元の世界へ戻ったら時間が経過していない現実
「お、お前か助け求めてたのは……」
ようやく掘り当てたのは、見るも無残な程サビ付いたロボットだった。
それも原型など留めておらず、首だけだった。
左目のレンズも割れ、ところどころ歪に歪んでいる。
形状は骸骨のようで、メタリックな色につるつるとした肌触り。
電池が切れかけた様に点滅している赤い右目が異常に怖い。
繰り返し助けてと呟いているが、どうにも聞こえづらい。
ノイズが走っているようにも思える。
「ああもう、変身してなかったら死んでましたよ王利さん」
「悪かったって」
「雪崩は危険デス。もう二度とやらないでくだサイ」
「了解了解」
壊れたロボットを持ちあげ、ヘスティの言葉に気のない返事を返す。
「この状態でも動くんだなぁ」
さすがは機械。とロボットを見たまま感慨深気に呟くと、バグリベルレとヘスティが寄ってきた。
「凄い古そうですね旧世代型ロボットって感じです」
「未来から来た殺人ロボみたいな容姿デスね」
また来るぞ。とか言いながら死ぬアレか?
全然似てないと思うぞ。
王利は心の中でそんな事を思いながらロボットの観察を終える。
「生きてれば、ドクター辺りが喜んで作り直しそうだけど……どうするこれ?」
「ウチで何とかできると思いますよー。博士がいますから」
「え? バグソルジャーにそんなのいたのか」
驚いた声でバグリベルレに聞くと、口に手を当て、しまったといったジェスチャーをとっていた。
「あーいやーその、聞かなかったということに……」
「さすがにそれはムリな相談だな正義の味方さん」
「悪の秘密結社デスしね」
ひとまず、任せていいならばそれでいいだろう。
と王利はロボの首をバグリベルレに手渡す。
「シカシ、人はどこに消えたのでしょう?」
「もしかしたらロボットに絶滅させられたのかもな……」
「長居は禁物ですか。どうします? 戻りますか」
「そうだなぁ。そろそろいいかも」
第四世界に戻るため、変身を解く。
変身をしたまま戻った場合、周囲の人が悲鳴を上げかねないからだ。
別に空中に出たとしても、今回は二人とも飛べる。
即座に変身すれば問題は無い。
王利は真由とヘスティに出来るだけ近寄るように伝え、腕輪のダイアルを回した。
「ちょっと、予想外だな……」
縁から覗き見ながら、王利は一人呟いた。
現代世界に戻れたのは良かったが、時間が殆ど経過していなかった。
ショッピングモールの屋上に出現した王利達は、即座にしゃがんだため発見されることは無かったが、丁度王利達が異世界に旅立ってすぐの時間に戻って来たらしい。
眼下に見える場所には、今まさに中央にいたはずのヘスティを取り囲もうと数人の改造人間が集まっていた所であり、消え去ったヘスティを探して周囲を見回していた。
屋上は子供用アトラクション広場となっており、小型のコースターや観覧車が設置されている。本日はヒーローショウも行われていたらしく、舞台には打ち捨てられたマイクや逃げる時の騒乱で汚された観客席が無残に残っていた。
しかし、人はいない。
皆避難してしまったらしく、屋上には人の気配は王利達しかなかった。
こちらでも人がいないのか。なんだか別の世界に来たようだ。と、王利は思わず腕輪を確認する。
しかし、どうみても第四世界にチャンネルが合っている。
「ど、どうしまショウ?」
「こりゃ下手に動かない方がよさそうだな」
「とりあえず葉奈さんに連絡入れとこっと。下手なことされたら問題だし……あ、そうだぁ。アントさんにも連絡しちゃおー」
真由がスマートフォンを弄りだす。
しばらく待つ。
しかし改造人間たちはその場から動かない。
諦めて去ってくれれば問題はないが、残念ながら一行に立ち去る様子がない。
「索敵に優れた奴はいるかな?」
「右端にいるのがそれデス。ドルフィン・イーグル」
「イルカと鷲かよ。言われても想像つかないな。現物が目の前にいるけど」
「その横はマンティス・サンダーバード」
蟷螂と雷鳥。もはや想像がつくレベルの存在ではない。
見た目にもパリパリ電気を放っているカマキリ怪人。
羽が鳥の翼なのがまた奇妙だ。
「一番危険なのはあそこの怪人デス」
ヘスティに言われた視線の先。
一体の怪人を見て、王利は体に悪寒を走らせた。
一目見ただけで異常と分かる。
あまりの異質さに周囲の怪人が一般人にすら見える容姿をしていた。
「コックル・ホッパー」
「コッ……クル・ホッパー?」
直訳ができず王利が首を捻る。
「コックローチ・グラスホッパー。ゴキブリとイナゴのクロスブリット怪人デス」
「な、なるほど。姿を見た途端感じた悪寒はそれでか」
見るだけで嫌悪を募らせる凶悪な容姿。
加えて生命力と跳躍力が半端ない凶悪な怪人だった。
主にゴキ……Gな部分が王利には一番危険だと思わせる。
さらに様子を窺っていると、真後ろから葉奈がやってきた。
「気付かれずにここに来るの大変だったんだけど。どんな状況?」
「下手に動くと見つかるっぽい」
「じゃあ今のうちに作戦会議、どうやって殲滅する?」
「アントさんに連絡したのでもうちょいしたら来てくれます四対複数の戦いです」
敵の数は12体。最初に見た時から6体も増えていた。
一人二体を相手にするにもさすがに辛い。
ここは一度引いて各個撃破が妥当だろう。
しかし、逃げるのもかなり危険だ。
「ソナーでここの位置気付かない?」
「気付いてるかもだけど、屋上に人がいて見てるくらいにしか思われてないですよ」
なら大丈夫か。と葉奈が安堵した瞬間だった。広場の方で歓声が上がる。
視線を移すと、そこに居たのは……黒い外骨格に身を纏った二人の男。
一人は甲虫王として名高いカブトムシ、もう一人は人型の蟻を模したパワードスーツを着込んでいるような男だった。
バグソルジャーの到着。そして、ついに正義対悪の戦いが幕を開けるのだった。