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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
ハルモネイア → 感情の芽生え?
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交渉成立、そして……

 光が収まる。

 出現先は、どこかの公園だった。

 人影は既になく、空には星が瞬いている。

 周囲にある電灯のせいで多少輝く星が少ないが、こればかりは都会である以上仕方ない。

 近くには簡素な造りの噴水。それと黒い支柱に取り付けられた時計。


 噴水から細かな煉瓦造りの通路を挟んだ場所には幾つか黒いニスで色付けされた木製のベンチ。その横には自動販売機が存在する。ベンチと自販機の間に電灯が立っていて、ベンチの辺りだけが綺麗な楕円型の光に包まれていた。

 ベンチの後ろは煉瓦一個分地面から浮きあがった芝生が広がり、その奥には木々が視界を遮っている。


 王利は目の前のハルモネイアから視線を外すことなく、手早く状況を把握する。

 薄暗いながら改造人間である王利たちには相手の一挙手一足投を見る事が出来る。

 そして王利の警戒対象であるハルモネイアはというと、突然転移した事実を受け止めきれずに周囲を見回し戸惑っていた。


「……現在地把握……ERROR。再試行……ERROR。理解不能。現在地把握を断念。優先事項を変更。現在状況の把握を開始します。スキャン開始」


 と、先程王利に向けた光線をベンチに当てるハルモネイア。


「構成……杉? ニス? 鉄? 物質名ベンチを確認。メモリーに記憶します。マザーへの転送……失敗。送信を断念します。スキャン開始」


 そんな言葉を呟きながら、自販機、電灯、時計、噴水、芝生などなど、目に付くモノを片っ端から調べ始めた。

 その行為で、ハルモネイアが王利に行おうとした行動が攻撃ではなくスキャニングだと気付いた王利。


 危険はまだあるが、いきなり攻撃してくる事は無さそうだと気付けた。

 バグリベルレたちに動かない様にと手で制し、王利は一人、背を向けてスキャン中のハルモネイアへと歩み寄る。

 途端、ハルモネイアが首だけをぐりんと王利に向けた。


「正体不明の生物の接近を確認。警告します。半径1m以内に入った瞬間、敵性分子と判断し消去を開始します。繰り返し警告します。半径1m以内に入った瞬間、敵性分子と判断し消去を開始します」


「あ~……その、会話するのは可能か?」


「正体不明の生物より人語の一種ホコラ語による会話を確認。交渉可能と判断し交渉を開始します。可否の判断をマザーに確認します……失敗。マザーへの通信は不可です。復旧の可能性が不明です。これより自己判断を開始します。感情機能ON。現在感情機能のバージョンは12bです」


 いちいちマザーとやらに確認するのはどうなのかと思う王利だったが、相手は機械なのだから仕方がないと納得する。いや、していた。

 感情機能とやらがONになった瞬間、ハルモネイアの表情が微妙な変化を見せる。


「初めまして、LRレゾンロリアス320091ハルモネイアいうる。あなたは誰?」


 いうる? と思わず戸惑った王利だったが、不具合か何かだろうと気付き、気にせず会話を始める事にした。


「俺は王利だ。アンタがあの管理室で人を管理していたハルモネイアだな」


「肯定。実験体№7000000から№8000000の管理をしていまる」


 やはり口調が少しおかしい。ついつい気になる王利だった。


「人を解放することはできないか?」


「否定。マザーより管理を預かっていまる。人間の解放はできませる」


「人間の感情を理解するため……だろ?」


「肯定。そのために人間を飼育しまる」


「じゃあ、もしその感情を調べられるなら、人を解放してもいいわけだ?」


 王利の言葉にハルモネイアは思考する。

 本来ならばマザーに指示を仰ぎたい所だったが、今は通信が繋がらない。

 仕方なく自分で思考する。

 感情を手に入れればマザーは喜ぶだろう。


 この王利という謎の生物は感情を教えてくれると言うのだろうか?

 もしもそうなら、人間の解放を条件に感情を理解することを了承すべきでは?

 そんな思考に行きついたハルモネイアは、小さく首肯した。


「肯定。もしも感情を理解できるのならば、人間の解放を行いまる」


 これを聞いた王利は内心ガッツポーズをしていた。

 戦闘をすることなく相手と交渉だけで済んだのだ。これほど楽な事はない。

 それに、感情が欲しいというハルモネイアは、どう見ても感情がある様に見える。

 そもそもが自分で考えて答えを出す段階にまで至っているのだ。

 自我が芽生えているといっても過言ではないだろう。


 ならば、後はそれを人としての感情まで高めるだけ。

 そして、その人間の感情はこの地球には腐るほど溢れている。

 飼育などで感情を殺された人類を相手に感情を調べるよりも参考になるはずだ。

 それに、上手くいけば……インセクトワールドの人材が確保できるかもしれない。


 打算的な思考を隠し、王利はハルモネイアと交渉する。

 王利からは人の感情を理解させること。ハルモネイアからは人間の解放。

 二人の交渉が上手く行き、ハルモネイアと握手をした王利。

 ほたるんに振り向きこれでなんとかなりそうだぞ。と視線を送る。そして、見た。

 ヘスティに向い走り寄ってきている一体の改造人間を。

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