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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
日常 → 異世界
57/314

しんぐるまんず会の壊滅

 そして、悪夢の昼休みがやってくる。

 授業が終了し、先生と入れ替わるように教室にそいつらはやってきた。

 黒ずくめの集団。

 スカートやズボンから学生だということは分かるが、顔は黒い眼だし帽というか目だしフードというかに隠されてわからない。


 蝋燭を片手に灯した彼らは、王利を拘束すると、無言で出て行く。

 さすがの葉奈も思わず見守ってしまうほど鮮やかな略奪だった。

 連行されたのは真っ暗な部屋だった。

 王利の前には机らしきものがあり、そこに無造作に投げ捨てられる。


「痛っつ」


 尻を擦りながら立ち上がると、蝋燭の火が一斉に灯る。

 薄暗い闇の中、黒フードの集団が、王利を囲むように存在していた。


「では、これよりしんぐるまんず会異端審問を開始する」


 すると、目の前が照らし出され、裁判官のように木槌を持った黒フードを真ん中に三人の誰かが座っていた。

 そこは、まさに裁判所の判決現場。

 さらに左に二人、右に二人が蝋燭に照らされる。

 左の黒フード一人が立ち上がり、大声で告げる。


「罪人、森本王利の霧島葉奈、ならびに望月真由と二股疑惑の件についての断罪の儀を取り行う」


「なに……これ?」


「宣誓、裁判には公正に、嘘偽りなく証言すると誓います」


 裁判長が木槌を叩いて宣言すると、周囲にいた黒フードたちが声を合わせ、「誓います」と言い放つ。


「では、検事、まずは事件についてのあらましを」


「はい」


 王利の左に座っていた黒フードが再び立ち上がり、A4の用紙を掲げる。


「森本王利被告、以後被告は、四日前己がクラスにて霧島葉奈とイベント企画委員に抜擢され、翌日腕を組んで登校、さらに本日まで同様の現象が目撃されております。また、親切な民間人より本日、被告は望月真由と意味深なアイコンタクトを取っていたという証言が上がっています。さらにファーストネームで呼んでいたとのこと」


 周囲の黒フードがざわつく。

 酒井の奴だ。

 王利は即座に親切な民間人を特定した。

 後で何かお礼をしておかねばなるまい。しっかりとお礼参りを。


 それにしても訳が分からない。

 一体自分は何に巻き込まれているのだろうか?

 王利は分からないながらも周囲を見回す。

 色濃い殺意が渦を巻くように部屋を席巻していた。


「被告、今の証言は本当ですか?」


「え? 俺?」


 裁判長に聞かれて思わずうめく。

 よくは分からないが、このまま頷くのは危険だ。それはわかった。


「黙秘ですか? では弁護人証言を」


 黙ったままの王利から視線を外し、王利の右方向に座っていた黒フードに視線を向ける裁判長。


「霧島葉奈についてはおそらく付き合っていると思われます。ここ数日毎日被告を迎えに行く姿を捕えました。また、本日の望月真由についてはこちらの録画音声をお聞きください」


 すると、突然聞き覚えのある声が聞こえ出す。


『あ、そうだ。真由がね、ショッピングに付き合って欲しいんだって』


『じゃあ放課後は遊びに行くのか』


『うん、三人でね』


『へぇ、もう一人って誰?』


『何言ってるの? 王利君に決まってるじゃない』


 ……どこかで覚えのある会話だった。


「って、なんでこんなものがっ!?」


「以上の会話より、被告と望月真由の関係は、霧島葉奈を介した友人関係と思われます」


「異議ありッ!」


 弁護人の言葉に、検事役の黒フードが立ち上がる。


「異議を認めます、検事役は証言を」


「親切な民間人の証言ではまるで付き合いたての恋人のように意味ありげなアイコンタクトだったとされていますっ、ただの友人関係と思えません」


「異議あり。それは邪推です、第一証拠がありません」


「異議あり、霧島葉奈にばれない様画策している可能性がある以上この問題は……」


 突然、木槌が叩かれた。

 口論していた検事と弁護人が押し黙る。


「静粛に、その件については一度置いておきます。まずは、被告は霧島葉奈と付き合っているのか、付き合っているのならばどのようにこましたのか、これをまず検証致しましょう」


 裁判官の言葉に、一同視線を合わせ、検事が手を上げる。


「では、それについてですが、先程の弁護人の話では、毎日迎えに来ているとのこと、これで付き合っているのは明白であり、さらに霧島葉奈が押し掛けていることから被告が惚れたのではなく霧島葉奈が惚れ込んでいると仮定できます、あの葉奈先輩がッこんな男にッ」


 最後の方で殺意の籠った視線が王利を打ち抜いた。

 どうやら検事役の黒フードは後輩らしい。

 もしかすれば中学校から来ているのかもしれない。ご苦労な事だ。


「霧島葉奈は美人で非の打ちどころのない性格です。しかも初対面の相手にはどこか壁を作る人でした。そんな彼女がたった一日であのような状態になるとは思えません、ですので、被告は何らかの方法で彼氏彼女の間柄を強要していると思われます」


 周囲に衝撃が走る。

 まさに針の蓆だ。

 このままでは本当に抹殺されかねない。


「イベント企画委員になったことで被告は霧島葉奈に接触し、秘密を握り脅迫した。違いますか被告ッ」


 きっかけは賭けごとなので違うとも言い切れない王利、思わず焦る。


「異議あり、検事側の証言は私的なものであり、誘導尋問に思われます」


「異議を却下します。被告、証言の反論を」


 と言われても、王利には反論など思いつかなかった。


「反論がないのであれば、検事側の証言が正しかったものと認識致しますが、よろしいですか?」


 よろしい訳がなかった。


「待ってくれ、俺は……」


「判決、被告、森本王利は霧島葉奈を脅迫、強制的に彼女にしている、また望月真由と二股をかけているとし、ギルティ! 極刑。屋上裸バンジーのうえ校庭で首晒しの刑に処す」


 むちゃくちゃだ。


「引ん剥けぇいっ」


「ちょ、ちょっと待てぇっ!?」


 わらわらと集まる黒フード。

 慌てる王利。

 絶体絶命の彼に、光は差した。


 ガラリと開かれるドア。

 黒幕を引き千切り、正義の味方が現れたのだ。


「そこまでよ、秘密結社しんぐるまんず会ッ!」


「な、何奴!?」


「き、霧島先輩っ!?」


「王利君誘拐するようなあなたたちを私は許さない、成敗するわ。かかれっ!」


 と、指令を下す葉奈の後ろから、数人の先生がなだれ込んでくる。


「先生だとっ」


「ま、待って、私関係ないっ」


「停学は嫌だぁっ」


 一人残らず教師に捕まり、しんぐるまんず会は呆気なく壊滅した。


「大丈夫、王利君? いきなり連れ去られたからびっくりしたわ」


「いや、俺もびっくりだよ。こんな会があったとは」


 葉奈に助けられた王利の前に、木槌を持った黒フードが連行されていく。


「おのれ、森本王利。覚えていろ、たとえ我らを滅ぼそうとも、第二、第三のモテない同士たちが必ずや貴様を……」


「さっさと職員室に来いっ」


「リア充など爆死しろぉっ、ハーッハッハッハ。いたっ。ちょ、先生それ体罰っ」


 虚しい終わりだった。

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