秘密基地の住人
自分の部屋に荷物を置いて来た真由と共に、王利は地下へと向かった。
幸いにも葉奈は部屋に居なかったようだ。
土下座した意味がなかった。
地下は台所にある床下収納を取り外した場所に階段があり、そこから行ける。
床下収納には梅干しが瓶で付けられたものが目一杯詰まっていたものの、改造人間にはソレごと抱え上げるのに問題はないらしい。
真由が抱え上げた時はさすがに王利も驚いた。
家に侵入された時でも秘密基地だとバレないように心がけた結果だろう。
誰だってこんな場所に地下への階段が隠されてるとは思わないだろうし、まず探さないだろう。
で、地下へと入る時に床下収納用のボックスを頭上に掲げた真由が階段を降りながら蓋を閉める。
地下への扉が自動で閉まらないのかとどうでもいいことを考える王利。
真由と共に長い階段を下りて行くと、やがて薄暗いながらも淡く輝く部屋へと辿り着く。
室内は予想以上に広かった。
しかし、数々の器材が犇めく様に接地されており、六畳間より圧迫感を感じてしまう。
おそらく20畳くらいはあるはずなのに、その容量の半分以上が機械や良くわからない装置で埋まっている。
中央には円形のテーブルが一つ。その周りに、床に固定された丸椅子が六つ接地されている。
今はそこにバグアントと葉奈。そして耕太が座っていた。
葉奈と耕太はお茶を啜っていたが、真由と共に王利がやってくると、顔を見た瞬間お茶を吹き出した。
「な、ななな、なぜ王利君が!?」
「も、望月君、これは一体どういう……」
慌てて立ち上がる二人。
その対面で、二人の含射を一身に受けたバグアントが冷めた声を出す。
「バカリベルレが連れて来たんだ。騒ぐ前にまず言う事はないのか?」
反論しようと振り向いた二人は、バグアントの惨状を見て押し黙る。
即座に謝っていた。
雫を滴らせるバグアントは不機嫌そうに立ち上がると、奥へと消えて行く。
どうやらこの部屋の奥にも部屋があるようだ。
そちら側にドアがあり、バグアントがドアの前に辿りつくと、自動でスライドしていた。
「あ、あの、その、き、汚いとこですが、王利君、どうぞ、どうぞどうぞ」
葉奈が突然の訪問にガチガチに緊張しながら自分の隣の席に促す。
ちょうど耕太がその隣に来る座席だった。
耕太とはいまいちそりが合わない王利は、丁重に断りつつ、葉奈の逆隣の席に移動する。
そして、その横、先程までバグアントが座っていた席に真由が腰掛けた。
「葉奈さん、こっち来てたんですねぇ」
「あ、う、うん。ドクターが新人紹介するとかいうから、皆で待ってたの。真由待ちだったのよ!」
「え? そうなんですか? それは悪いことしました。ちょっと呼び出されたので王利さんとデートしてましたよ」
ニタニタしながら真由が告げると、葉奈がこの世の終わりみたいな顔で王利に視線を向ける。
「お、おお、おお王利きゅん。その、あの、わ、わ、わた、あの、い、至らぬところが、その、あ、ありました、か……?」
「葉奈さん、そんな動揺しなくても。真由のジョークだよ。ブラックジョークだ。達の悪いな。葉奈さんに至らないとこなんてないよ」
王利の言葉に、心底ほっとしたような顔で息を吐く葉奈。
その顔があまりに可愛らしくて、王利は照れ隠しに頬を掻いて視線を斜め上に向けた。
「それで、なぜこいつを連れて来たんだ真由?」
「王利さんをですか? それは……」
と意味ありげに王利に視線を向け、ニヤリと微笑む。
存外に悪戯好きらしい。
「ふふ。王利さんに呼び出されていろいろあって仲良くなったんですよぉ。いろいろあって、仲良く。あのロボットがどうなったか教えて差しあげようとも思いましたので」
「ああ、なるほど。あの機械か。全く、ドクターの趣味は理解したつもりだったが、俺もまだまだだったな。やはりあいつは底知れん」
「真由、なんとなく予想付いてるだろうけど、新しい仲間っていうのがそのロボットなんだよ」
新しいバグレンジャーの五人目はロボらしい。
王利は脳内メモに書き留めながら、どんなゲテモノを作り上げたんだろうかと呆れていた。
「おい、なぜ俺の席に座った!」
水分を拭き取って来たらしいバグアントが奥から戻ってきた。
真由が椅子に座っているのを見咎めるが、真由は気にした様子もなく「まーいーじゃないっすか」と片手を振って軽くウインク。
真由に何を言っても無駄だと気付いたバグアントはため息を吐きながら真由の横に座った。
そこで不意に、王利は我に返る。普通に座ってしまったが、正義の味方に囲まれながら、自分が座っている状況に。
どう見ても異常である。
どう言い繕って帰ろうかと思案していると、バグアントがでてきた奥の扉から、再び誰かがやってきた。歩くたびに独特の金属が擦れる音が聞こえる。
ついに、噂のロボットが姿を現した。