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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
ロボ → 美少女?
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策謀

「アント、ちょいちょい」


 全員が移動を始めたその最後尾で、ドクター花菱がバグアントを誘う。

 バグアントは怪訝な顔でドクター花菱の元へと寄ると、周囲を気にしながらも何事かと耳を傾ける。


『あの改造人間、仲間に引き込んで』


 声を潜め。ドクター花菱が冷めた声で言う。

 その声は彼女の口からは洩れていなかった。

 ただ、バグアントの内部にのみその声が響く。


 バグアントに内臓された主人の心の声を聞き届ける装置のせいである。

 別に近寄る必要はないのだが、どうせ内緒話を行うならばとドクター花菱は彼の耳元に自身を近づけていた。

 口を動かさず、声も出していないので周囲に聞かれる心配はないが、バグアントの声は普通に外に漏れるので、独り言にさせないためでもある。ほぼ半分はドクター花菱が内緒話は相手の耳元でというこだわりでしかない。


「……正気か?」


『正気も正気。下調べは済んでいるんだろう? バグリベルレたちの会話からはかなり強いように思えるけど? ボクとしては彼と敵対するといろいろと失うものが多いんだよね』


「なるほど。それはなんだ?」


『一つ、霧島葉奈。一度主を認めてしまった以上、彼女が主を裏切ることはない。それは自分の死を意味するのと同じ事だからね』


 なるほど。とバグアントは納得する。真由からも言われていたインセクトワールド社との休戦を行う理由の一つである。

 もしも完全な敵対関係になれば葉奈は確実に敵、インセクトワールドに味方するだろう。

 さすがに殺し合う事は無いかもしれないが、少なくとも戦力を一人失うのは確定だ。

 すでにバグシャークという戦力を失ったバグソルジャーにとって、それはあまりにも大きな痛手である。


『さらにも一つ。ほたるんだ。彼女はどういうわけかあの改造人間を主と認めてしまった。つまり、彼らと敵対すれば葉奈だけでなくほたるんまでがボクらの敵となるわけだ。せっかく作ったのに敵に寝返るとか誰トクって感じ? 寝取られ感ハンパないよね?』


「無理に変な言葉を使うな。だが、確かにそれは面白くないな」


 ふいに、バグアントの言葉が聞こえたのか、首領が振り向く。

 しかしバグアントと目が合うと、首を捻ってエルティアと話をしながら歩きだした。

 しばらく警戒したバグアントだが、それ以降こちらに視線は送って来なかったので、気にせず会話を再開する。


『最後にも一つ。これは可能性の段階だけど。あの首領さんのことだ。バグシャークを殺しただけで終わらせるとは思えない。必ずボクらと敵対した時用の用意があるはずだ。たとえば……バグシャークの身体を精密に調べて偽物を作りだしてくるとかね。そうなればおそらく真由も対戦では役に立たなくなるだろうね』


 もしも言われた通りなら、実質インセクトワールドと敵対した場合、バグカブトとバグアントだけで戦う事になる。

 敵の戦力が増えた状態でそれはあまりにも愚策。敗北は必死だった。


「本当に面白くないな。……で、本音は?」


『身体、研究、ボク、調ベル。解剖、解剖』


 なぜ片言で話しだしたのかは理解できなかったが、要するに森本王利の改造人間としての能力を解剖して調べたいということらしい。

 実際に解剖する訳じゃない。身体をスキャンしたりして使われている手法、どのような能力を持っているのか、そのためにどれほどの改造が成されているのかを調べるのだ。


 仲間として戦っていればそのうち怪我くらいはするだろう。ドクターなのでメンテナンスを行うと善意を前面に押し出せば、簡単に身体を調べる術が出来る。

 後は煮るなり焼くなりドクター花菱の自由である。


「確かに、奴は謎だな」


 バグアントは実際に王利の変身体であるクマムシ男と戦った経験も、戦いを見たこともない。

 全て聞いただけだ。

 最初はバグカブトから。彼が思い切り殴ったら自分の腕が破壊されたという意味不明の強度のこと。

 次にバグパピヨンから、どんなに強くて格好良くて輝いていたか。主観バリバリの葉奈の妄想と理想が入り混じった参考にもならない惚気話。

 そしてバグリベルレからどこの厨二病が造った話だ? と思えるようなありえない本当の話。


 正直、バグリベルレが冗談を言っているようにしか聞こえなかったのを覚えている。

 魔王の数々の魔法を喰らいながら無傷で魔王を倒す話しなど、絵物語でもまず存在しない。

 だが、バグリベルレの目は真剣だった。決して作り話ではないと目が言っていた。


『アントも調べたんでしょ? どうだったんだい?』


 どうか? と言われれば、確かに調べた。

 相手の容姿や特性からすぐにクマムシ男だとは割り出せた。

 だが、それでも納得などできない。


 実際のクマムシは弱いのだ。

 それはもう、湯を掛けるだけで死ぬし、押し潰すことができる強度なのである。

 バグカブトの拳に耐えうる強度であるはずもない。

 確かに、クリプトビオシスと呼ばれる無代謝の休眠状態ならばかなりの圧力にも耐えられるらしいが、その状態では満足に動けるはずもなし。なにせ干からびた状態なのだから。


 その無敵状態にだって数時間を掛けて移行するのである。

 その間に何かされると当然死ぬ。

 だが、王利は炎に焼かれても即座に体内の水分を蒸発させ、何のリスクもなく復活している。

 通常ならありえない肉体強化だ。幾ら改造人間といっても限度がある。


『ま、というわけで、よろしく』


「やるだけはやってみよう。期待はするな」


 何がというわけなのかわからなかったが、バグアントは静かに頷いた。

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