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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
改造人間 → 勇者
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葉奈さん暴走中

「ぐぁっ!? ぶっ!!?」


 光が止まった。

 そう思った瞬間急に浮遊感が襲った。


 すぐに地面があったため大したダメージはなかったが、王利は背中をしこたま床にぶつけて息を吐いた。

 さらに重量物が彼の腹に直撃して肺に残っていた空気が全て吐き出された。


「ったぁ~……!?」


 王利の上に乗っていたのは蝶人間だった。

 頭に触角を生やし目は黒い複眼。


 一昔前流行った、今もやっている人気ヒーロー番組にでていたバイクに乗ったバッタの改造人間のように目は人としてみるとかなり幅広だが、今の彼女の体には、マッチした目の大きさだった。


 胸の辺りには柔毛で覆われ、全体的に黒いスーツのようなものに覆われていた。

 彼女、バグパピヨンは顔を上げた先にいた王利を見て驚愕した。


「あ……」


 何かを口にしてそのまま固まる。

 敵同士でそれはあまりにも無防備すぎるものだが、王利は彼女が我を取り戻すまでその場を動かなかった。


 自分でも何故か分からなかったが、パピヨンが攻撃してくるとはどうしても思えなかったのだ。


「……なんで、戦わないの?」


「俺の任務は荷物を持って帰ることだからな、戦う必要性がない」


「それで死んだら意味ないじゃん」


 パピヨンの言葉に頷いている自分に思わず笑ってしまった。


「確かにな、でも死んでねーぞ」


「殺す気なかったし。せめて手だけ切り落としてそれ奪うつもりだった」


「怖ぇ女だな」


「こんな女が彼女じゃやっぱ嫌よね」


「スリルはある」


「何よそれ」


 パピヨンこと葉奈は笑った。

 変身しているため表情は見れなかったが王利はちょっと嬉しくなった。

 自分は殺されるかもしれないというのに自然と葉奈なら大丈夫だという気がしていた。


 なぜ自分はそんなことを思うのかわからない。

 ただなんとなく、こいつは信じて大丈夫だと思う自分がいた。


「wechsel」


 言葉と共にパピヨンは光り輝く。

 輝きが治まった先には人に戻った葉奈がいた。


「何してんだよ?」


「うん。なんか自分でもわかんない。もちょっとこのままでいい?」


「あー……まぁいいか」


 葉奈は落ち着いていた。

 今までいろいろな居場所を点々としていた。

 その中でも今が一番幸せだといえる居場所だと思えた。


 こんなことを思うのは初めてだった。

 初めは、本当に覚悟を決めて王利を殺す気で飛び掛った。

 なのに気が付けば王利が光に包まれたとき、王利の胸に突き入れるはずだった腕は、彼を放すまいとするかのように王利の右手を掴んでいた。


 掴んだ瞬間意識が一瞬飛んだ。

 気が付いたときには彼の胸に飛び込んだ後で、それからはもう心臓が張り裂けそうなほどに波打っている。


 一目惚れ……というわけではない。

 やはりこれが彼の怪人としての能力なのでは?

