三人でショッピング
「えー、そんな面白そうな事あったんですかー。私も参加したかったですよぉ」
放課後、合流した真由が、葉奈から昼休憩の惨事を聞いて頬を膨らませていた。
真由は金髪のさらさらストレートヘアに青い瞳を持つ外国人である。
アルガースという秘密機関の改造人間であり、バグリベルレと呼ばれるバグソルジャーの蜻蛉女。
今は耳を覆い被すイヤホンから周囲に聞こえるほどの音量で音楽を垂れ流していた。
イヤホンからは愛愛愛愛と恥ずかしくなるくらい男性が熱唱している。
「その曲、たしか今やってる戦隊ヒーローのだよな」
「おっ、王利さん知ってます? 博愛戦士ラブレンジャーですよ。ただ愛の為に。今の戦隊ヒーローは無償の愛、信じる心ですよ。いい曲ですよねー」
聞いている方が恥かしくなるような愛とか好きとかのワード連発の音楽に、王利は苦笑いを返す。
ラブレンジャーは数カ月前から放映され始めた子供向けテレビ番組だ。
やたらに愛を宣言する歌と話の内容がこっ恥ずかしい戦隊ヒーロー番組なのだが、なぜか人気は高く、老若男女に支持されているらしい。
まぁ、ところどころでお色気要素やイケメン俳優を起用しているせいだろう。昔の戦隊ヒーローとは随分変わってしまった。
ちなみに、王利はあまり見ないのだが、首領が好きで見まくっている。
時間になるとテレビの前に正座してポテチップとコーラ片手にキラキラした眼で見ている。
首領、正義の味方やりたいんじゃないかと思ってしまう光景だった。
自分でやるのは嫌だけど、見る分には好きなのだとか。
「それで、何か買うらしいけど、何処行くんだ?」
「ふっふっふ。なんと、ラブレンジャー変身ベルトが本日発売なのです。しかもアトミックマンアヴェンジャーのロケットキックバージョン人形も発売なんですよっ」
アトミックマンは宇宙から来た巨大変身ヒーローだ。
今までは光線が主流だったのだが、今回は肉弾戦、しかもトドメはロケットキック。
ビームを纏わせて蹴りだすとかなんとか。
王利はあまり詳しくないのでふーんと頷いておく。
日本のヒーローが好きだと言っていたが、真由はヒーロー好きを越え、オタク領域に足を踏み込んでいるらしい。
そのうち戦隊濃度がどうとかいいそうだ。真由があの漫画を読まない事を願う。絶対真似するだろうし。
ちなみに、アトミックマンは実在している。
時折宇宙怪獣とやらが地球に現れるので、コレの退治に何処からともなくやってきて闘って行くのだ。
こいつらには、某巨大ヒーローのような制限時間はない。かわりに、追い詰められて強化なんて特殊能力もなかったりする。
さらにいえば、光線系も実在とテレビではかなり違う。実在の方がショボく見えるときさえあるほどだ。
「ついでだし、あたしも服とか見てこうかなぁ。最近下着がちょっとねぇ」
「あー、発情しすぎで汚れちゃってるんですか」
「真由っ」
真由の言葉に葉奈が顔を真っ赤にして追い駆けだす。
どうも図星だったらしく、葉奈は本気で追い掛けていた。
「そろそろ、エルティアの奴に服くらい買ってやるか。俺のお古ばっかじゃ嫌だろうし」
首領が面白半分にTシャツだけを着せてからというもの、エルティアの服装がヤバいことになっている。
とくにパジャマがヤバい。
Yシャツオンリーの姿は余りにも刺激が強すぎた。
王利が理性を押さえるのにどれ程苦心したことか。
首領によって王利の心的負担は鰻昇り状態だった。
溜息を吐きながら葉奈たちを追う王利だった。
真由の買い物を終え、洋服売り場にやって来た王利たちは、葉奈が選ぶ間にエルティア用の服を真由に選んでもらい、待合用ソファに座っていた。
「いやぁ、ほくほくですねー」
自分が買ったモノに頬ずりしながら、真由はご機嫌な声を上げる。
「良かったな、欲しいのあって」
「はい。残り一つとかマジ危なかったですよー。思わずヤターッとか取ったぞ―って言いそうになりました」
「にしても、ずいぶんとまぁ金持ってるな。そんなに使って大丈夫なのか?」
「全部経費ですよ。王利さんは?」
「会社が潰れたから何とも、最初の給料だけだからなぁ。それでも数年は遊べるよ」
「あ、悪の秘密結社、結構貰えるんですね」
「幹部クラスだと年商何千万の世界だぜ、首領、手を広げまくって儲けてるから」
「そんなだから秘密結社が後を絶たないんですよ。魅力的ですけど」
多分、金銭的問題で戦隊ヒーローモノを買いそろえる事ができなくなった時に誘ったなら、真由はコロッと悪の道に堕ちるんじゃないだろうか。と不安になる王利だった。
「にしても遅いですねぇ。いつまで選んでるんでしょうか葉奈さんは」
「そういや、もう一時間もここにいるな。ちょっと様子見るか」
真由と王利が葉奈を探しに行くと、下着売り場の前でくねくねと見悶えている葉奈を見つけてしまった。
「あ、あれは……」
「見事妄想世界に逝っちゃってますねー。男冥利に尽きるって奴じゃないですか王利さーん。このこのぉ」
「って、一時間あの状態だったのか」
「ありえますね、さっさと戻しましょうか」
幸いな事に周囲に人はいない。
少し離れた所にあるカウンターから店員さんが困った視線を投げかけているくらいだ。
王利は迷惑かけてごめんなさいと心の中で謝った。
「はーなーさんっ」
そーっと近寄った真由が葉奈の耳元で声を出す、その瞬間、「うきゃぁっ」と葉奈が叫び声を上げ、周囲の視線を集めていた。
思わず王利は二人から逃げるようにその場から去っていた。