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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
ロボ → 美少女?
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血塗れ包丁と暴かれた本

 バグソルジャーの面々と別れ、王利とヘスティは王利の自宅へと向かった。

 耕太と真由に連れ去られるように基地へと向かう葉奈が荷馬車の上の子牛みたいな顔をしていたけれど、王利もヘスティも笑顔で見送っておいた。


「なかなかいい人たちデスね」


「まぁ、一応正義に味方だしな」


 そんな彼らと親しげにお茶をしている自分達こそが悪人としておかしいのだ。と、王利は独り語ちる。


「ここが、インセクトワールドの首領さんがいる……?」


「ああ、俺の自宅」


 なんとなく、ヘスティの言葉の端に落胆が見えた気がする。

 王利の負い目からくる勘違いだと思われるが、取り繕うように王利は言葉を吐いた。


「まぁ、もともと親父と二人で暮らすための家だし、小さいけど気にしないでくれ、インセクトワールド社の臨時潜伏所だよ」


 それにしては余りに何の変哲もない家だった。

 父親所有の車を置くスペースがあるが、車を置くともう、玄関が完全に塞がれる。


 前に一度失敗して壁に激突させたせいで、右側の壁が崩れているがそのあたりは金がないので放置されたままだ。

 コンクリート壁で簡単に囲われた二階建ての家である。


 二階の窓には上部に物干し竿が二本掛けられており、今はエルティアが干したらしい洗濯ものが風に泳いでいる。

 ベランダでもあればよかったのだが、そこまでの金銭的余裕はなかったというか、この家を買った時点で付いてなかったというのが本当のところだ。


 落ちる危険がありながらも、庭に洗濯物を干さないのは、唯一の駐車場として埋まるからに他ならず、結果的に今の家の間取りに落ち着いていた。

 ヘスティを案内しながら玄関のドアを開く。


「ただいま~」


「お帰りなさい王利さん」


 丁度ドアを開いた先に、エプロン姿のエルティアが立っていた。

 手にはなぜか血塗れの包丁が握られている。


「ひぃっ」


 思わずヘスティが王利の背後に隠れた。

 王利もヘスティを庇いながら顔を青くする。

 まさか謀反か、首領を殺して死体を片付ける直前だったのか?


「あら? そちらの方は……」


「あ、いや、その……とりあえず聞くが……首領は無事か?」


「……どういう意味ですか」


 笑顔で首を傾げる姿が、なぜか王利には不気味に映った。


「でも、どうしましょう、一人多く作業しなきゃいけないですね」


 困った顔で呟くエルティア。

 手に持つ包丁が、一人多くバラす作業が増えたと王利に訴えかけて来た。

 ヘスティも同じ意味に受け取ったらしく、王利の後ろで震えあがっている。


「食事の方はもう少し待っていてくださいね、用意しますから」


「は、はい」


 そう言って台所へと消えて行くエルティア。

 姿が見えなくなった途端、王利とヘスティはどちらからともなく大きく息を吐きだした。

 すると、今まで気にも留めなかった感触に気付く。

 ヘスティの胸が背中に当り、王利に柔らかな暖かさを絶えず与えていた事実に。

 気付いてしまうとついつい顔が赤くなる。

 脳裏に葉奈が現れて浮気っと叫んでいる姿が思い浮かんだ。


「あ、あの人は……始末人デスか?」


「い、いや、ただ食事作ってるだけのはず……だけど」


 包丁を持ったエルティアには近づいてはいけない。

 王利とヘスティは会話をすることなく共通事項として胸に刻みつけたのだった。




 王利はヘスティを案内して自室へと向かう。

 首領が無事かどうか、ドアを開くまで不安だったが、杞憂で済んだらしい。

 ベットの上に寝ころびながら、飛び出た目をぎょろぎょろとさせる少女が、同じくベットに広げたポテトチップスの袋に手を突っ込んではパリパリと食べている。


 さらには反対の手で漫画……

 その瞬間、王利は血の気が引くのが分かった。

 あれは……あの本は……


「しゅ、首領ぉ―――――ッ!?」


「む? おお、帰ったか」


「帰ったかじゃないですよ、どっから引っぱって来たんですかそんなもんッ」


「ふん。ベットの床下の床暖房を引っぺがした場所からだ。隠すならもっと複雑な場所にしておくべきだぞW・B」


 それはまさに大人な本。

 決して女性が見るべきではない具合の悪い本である。

 友人の一人から貰ったものの、父に見つかるわけにはいかないと、念入りに隠した本のはずだった。


 ちなみに、後二、三冊一緒に隠されていたはずだが、首領はピンポイントで幼い少女版を選んで読んでいる。

 友人の一人が俺のお勧めと笑顔でサムズアップしてみせた曰くの一品である。


「しかし、お前にこんな趣味があるとはなW・B。子供のおやつとはまた大した……」


「うわああああああああああああああああああああっ」


 ヘスティ曰く、その時の王利サンは鬼神も逃げ出す表情で本をひったくると、そのまま部屋を飛び出していったとか。


「まったく、忙しない奴だ。この程度のことで……なぁ? お前もそうは思わんか」


 独り言を言っているのかと思えば、首領はヘスティへと顔を向け、ニタリと笑って見せた。

 答えに困るヘスティに、首領は身を起こして話の体制に入る。


「ここに来たということはこの我に用。ということだろう」


「は、はい……ヘスティ=ビルギリッテ言いマス。クロスブリッドカンパニーから来マシタ」


「クロスブリッド……ああ、あの若造の組織か」


「父様が死に際にいいマシタ。日本にイル、菅田亜子に匿って貰えと」


「父親……その名を知っているということは、奴か。死んだのか?」


「クエーター……ん? クーデラー? まぁ、なにかそう言うので暗殺されまシタ」


「クーデターが起きたか。ま、良かろう。貴様が我が配下としてこれから一生働くと言うのならば、ここに置いてやっても良いぞ」


 もはや我が物顔で王利の家を私物扱いしている首領だった。


「ただ、クロスブリッドカンパニーに追われてマス。王利さんに助けられマシタが」


「ふん。それくらい構うものか。我が覇道の邪魔になるなら潰せばよいだけだ。……ところで」


 言葉を切って、首領はベットを下りるとヘスティに歩み寄る。


「菅田という名……まさかW・Bに知らせてはいまいな?」


「え……?」


 すでに知らせた後のヘスティは、返答に詰まる。

 その表情で知ったのだろう。首領は困った顔をした。


「まさかW・Bなどに知られるとは……他に知った者はいるか?」


「バグリベレ……? リルベレ? まぁ、そんな名前の方がいました」


「蜻蛉女か。先に釘を刺しておくかな」


「それでしたら、ラブレンジャー変身ベルトとアトミックマンアヴェンジャーのロケットキックバージョン人形をダシに使えばいいと思いますよ」


 ようやく戻ってきた王利が、開口一番提案する。


「なんだそれは?」


「今日、クロスブリッドカンパニーに襲われて、買ったばっかで破壊された玩具です」


「奴が集めているというわけか。よかろう即買って来い」


「そんな余分な金は家にありません」


「むぅ。我も金は無いぞ……まて、ビルにならあるやもしれんな。悪は急げだ。これから行くぞW・B」


「悪じゃなく善じゃ……って、これからっ!?」


 そして、首領の言葉通り、王利はインセクトワールド本社へと向かうことになるのだった。

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