資料室の聖女の予言
クレストガーディアンを破壊した王利たちは、クレストガーディアンが護っていた部屋へと踏み入った。
内装は廊下と変わらない廊下と天井に吊り下がった照明。
そして所狭しと置かれた無数の書類棚。
「資料室……か?」
「資料室……デスカ?」
王利の呟きにヘスティが鸚鵡返しに呟く。
その声をスル―して、王利は書類の一つに手を伸ばした。
「これは……クレストガーディアンの作成図面か」
「マスター、こちらはこの町の開発予想図です。80年程前のものになりますので、かなり古いものですね。すでにこの殆どが設立され、また倒壊しています」
さまざまな資料が整理されることなく乱雑に置かれているようだ。
「丁度いいですね。このビルの図面とかありませんかね」
「マザーとかいうのの図面とかもないか? ちょっと探してみるか」
「王利サン、これ凄いデス」
王利の元にヘスティが資料を持ってくる。
その資料には聖女の伝説という題名で予言が書かれていた。
「なぜに?」
なんとなく嫌な予感を覚えつつ、王利はそれに視線を落とす。
――――
意志なき民が世界を統べる
迷える羊は飼い馴らされる
世界が女王の元一つとなった時
第四世界よりエクファリトスの王が舞い降りるだろう
王はその黒き身体で民を破壊し
脅威の跳躍で意志なき者たちを蹂躙するだろう
母なる意志は己の愚鈍に気付き涙する
王たる者に逆らえる者は無し
無力な民はその全てを捧げ王に忠誠を誓うだろう
だが心せよ
王を狙いしノクターヌの魔女が来る
魔女は死に瀕したサルトレアの魔王を蘇がえす
王は魔王に敵わない
ああ、意志なき民よ心せよ
滅びの時代が迫りくる
――――
エルティアの世界とは随分違うというか真逆といっていい予言だった。
なぜ聖女伝説がここにもあるのか謎で、しかも第四世界がなぜまた出てくるのか知らないが、ほぼ王利が関わっているのは確実だろう。
「となると、この王は俺のことか?」
「王利さんが王ですか? 確かに名前には王入ってますけど。この言葉を送りましょう。ちゃんちゃらおかしいぞ。ヘソで茶が沸くわっ!」
王利が呟いた所に、バグリベルレが横から覗きこんで来た。
「おやおや、これってエルティアさんから魔王討伐後に聞いた聖女伝説の続編ですか?」
「続編って……まぁ、繋がりはありそうだな」
「意志なき民……というのは今いるロボットたちのことでしょうか? ではマスターがロボットを統べると?」
「まさか……やり方もわかんねぇよ」
苦笑しながらも重要書類だと王利はその書類を回収しておくことにした。
「じゃあ、なんか重要そうな書類を手早く集めよう。後でそっちのドクターや首領に見せれば何か分かるものもあるだろうし」
「それでしたら私のメモリに焼き付けましょう。再生すればいつでも確認可能になりますし、私が目を通すだけですので、ここの資料全てを記録しておきます。予定所要時間は10分です。資料をこちらに置いて頂ければ多少の時間節約になります」
「おっけーですよ。そっちのが早そうですしね」
言われた通りに床に書類を置いていくバグリベルレとヘスティ。
その書類をありえない速度でスキャンしていくほたるん。
王利は読み込み終えた書類を邪魔にならない場所に置く係にされていた。
「これで終了です」
予告通り約10分で資料室にある資料全てを記録し終えたほたるん。
読み終わった資料はすぐ横に山の如く積まれている。
棚に戻すには王利一人では時間が足りず、やむを得ず地面に置いていくといつの間にやら部屋の半分が資料に埋まってしまっていた。
「それで、このビルについては何かあった?」
「いいえ。残念ながらこの資料内にはありません。殆どが護衛用機械の図面や企画段階で廃案された機械案などになります。後はそれらの作成経過報告書などになります」
残念ながら一番欲しい資料は無かったようだ。
バグリベルレやヘスティの落胆が酷い。
まぁこの資料室の全ての書類を移動させたのだからその労力が無駄になったとすれば落胆も仕方ないことである。
「ですが、このビルを管理しているロボがどこに居るかはわかりました」
「へぇ、どこだよ」
「管理室です」
そのまま過ぎて開いた口が塞がらない王利だった。
「それは、何階にあるデス?」
「さぁ? そこまでは資料に書かれていませんでした。管理室用のロボとして作成されたLR320091。通称【ハルモネイア】。女性型管理ロボとして管理室に配置すると書かれてありましたので」
「となると、管理室を沈黙させておけば他のロボが私達を襲う事は無くなるわけですか?」
「おそらく、ビル内のロボは独立していますし、マザーによる直接操作はされていないはずです」
相談の結果、先に管理室を探しこのビルを無力化させることになった。