機密の部屋を護るモノ前編
部屋の中に存在したのは、無数の保育器だった。
内部には赤ん坊が一人づつ入れられている。
そして、世話係だろうロボが空いたスペースを行ったり来たりしている。
「ここは……」
人工保育器といったところだろうか。
この部屋のロボは王利たちが近づいても攻撃してくる気はないようだ。
無視して赤ん坊たちの異変チェックを行っているので、王利たちも警戒を解いて部屋の内部を調べ始めた。
「どうやら、生まれた子供はここで一括管理してるみたいですね」
「アンデッドスネイク辺りがやってた奴ですね。正直胸糞悪いですね」
「あ、あの、真由サン……女性がその、く、くそとかいうのはちょっとデスね……」
「何ですか。ヘスティさんも言っちゃってるじゃないですか」
「そ、それは今言わざるを得なかっただけデスし……」
「マスター。この人間たちはどう移動させましょう?」
「うーん。赤ん坊は自力で動けないしな……今は放置しておいた方がいいだろ。下にいるだろう大人たちを救出したあとそいつらに運ばせるのが一番だろうな。少々手間だけど」
もう一度ここまで上がって来なければならなくなるが、ロボの襲撃の中を足手まといの赤ん坊を連れ歩く訳にもいかない。
王利たちはもう一度来ると誓い、部屋を後にした。
王利たちがしばらく階段を下りていると、不意にほたるんが立ち止まる。
周囲を警戒する様子に異変を感じた王利たちは、階下の廊下へと向い、階段の壁面から左右に伸びた廊下を覗き見る。
「うっわ……なんか中ボス的存在がいる気がするんですが、幻覚でしょうか?」
無骨な円筒形の顔を持つ巨大なロボが宙に浮いている。
浮遊状態のそいつは白く輝く甲冑のような装甲。下半身は存在せず。右手に機関銃の砲塔を取り付けられている。左手はガトリングガンのようだ。
「どう見ても幻覚じゃないな。何だあれ?」
「!? あれは……」
ほたるんが弾かれたように呟く。バグリベルレがちょっと嬉しそうに言った。
「知っているのかほたるん?」
「はい。LO-912・甲型、№は分かりませんが、対軍団用殲滅防衛兵器。通称クレストガーディアンです」
名前の意味は理解できなかった面々だが、話を聞いていくと、どうやらかなり危険な兵器だということが理解できた。
そして、アレが護る先に重要な拠点があるということも。
「……ふふ。王利さん。盾よろです。上手く私を守ってくださいね」
「真由?」
「弾幕シューティングの中ボスキャラ。いいじゃないですか。なんか、燃えてきました!」
「いや待て死亡フラグ。アレは近づいて勝てる相手じゃないぞ。そこの角に一気に向おう。回避するぞ」
「なに言ってんですか王利さん。アレが護ってるのは重要機密ですよ? やるしかないでしょう。スラッシュスタンピード使いますから効果範囲まで接近させてください」
「いや……ったく。まずはアイツの攻撃で俺が無傷かどうか試してから」
王利は諦めさせようとして、しかしバグリベルレの様子が絶対に諦める気が無いことに気付いた。
呆れながらも、ならば安全に倒す方法を考えることにする。
まずはヘスティの安全を確保するためにほたるんと共に逆方向にある角に向って貰う。
相手の認識外だったようで、気付かれること無く移動する事は出来た。
ヘスティのことはほたるんに任せて王利はまずは一人、クレストガーディアンに近づいていく。
一定範囲まで近づいた瞬間だった。
突如クレストガーディアンが王利を振り向き左のガトリングガンが火を噴いた。
「うおわあ!?」
慌てて階段に逃げ込む王利、数発身体に当ったが、分厚い装甲は痛みこそ与え、傷は付いていなかった。
「あ、あぶ、危な……死ぬかと思った」
実際のダメージは少ないが、目を覆うような銃弾の嵐は王利に死の恐怖を与える。
精神的ダメージはかなり大きかった。
だが、やってやれない事はない。
「真由、なんとかできそうだ」
「本当ですか!? うっし。ちょっと今の見て及び腰ですけど、なんとか振い立ちますのでこっち戻ってきてください」
さすがのバグリベルレも眼前を通り過ぎていく銃弾の嵐に恐怖を感じてしまったらしい。
王利は銃弾が止んだのを確認してバグリベルレたちのいる通路へと戻る。
どうやらクレストガーディアンは弾の撃ち過ぎで銃口が熱を持っているらしい。
冷却期間中は撃つことが出来ないようだ。
「やめるなら今の内だぞ真由」
「大丈夫です。行っちゃいましょう王利さん。今の私は……そう、博愛戦隊ラブレンジャーです!」
どうやら恐怖を拭い去るために自分がテレビのヒーローだと思いこむことにしたらしい。
彼女自身正義のヒーローなのだが、そこは突っ込んではいけないようだ。
王利はため息を吐いてクレストガーディアンを見る。
もう一度撃たせて冷却期間中に近づけないかと思うが、右の機関銃はまだ使われていない。
おそらくガトリングガンを撃ち終えた時を見計らい襲ってくる相手用の攻撃手段なのだろう。
そちらの攻撃にも耐えられるか調べておきたいが、さすがに何度も接近して銃弾を喰らう気はない。
やるのなら次でカタを付けたい王利だった。