洞窟のその後
青い光に照らされて、黒い飛沫が部屋を染めていた。
すでにそこに居る人物はたった四人。
あとは物言わぬ肉塊に姿を変えていた。
白衣の死骸を踏みしめ、人……いや、怪人は何も乗っていない台を見つめる。
その頭には黒い触角。
黒の外骨格に覆われていた。
フォルムは蟻をモチーフとしているが、体つきは蟻というよりは蟻を基にした人型スーツといった形体だ。
「ない……な」
「パピヨンに任すしかないですよアント」
物言わぬ戦闘員を蹴りながら真由が慰めるように言った。
「異世界への鍵……か。ホントにあんのかよそんなもん?」
金髪の男が一人ごちる。
青の迷彩服に身を包みナイフをお手玉代わりに遊んでいた。
「アントが言うんだしあったんですよ兄さん。生き残りがいるのよきっと」
「リベルレの言うとおりかもしれないが、どのみちパピヨンに頼るしかある
まい。奴らには過ぎた宝だ。絶対に世界征服の道具にはさせない」
巨躯を持つ男だった。
トレードマークとでもいうべき赤いジャケットを着ている。
彼らのリーダー、カブトムシの怪人、松木戸耕太だった。
体格に似合わない、ぬぼぉっとした容姿は彼を人畜無害な性格に見せているが、的確な判断力と戦闘センスはここにいる四人の中では一番だ。
彼らがここに来た目的はアントの下調べで見つかった秘密基地の探索。
そしてそこで見つかったとされる異世界への扉を開く鍵の捜索だった。
初めは皆耳を疑った。
別の世界などというものが本当にあるかと。
しかし、現にカブトが元いた秘密結社インセクトワールドはその施設を占拠し何かの研究を始めているのだ。
疑いはしたが敵が動く以上は阻止せねばならない。
そして施設を破壊した結果、今ここでこうしている。
資料を探しているが全て処分した後らしく成果はゼロ。
イラついた真由の兄、持月境也によって、拷問で口を割らせるはずだった学者たちは全て肉塊に変えられてしまった。
残念ながら境也は罵声に耐えられる忍耐力を持ち合わせていないのだ。
だが、彼らの誰も境也をなじることはなかった。
彼らには組織の人間は人として認識されない。
悪でしかない。
悪は倒すべきものであり、悪が何人死のうと喜ぶべきことであり悲しむことはない。
ただ情報が得られなかった。
その程度の落胆だった。
「ここでこうしていても意味はない。パピヨンとの合流地点に向かおう」
「はーい」
アントの言葉に真由が真っ先に反応した。
アントがカブトに視線を向け互いに頷くと、カブトは懐から取り出した、手に持てるサイズの箱を取り出す。
部屋の中央に置いて箱を開くと、中にあったスイッチを入れた。
学者達の屍を踏み越え彼らは撤収を開始する。
秘密結社を恐怖に落とす天敵、正義のヒーローたちは去っていく。
そして、彼らが外に出た直後、秘密基地は巨大な爆音と衝撃によって跡形もなく消え去った。