科学者現る
「やあ、森本王利氏。君のことはいろいろと聞いているよ」
「あんたは……」
右手をポケットから出すと、親指と小指でメガネの縁を押し上げ、さらに人差し指をメガネの中心に添える。
「ふっふっふ。ボクの名前を聞くのかい。聞いてしまうのかい」
勿体ぶった言いまわしに、バグソルジャーの面々が額に手を当て、また始まったと沈痛な表情を浮かべた。
「ふっふっふ。ははは、はーっはっはっはっはッ。心して聞くがいい。ボクの名を。そして恐れよ。敬え。畏怖をしろっ! 我はこの世に望まれ正義のために悪を貫くマッッッヅサイエンティィィスト。ドクターコズミックスペースアルティメッター。またの名を、花菱鹿波様であるッ」
意味不明であった。
「なんか、いろいろスマン。そいつがウチの科学者だ」
耕太が身内の恥晒しめ。と呟きながら答える。
バグレンジャーの身体を強化したり武器を作ったりするのが役目らしい正義の味方側のドクター。
背の高さは150代の小柄な少女だ。
正直首領といい勝負している。
おもに胸のあたりが……!?
なんだ? 今物凄い殺気が遠くから飛んできた気が……
気のせいか? 気のせいだよな。
不埒な事を考えたせいか、心臓を鷲掴むような気味の悪い感覚に陥り王利は脂汗を滲ませた。
「ふっ。どうやらボクの肩書きが凄過ぎて開いた口が塞がらないようだね。すまない。天才すぎるボクがいけないんだ。ああ、なんで罪深い知能を持って生まれてしまったんだろうボク、素敵だよボク、ゾクゾクするよボクぅ~♪」
ナルシストとでもいうべき変態がいた。
王利は痛くなり始めた頭を抱え、周囲を見る。
どうやらバグレンジャーの面々も同じらしく、一様に頭を抱えている。
あの真由ですら残念な娘を見る母親の顔をしているのが新鮮だった。
「うおっほん。とにかく、その異世界とやらに行くなら頼みたいことがあるんだ」
自分を抱きしめながら奇妙に悶えていたドクター花菱。
一度わざとらしく咳をして話を変えた。
「頼みたい事?」
「ああ。ほたるんはボクの天才脳が最新技術を駆使しして作り出したボディを持っているが、攻撃方法についてはボクの頭の中だけでは限界がある。そこで異世界の科学技術を幾つか持ち帰ってほしい。いや、違うな。この際だ、ボクもついて行かせてもらうよ。実際に目で見て触って大改造ビフォ……げふんげふん。とにかく、ご一緒させてくれ給え」
「さすがだなドクター、まさか自分から火中の栗を拾いに行くとはな」
バグアントが皮肉めいた言葉を吐くが、褒め言葉と受け取ったらしくドクター花菱は無い胸を張る。
「ふふ。そうだろうそうだろう。さすがはボクさ。ボクは行動する科学者なのだよ。伊達にドクターコズミックスペースアルティメッターを名乗ってはいないさ。それに、ほたるんたちのメンテナンスをおこなうのにボクが必要だろうしね!」
ようするに、天才だけどどこか頭の螺子が取れた存在らしい。
王利としては頭が痛い申し出なのだが、話しの状況から言って断るのは無理そうだ。
結局、しぶしぶ王利は自分の家に彼ら全員を案内する他なかった。
秘密基地を暴いた後は、こちらの秘密基地に案内することになった。
とはいえ、既に葉奈や真由が普通に訪ねて来ているので実質モロバレ状態なのだが、要はこの後に待ちうけているであろう首領からのお怒りが王利の気分を重くする要因である。
意気揚々と出かけるドクター花菱を先頭に、バグアント、耕太、真由、葉奈とぞろぞろ歩いている様はどう見ても異様であった。
それを見てさらに気を重くする王利を葉奈が慰めつつ、ようやく王利の家に辿りつく。
「あっほかぁ―――――っ!!」
当然ながら、王利が理由を離すと、ベットの上でくつろいでいた首領が怒鳴りだした。
「たかが怪人の分際でなにを勝手に今後の方針を決めておるかっ!!」
「そ、そんな怒らなくても、王利さんだって一人の人なんですから独自の方針だって……」
「我が首領でW・Bは我が配下であるぞ。主に許可なく勝手に行動する奴は爆殺だっ!」
駄々をこねるようにベットで暴れる首領。
王利はちょっと自分の主がこの人で大丈夫かと心配する。
バグレンジャーたちはさすがにこの部屋に上げるのは王利としても問題だったので、葉奈と真由だけ連れて来ていた。
双方、首領の駄々をこねる姿に呆れ気味である。
「あのさ、首領さん、王利君の自爆装置は無くなったでしょ。別にあんたの配下である必要はないのに好意で部屋まで分け与えてくれてるんだから、このくらいはイイと思うけど?」
「発情痴女娘は黙っとれ。ああ、クソッ、覚えておれよW・B!」
「は、はつじょ……」
理不尽な怒りの矛先を向けられ王利は泣きたくなった。
葉奈は飛び火した言葉の暴力に崩折れている。
それでも首領はしぶしぶバグレンジャーからの申し出を聞くらしい。
側に控えたヘスティとエルティアに視線を送ると、ため息を吐いて一言。
「仕方あるまい、手早く終わらせるぞW・B。ヘスティ、エルティア。貴様らも行くぞ」
そして、王利たちは一階にある居間でバグソルジャーの面々と合流する。
王利が腕に填めた腕輪のダイヤルを回し、異世界へと旅立った。