休憩室
資料室を後にした王利たちは、さらに階下を目指していく。
途中々々の部屋を全て覗きこみつつ、探していくのだが、15階まで下りてきても管理室ばかりか人影すらも見ていない。
やってくるのは全てロボ。当然敵なので全部壊して進んだ。
そろそろなんらかの進展がありそうなものだが、ロボの数が増している事以外は進展などなかった。
14階の安全を確認したほたるんが王利たちに手を向ける。その手は握り込まれ、親指だけが立てられていた。
「よし、これで半分くらいは進んだな」
「というか、貸し部屋幾つ作ってるんですかねここ作った人は。バカじゃないですか?」
バグリベルレがそろそろ不満爆発一歩手前だ。
王利にさえ被害が来なければ王利としてはどうでも良いので、触らぬ神に祟りなしとバグリベルレに話しかけることだけは止めていた。
代わりに、ヘスティに視線を向ける。
ヘスティは猫顔ながら少々疲れが顔に出ていた。
王利が分かるくらいなので相当疲れているのだろう。
「大丈夫かヘスティ?」
「はいデス。ワタシ何もしてないデス。疲れる意味わかりまセン」
気弱に空元気を見せるヘスティ。
どうやらここまで付いてくるだけでも体力を使うのだろう。
いや、そもそも社長令嬢であるヘスティにとって、これ程歩く事など初めてなのだろう。
それも変身を長時間行ったままでの戦闘行為まで体験してである。
体力的には改造人間なので問題は無いだろうが、精神はさすがにそうはいかないようだ。
これは少し休みが必要だと気付いた王利。バグリベルレとほたるんに休憩する意図を伝えると、二人とも快く了承してくれた。
バグリベルレは反対するかと思っていたが、少し拍子抜けだった。
王利が怪訝な顔で見つめていると、バグリベルレもなんとなく意図を察したらしい。
「休憩ぐらい私だって了承しますよ。バグレンジャー内でも時々休憩取ったりしますし。いざという時疲れて動けませんではダメなのですよ王利さん」
ちっちっち。と人差し指を立てて横に振るバグリベルレ。人間形態でなら愛嬌のある行動だろうが、蜻蛉女にされても少しムッと来るだけだった。
王利はイラッと来た気持ちを抑えつつ、手ごろな部屋に向おうと周囲に視線を走らせる。
「アレは……」
「どうしましたマスター……あら?」
そこには休憩室と書かれたプレートの掛かったドアがあった。
どうやら昔の研究員たちが談笑するために造られた場所なのだろう。
「警戒しながら行こう。運が良ければ何か食べ物か飲み物あるんじゃないか?」
「何年前のか分かりませんけどね。八十年前の年代物ジュースとか、飲みませんよ絶対」
「俺も飲まないよ、そんなもん」
バグリベルレに反論しながら扉を潜る。
王利だけがまずドアを潜るのは、万一伏兵がいた場合に備えてのことだった。
だが、杞憂に終わったようだ。
部屋の中には誰もいなかった。
ロボすら居ない。
ただ六つの四角いテーブルがあって、一つ一つに六脚程椅子がある。
部屋の端には自販機があり、独特の機械音を轟かせている。
観賞用の木が一つ白い植木鉢に植えられており、その近くに黒い四角柱の灰皿が設置されている。ただし壁には禁煙のマークが取り付けられていた。
どっちだ? と思うが灰皿があるので吸っても良いのだろう。
本当にただの休憩室のようだ。
王利たちは適当な場所へと腰掛ける。
ヘスティが最初にへばった。机に寝そべりあぁ~っと声を上げている。
バグリベルレは一度は座ったものの、自販機が気になるようで、すぐに立ち上がると自販機を見に行った。
ほたるんは王利の隣に腰掛けると、電池が切れたように動かなくなる。
ちょっと心配になる程に身動きしないため、王利は思わず話しかけた。
「なぁほたるん」
「はい? なんでしょうかマスター」
話を振ると、即座に振り向くほたるん。その振り向き速度が異常に早かったので王利は思わず言葉に詰まる。
聞こうとしていた言葉が喉に引っかかり、思考の外へと飛び出して行った。
結果、何を聞こうとしていたか思い出せなくなる。
「……」
「……」
「あーいや、何を聞こうとしたんだっけ……」
「それは私に聞かれても分かりかねます」
頭を掻く王利にほたるんは小首を傾げた。
「もう痴呆ですか? 王利さんってそんな年齢でしたっけ」
「誰が痴呆症だよ。ってかどうしたんだよ真由?」
もう飽きたのか? といったニュアンスを交えた王利に、バグリベルレは苦笑い。
「いやー。よくよく考えるとこの世界の硬貨を持ってないんですよねー。100円玉でなんとかなるかと思ったらですね、100ξってなんですかこれ何て読むんですかって話ですよ!」
「ξ(クシー)ですね。この国の通貨の単位です。1ξ硬貨はエメラルド。10ξ硬貨はルビー。100ξ硬貨が金。1000ξ硬貨がサファイア。10000ξ硬貨がダイアモンドで作成されています」
ほたるんのどうでもいい説明で要らない知識が増えた。
サファイアが金より高いのはどうなんだ? と思う王利だった。