真由のフラグが立ったかもしれない
家に戻った王利は首領に金だけ渡され、一人バグソルジャーの元へと向う事になってしまった。
幾つかの商店を梯子して、ようやく目的のブツも入手し、葉奈に連絡を取ってから真由を呼び出してもらう。
その頃には周囲は黄昏色に染まり、駅前は帰路に着く人々で溢れ始めていた。
そんな駅前で待ち合わせすることとなり、無駄にそわそわしながら待っていると、見知った金髪娘がやってきた。
やや不貞腐れた顔なのは、失意のど真ん中に居るというのに呼び出すんじゃねぇよこの阿呆とでも言おうとしているようだ。
ただ、その服装は妙に気合いが入っている気がする。
学生服ではなく普段着のようなのだが、どう見てもそこいらをぶらつく服装ではなく、友達とウインドウショッピングしたり、異性とのデートに行く時に着そうな可愛らしい服だ。
彼女の改造状態を象徴するかのように黄色のワンピース。
肩や胸元が露出しているのがちょっと目のやり場に困るが、妖艶というわけではなく、むしろ愛らしさを際立たせている。
身体が小さいのも可愛らしさを引き立てる役割を果たし、ちょっと膨れ面なのがまた可愛い。
ついつい頭を撫でて機嫌を取りたくなってしまう。
実際にやると怒るのは確実だったが。
頭に付けた麦わら帽子のような黄色い羽付き帽のツバで顔を隠している姿はなんだか新鮮だった。
そんな彼女は、自慢のブロンドヘアを風に揺らしながら王利の前にやってくる。
「何の用です王利さん。大した用事でなければ引っ叩きますよ」
目の前にやってくるなり手酷い態度。
王利はため息吐いて帰りたいと思いながらも、毅然と立ち向かう。
「とりあえず、先に首領から君に伝言がある」
「伝言……ですか?」
王利の態度からなんとなく嫌な予感を覚えたらしい。
凄く嫌そうな顔をしていたが、仕方なく話を促す。
「あの女からってところがちょっと嫌ですが、お聞きしましょう」
「首領の名前覚えてる?」
「官田なんとかでしたね。それが何か?」
「黙ってて欲しいらしいよ。出来れば墓に入るまで誰にも洩らすなだとさ」
「なるほど、首領さんの知られたくない事ということですか。ふふ。イイ事聞きました。これはいい強請ネタで……」
「……と、言うと思って用意したよ」
と、王利が持っていた紙袋を渡す。
「なんですこ……ッ!?」
内容物を見た真由は思わず肩を震わせた。
「お、王利さん……これは……」
「ま、まぁ言葉は悪いが取引ってヤツだ。ただ黙れってだけじゃやる気にもならないだろ。だから、これをプレゼントする代わりに……って真由さん?」
真由は、涙を流していた。
余りに突然な出来事に王利は慌ててしまう。
しかし、真由の涙はさらに勢いを増していて、真由が目を擦って涙を止めようとする。だが止まらない。結局止めるのを諦め、真由は涙ながらに笑顔を向けた。
「大事に……大事にします王利さん。うぅ、まさかまた変身ベルトとレア人形に会えるなんて……」
「いや……そういうの売ってるとこなかなか見当たらないから焦ったけど、一応、見つかったからさ」
隣町まで走らされたのは今後のいい思い出になりそうだ。
もちろん皮肉を込めて。
だが、これほど悦ばれるなら、走りつくした分は報われる気がした。
頭を掻きながら、照れてしまう王利は真由から視線を逸らす。
真由は紙袋をしっかり握りしめ、ぐっと目を瞑る。
無理矢理涙を止めると、涙目の顔で王利に微笑んだ。
「王利さんはアレですか。葉奈さん落としたから今度は私まで落としてハーレムエンドでも狙う気ですか……」
「いや待て。何その理論?」
驚く王利に顔を向け、真由は意地の悪い顔をする。
「ふふ、冗談です。でも、好感度は急上昇ですよ」
彼女も照れくさいようで、頬が真っ赤だ。余程嬉しかったのだろう。
大事そうに袋を抱える真由。もう二度と放すまいとでも言うようだ。
泣き笑う彼女の顔は、夕陽を背にして凄く神秘的だった。
しばらく、二人して互いを見合う。
王利としては話をすべきかと思ったが、なぜだか言葉を出してこの神秘的な状況を壊したくなかった。
「そ、そういえば、あのロボットさんですが」
少し言いにくそうに、真由が話しを変えた。
どうやら彼女も気恥ずかしかったらしく、会話を諦めた王利と違い、話で膠着状態を打ち破ったらしい。
「少し心苦しいですが、記憶回路だけをこちらで創造中のロボに移し替えることになりました。ドクターさんが凄く嬉しそうにしてましたよ」
若干引き気味なのは、おそらく出来あがったロボがあまりいい出来ではないようだ。
見に来ますか? と言ってきたので、ちょっと迷ったがついでに見に行く事にした。
真由は王利を秘密基地に案内してくれるらしい。
しかし、普通に返事をしてから気付く。
王利は自ら、正義の味方の巣窟へ向うことを了承してしまったのだ。
敵陣に一人乗り込む。その危険は、例え相手が休戦をしていたとしても危険である事に代わりはない。
鼻歌交じりに歩きだした真由の後ろを付き従いながら、王利は顔を青くするのだった。