 などと密かに思うが、それもどうでも良く霧散してしまいそうな程心地よい幸せを感じていた。


「ところでさ葉奈さ……葉奈?」


「な、何!?」


 心地よすぎて眠りかけていた葉奈は、王利の呼びかけに思わず飛び起きた。


「ここってどこだろな?」


「え? 何を言って……」


 突然話しかけられたせいで混乱したままだった葉奈は、視線を王利の体から外へずらした瞬間、思考停止に陥った。


 目の前に広がる情景は金属の床ではなかった。

 まして土で出来た洞窟でもなければ夕暮れでもなかった。

 石造りの室内。

 まるで外国の城にありそうな部屋。


 周囲には箱が山積みにされていて、食料品がこれでもかと詰まっていた。

 記憶にもこんな場所はない。


「そろそろどいてもらってもいいか葉奈さん」


「ふぇ……あ、ご、ごめんっ」


 王利に言われてようやく知った。

 自分が王利を押し倒す形で寝そべっていたことに気づき、葉奈は慌てて飛び退いた。


 飛び退いてから名残惜しい気持ちが押し寄せ戸惑う葉奈。

 なぜ自分がそんな気持ちを持つのか理解できず王利に名残惜しいと視線を向ける。

 王利はそれに気づいていないようで、ゆっくりと立ち上がり尻を払う。


「見覚えは……ないな」


「そ、そうね」


 王利の言葉に答えながら葉奈は王利を見る。

 辺りを見回す王利の横顔を見て胸が高鳴った。


 うわっヤバい。

 と思ったときには既に遅く、体が熱を帯びるのが手に取るように分かった。


 確実に惚れ込んでいた。

 なぜなのか理由は自分でも分からない。

 気が付くと、というやつだ。


 いや、むしろ、誘導された様な恋心である。

 まだ顔を合わせて二、三時間である。

 一目惚れでもないのにこれは確実におかしい。


「ね、ねぇ王利……君」


「ん? 何?」


 葉奈の言葉に振り向きかけた王利。

 真正面から見つめ合ったら自分はまず間違いなく王利を襲ってしまうと思った。

 女の子からそんなことをされたら王利に確実に嫌われる。

 痴女と思われたくない。


 わずか一秒程度でそう考え抜いた葉奈は即座に王利の首を掴み振り向かせないよう固定する。

  グキッと音がした気もするが、葉奈は気づかないことにした。


「あ、あの……何デショウ?」


「ご、ごめんこっち向かないで。んで王利君の怪人能力ってなんなの?」


「向くなっていうなら向かないけど、変身後の能力教えて俺にメリットねーだろ」


 確かにそうだと葉奈は今さら気付いた。

 葉奈と王利は敵同士なのだ。

 王利は体内の爆弾のせいで組織は裏切れない。

 そして葉奈は別組織の裏切り者の身だ。


 今さら他組織に身を寄せる気はないし、悪の手先になる気も毛頭なかった。

 だからこそ、二人が一緒になることはない。

 永遠の敵同士だ。


 当然メリットがなければ教える必要はないし、わざわざそんなものを作ってまで知る必要もないとは思う。

 そこまで考えると、今度は逆に離れたくないという想いが押し寄せてくる。


 そんな思いが自分に湧き起こる事こそが以上だ。

 葉奈は悪を倒すと皆と誓い合ったはずなのだ。

 ただ腕相撲で負けて彼氏となっただけの男に恋心ばかりか劣情を抱く理由がない。


 それでも、王利への思いはなぜか強くなる。

 だから……両手を王利の首から離し、つい洩らす。


「キス……していいよ」


 自然と、口から出ていた。

 一瞬王利は何を言われたのか理解できなかった。

 ついくるりと顔を葉奈に向ける。

 そこにタイミングよく近づいてきた葉奈の顔。避ける暇すらなかった。


 時間が止まる。

 流れる二人だけの時間。

 背伸びした葉奈の足に限界が来て唇が離れるまで、二人は口付けを交わしていた。


「葉奈さ……」


「あたし、今日なんか変。自分が自分で理解できない」


 そのまま体を預けるように王利にしなだれかかる。


「お、おいっ」


「これ……王利君の能力のせい? 王利君の力は、女性を無理矢理惚れさせたりするものなの? あたし、自分で自分止められないよ……」


 王利は戸惑うしかなかった。

 葉奈は息が荒く体が熱い。

 でも熱があるというわけではなく苦しそうにも見えない。

 むしろ妖艶に誘っているようにすら見える。


「俺には……その、女の子を惚れさせる力なんてない……と思う」


「そっか、ちょっと安心。かな」


「あ、あの葉奈……さん?」


「ごめん……もうちょっと、もうちょっとだけこのままで」


 葉奈自身も戸惑っていた。

 だが王利の力に自分が王利に夢中になるような力がないというのなら、今の状態を説明する理由は一つだけ。

 葉奈自身がそれだけ王利に夢中になっている証明だった。


 一日ばかりか親しく話して半日も経ってない。

 自分がそこまで人に惚れこむことなど思ってもいなかった。


 でも王利のことを考えるだけで、触れていると思うだけで自分をめちゃめちゃにしてほしいと思ってしまう。

 いっそ手酷く調教されてしまえばずっと一緒にいられるのにとすら思ってしまう。


 自分の醜い欲望に気づいてしまったようで愕然となる。

 それと同時にそうなることを望み期待している自分もいた。

 いつそうなってもいいように王利に無防備な自分を曝している自分を諌めることも出来ない。


 これでは真由の言ったとおり、恋ではなく発情だ。

 どうすればいいのか分からない。

 王利も困っているはずだ。

 これは求めてはいけないものなのに……


 濡れた瞳で王利を見つめていた。

 どちらからともなく距離が縮まっていく気がする。

 葉奈はもう、止まらないと思った。


 自分を自分自身で止めることが出来ない。

 王利と一つになることを望んでいた。

 唇が、再び重なる。


「あのぉ~」


 場違いな程、遠慮がちに掛けられた声に全身が止まった。

 せっかく辺りを漂っていた甘いムードは払拭され、何とも気まずい雰囲気が漂う。


 二人同時に声を視線で追っていた。

 山積みにされた箱の一つから、恐る恐る覗いている少女が一人。

 赤い果物だらけの箱に潜んでいた。


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