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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
日常 → 異世界
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戦いの犠牲

「っらああぁぁッ!」


 コックル・ホッパーの背後から聞こえた声に、彼は思わず振り向いた。

その瞬間、目の前に迫る黒。

 それが頭だと気付いた時には、衝撃と共に自身が吹き飛んだ後だった。


 壁に激突した際に、腕からヘスティが投げ出される。

えづきながらも、彼女は先程までコックル・ホッパーが立っていた場所にいる人物を見上げていた。


 そこにいるのは、クマムシ男。王利が無傷で存在していた。

 ヘスティは思わず駆け寄りそうになりながら、瓦礫の落ちる音に思わず振り向く。

 コックル・ホッパーも大してダメージを負っていないようで、壁から這い出てくる。


 王利自身の攻撃力が皆無に等しいので、どれ程の油断を突いた攻撃でもなかなかダメージを加えられない。

 一般人相手ならばそれなりに効くのだろうが、改造人間や変身ヒーロー辺りにはどうにも効きが悪い。


「バカな。爆心地で直撃のはず……」


 だが、さすがにコックル・ホッパーも相手の身体に傷がないことに気付いて愕然としていた。

 ついついヘスティの近くに居ながら足を止めたまま王利を睨む。


「あいにく、あの程度じゃ死ねない体なんだ。堅いんでね」


 こと防御、生存に関しては、ある意味ゴキブリすらも凌駕する地上最強種であるクマムシ男。

 たとえ核弾頭が打ち込まれたとしても生き残れる。

 それが彼を作った科学者のコンセプトだ。


 たかが一怪人の空中自爆で、彼を屠るなど不可能に近い。

 組みつかれていた訳でもないのなら十分防げる威力なのだ。

 ついでに言えば、インセクトワールド社の使っている自爆装置と比べると、爆破力が弱かった。アレでは王利を殺せない。

 全く無傷の王利の身体を見て、コックル・ホッパーは身体から力を抜いた。


 戦いが始まると意識を引き締めていた王利は肩透かしを食らったように戸惑ってしまう。

 しかし、隙を付いて攻撃してくる気配も無かった。


「俺の蹴りが効かないばかりか自己破壊させられるとはな……どうやら、ヘスティ=ビルギリッテを捕えるには、貴様を倒さねばならんらしい」


 やはり来るか? と再び意識を引き締めようとする王利。しかし、一度弛緩してしまった気力はなかなか元に戻らない。



「ならどうする?」


「情報が足りんしな、仕切り直す。今のままでは負ける気にならんが、勝てもしなさそうだ。次は貴様を殺す」


 コックル・ホッパーはしゃがみ込み、残った足で目一杯崩れた壁を蹴りつける。

 王利やヘスティが反応するより早く、コックル・ホッパーは翅を広げ大空に消え去って行った。


 Gが跳ぶ姿はなぜだろう。物凄い嫌悪と恐怖が湧き起こるのは?

 王利たちは一瞬見てしまった彼の後ろ姿を忘れようと、すぐさま視線を互いに向け合う。


「その、大丈夫か、ヘスティ」


「は、はい。ロボットさんも無事デス」


 抱えたロボットの首を見せるヘスティ。

 ずっと大事に持っていたらしい。

 身体に着いた埃をはたきつつ、ヘスティは王利の元へと歩き出す。


 瓦礫の欠片に蹴躓きそうになったヘスティ。

 王利は咄嗟に彼女の手を取って引き寄せる。

 驚くヘスティは、片足で二、三度よろめきながら、王利の手前で立ち止まった。


「すいまセン。助かりまシタ」


「気にするな。それより、これ、どうすっかな?」


 王利は崩れた屋上を見上げる。

 一階まで直通の竪穴はどう見てもモールの再開が不可能に見える。

 コックル・ホッパーたちによるものだが、果たしてここの再建にどれほどの税金が使われる事か……クロスブリッドカンパニーが払ってくれないだろうかと王利は考えるが、無理そうだった。


「凄い壊れまシタ。被害者はいまセンか?」


「多分な。あまり戦いらしい戦いになってなかったし、被害は少ないはずだ」


「それはよかったデス」


 ヘスティは心の底から安堵した顔を浮かべ、空を見上げる。

 そして、納得いかない顔で首を傾げた。


「あの、何か忘れてまセンか?」


「忘れてって……何が?」


「何でショウ? 何か誰かに取って大切なモノだった気が……」


 大切なモノ? と王利は考え込む。

 しかしそんな漠然とした言葉では何を忘れたか推理する事はできそうになかった。


「おーい、王利君ーっ」


 どうやらコックル・ホッパーの撤退に合わせ、他の敵も撤退したようだ。

 今回倒せた敵はバグパピヨンが二体。バグアントが一体。ヘスティが一体の計四体。

 残りは八体。全員無事に逃走したようだ。


 外から聞こえて来たバグパピヨンの声に、王利とヘスティは駆け寄ろうとして、ふと、足を止めた。

 顔を見合わせふと気付く。


 そう、ようやく理解した。

 ヘスティが忘れていたモノ。

 ある人物が、とても楽しみに、そして大切にしていた二つのモノ。


 詳しく言うとラブレンジャー変身ベルトとアトミックマンアヴェンジャーのロケットキックバージョン人形という名前のもうこのモールでは最後の一つだった大人気商品。

 

 サァッと血の気が引いていくのが互いに見えた。

 王利とヘスティは慌てて周囲を探し始める。

 ヘスティはもしかしたらまだ無事な屋上に? と淡い期待を込めて上まで飛んだりした。


 だが、運命は時に残酷だった。

 バグパピヨンとバグリベルレが買い溜めたもの全て、瓦礫の中に埋もれていた。

 しかも高所から落下により、ほぼ、大破した後だった。

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