活感がございましたのでそこは使用しておりません」
「ああ。そこはたぶん親父の部屋だ。帰った途端に部屋に女の子とか、いろんな意味でヤバいからな」
「了解しました。あの部屋には近づかないように致します。ところで……」
ほたるんは王利の元へと歩み寄る。
「マスター、明日よりハルモネイアに人の感情を理解させるのはいいのですが、あの襲撃者は如何するつもりです?」
「クロスブリッドカンパニーか。そういやバグレンジャーは向こうの世界だからこちらの護りは手薄なんだよな。他の秘密結社が気付けば混乱が起きかねないぞ。いや、そうなると別の正義の味方が駆け付けるか。確かこの地域周辺にいるのは……ジャスティスレンジャーと仮面ダンサーか」
「ジャスティスレンジャーと仮面ダンサー?」
「ああ。最近出来た正義の味方らしくてな。名前だけは首領に教えて貰ったけど詳細は不明。仮面ダンサーの方は何代目だっけか。初めのヤツは仮面ダンサー・アンだったかな? それからドゥ。トロワと続いていく訳だ」
「よく……わかりませんが、それはつまり、襲撃者に関しては問題は無いと?」
「ああ。変身しなくても十分対処できるだろ。真由も一応正義の味方だし。お前とハルモネイアもいるしさ」
「それもそうですね。では私はマスターの護衛を行うに留めます。さぁ、本日は怪我を直すためにも早く寝てください」
「あ、いや、ちょっとトイレに……」
「いけません。下手に動くと傷が開きます」
「……へ?」
「ちゃんと、介護用品を真由さんから頂きました」
と、背中に隠していたソレを王利に見せる。
手に持たれていたモノは……尿瓶だった。
そして、本日を持って王利のトラウマが一つ……増えた。