秘密結社本部跡地へ
王利にとっては予想外な事に、インセクトワールド本社は健在だった。
所々破壊の後が見られるものの、バグレンジャーは施設破壊は行わなかったらしい。
「ふむ、これならば直せば使えるな」
「嫌ですよ、欠陥補修で崩れて死ぬの」
「それもそうか。では解体後に新たに立てるか」
言って、ビルの中へと進んでいく首領。護衛で来ていた王利が慌てて後を追う。
「そういえば、表の仕事はどうなりました?」
「今まで通りだ。各地に散っていた我が精鋭は健在だからな。改造人間ではないので戦力にはならんが、経営に関しては十分に機能している」
入口を進むと破壊されたカウンターを発見。
生々しい血痕が幾つも残っているのがまた痛々しい。
「さすがにこの程度で社長が会社の金に手を付けるわけにもいかんしな。ポケットマネーが残っておればよいが……」
電気は通っていないのでエレベーターは使えない。なので階段に向かったものの、天井が崩れて階段を塞いでいた。
「W・B」
「はいはい、flexiоn!」
変身し、王利は階段を塞ぐ瓦礫を退けて行く。
「ん、それだけ開けば十分だ」
自分が潜れそうな穴が空くと、首領は王利の頭を足蹴にして穴へと入って行く。
「ちょ、待って下さいって」
王利は慌てて後を追うしかなかった。つっかえる瓦礫をモノともせずに突き進むと、後ろの方でさらに瓦礫が増えた。そして帰り道が塞がれた。
「あ、やっちまった」
「よい。さっさといくぞ」
這うように瓦礫を進む首領。
フリルスカートの合間からちらちらと見える青のシマシマパンツがなんというか……無駄にエロい。
目のやり場に困りながら、王利は首領の後を這い進む。
瓦礫の山を越えると、階段中央の踊り場にでる。
そこからはようやく普通の通路といえた。
「ふむ……床が脆くなっている場所もあるかもしれんな……W・B、抱け」
「……はい?」
「抱き上げろと言っているのだが? まさか我を違う意味で抱きたいのか?」
振り向きニタリと笑う首領、王利は気恥かしさを隠すように首領を抱き寄せる。
「じゃあ、行きますよ」
「くく、隠したつもりか? 顔が赤いぞW・B」
わかるはずもないのに顔が赤いと言ってくる首領に、王利は何とも言えない感情が湧きおこる。
恥かしいような、指摘されたことが腹立たしい様な。
でも、それがまた嬉しい気もするのだった。
これ以上からかわれるのも嫌なので、無言で階段を駆け上がる。
改造人間であるクマムシ男と化した王利の脚力は、他の怪人と比べると余り優れた物ではないが、人間が走るよりはマシ。
疲れも見せず最上階へと辿りつく。
「途中、二回程崩れたな」
「落ちた時は焦りました」
最後の段差を上がり切り、通路へと向かう。
「電気がないとこんなに暗いんですね」
「まったくだな。ブルーライトが懐かしい」
ちなみに、インセクトワールド社の電灯はすべて青色だった。
これは首領の好みらしい。落ち着く色だから好きなんだと。
「部屋はわかるな?」
「ちゃんと覚えてますよ」
床に空いた穴を避けながら首領の部屋へと向かう。
着いた部屋は中心にベットのある部屋。
ベットの周りには壊れたカーテンレールに辛うじて引っかかっているピンクのカーテン。
ベットもくの字に折れ曲がり、バグソルジャーとの対戦の激しさを露わしていた。
「そう言えば、前回ここで戦ったんですよね、バグカブトと」
「そうだな。どうだった? 我が社の最高傑作になるはずだった男との戦闘は?」
「強かったですよ。攻撃喰らった時は死んだかと思いました」
実際には、クマムシ男である王利の防御力が勝っていた。
バグカブトの腕はひしゃげ、なんとか時空移動で王利達は脱出したのだ。
「ふふ、それでも、クマムシの防御力には敵わなんだようだがな。次は、わからんぞ」
「ええ。相手も俺に付いて調べてるでしょうね。今は葉奈の関連で敵対だけは免れてますけど……」
「旗揚げすれば、どうなるかわからんな」
「やっぱり、するんですか? 新生インセクトワールド」
「当然だ。我が野望はまだ潰えてはおらん。いざとなれば、エルフ共に時を止めさせているバグシャークの身体も使えるしな」
その言葉に、王利はゾッとした。
「ククッ。何を驚く? 使えるものは使うのが悪たる者の悪たる所以ではないか」
「真由が怒り狂いますよ。墓、暴いたんですか?」
「うむ、こちらに来る前にエルフ王に頼んでおいた。発掘にも立ち合って来たのでな、今さら約束を破るはずもあるまい。こちらも技術を幾つか与えたのだしな」
なんて人だ。
「お、これだこれだ」
王利が戦慄している間に、首領は目的のモノを探しだす。
小型の金庫をベットの下から取りだした首領は、顔を綻ばせて王利に見せた。
普通の女の子ならば、きっと可愛らしかった笑顔だろう。
目玉が芋虫みたいに飛び出てなければ。と悔やまれる。
「用は済んだ。戻るぞW・B」
「了解です」
「直行だ。そこの壁を壊して落ちるぞ」
「マジすか……」
行きと同じく、王利の腕に抱えられた首領は、さっさと出発しろと叩いてくる。
王利は壁を叩き壊し、その高さに固唾を飲んだ。
地面がはるか下に存在する。
いや、確かにこのくらいの高さから落ちても無事なのは既に体験済みである。
しかし、実際に地面への高さを確認してから自分から飛び降りるのは初めてなのだ。
さすがに全身が躊躇した。
「どうした? さっさと行くのだろう?」
「は、はい……」
王利は、初めて自殺する気分を味わったのだった。
そして思う。二度とするものか、と。