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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
日常 → 異世界
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しんぐるまんず会の影

 現代世界に戻ってから数日、王利は元の生活どおり、学校に通っていた。

 バグソルジャーに正体は知られているものの、バグパピヨンやバグリベルレ、の働きかけでバグソルジャーとは休戦状態にある。


 完全に安全とはいえないが、外を歩けないと言うほどではない。

 王利としてはバグソルジャーの残りであるバグカブト、バグアントに注意を払いたいところではあるものの、迎えが来てくれるため、襲撃される心配はあまりしてなかった。


「おはよう王利君」


 そう、迎えである。

 玄関から出ると、学校指定のブラウスとスカート姿で、霧島葉奈が待っていた。


 右側頭部で纏めた髪が腰元まで垂れている。

 きつめの瞳は今日は期待と狂喜で彩られている。

 背丈は王利の目線の辺り、今は腰を折り曲げ王利を見上げるように胸を強調している。


 それ程あるわけではないが、王利のみに見せているとわかると、王利としても思わず視線が胸へと向かう。

 胸の谷間が見えそうで見えない。絶妙のアングルだ。

 これはもうわざととしか思えない。


「毎日わざわざ来なくても」


「いーじゃない。付き合ってんだから一緒に登校でも。それとも、嫌なの?」


 王利と葉奈は付き合っている。

 いや、彼らの関係はよくわからないものになっていた。

 そもそもの始まりは腕相撲である。


 イベント企画委員に抜擢された王利と葉奈は二人で遠足企画を立てていたのだが、初顔合わせということもあり、モメてしまった。

 そこで葉奈が腕相撲を提案、賭け試合になって、互いに負ければ相手の奴隷。みたいなノリで勝負して、王利が勝った。


 これによって彼女になった葉奈だったが、魔王退治の最中に王利に告白、思わず王利は返事して、なし崩し的に今の関係になっている。

 しかも、葉奈は秘密結社コリントノヴァから脱走した改造人間バグパピヨン。

 本来愛玩用怪人だった彼女には、自分が気を許した雄に惚れ込んでいく改造が施されているという。

 もしも気を許した相手が犬畜生だったとしても、そいつに惚れ込む危険な改造だ。コリントノヴァの狂気がこの事だけでも十分に見えてしまう。


 腕相撲の勝敗がきっかけになったのか、王利にどんどん惚れ込んでいった葉奈は、現代世界に戻ってからは、王利が家にいる時以外、殆ど一緒に過ごすようになっていた。

 そんな彼女を、王利としても無碍にしたくないので、葉奈と一緒にいる事に嫌悪は感じなかった。


「ほら、行こっ」


 と、葉奈は回り込んできて王利の左腕に絡みつく。

 やってくる柔らかな肉質に赤面しながら、王利は歩き出すのだった。

 完全にリア充の部類に入ってしまったのだ。


 未だキスすら満足に行えていないが、王利が無理に襲ったとしても葉奈は喜んで受け入れるだろう。

 そんなリア充生活を送る王利にとって、今一番にやるべき試練は、自分の欲望を自制することである。


 首領から教えられたのだ。

 葉奈は王利を好きになるように人体改造されているということを。

 そんなことをされた彼女に、本心を無視して欲望の吐け口になど、王利にはできなかった。


 もはや彼女の本心を知ることは不可能ではある。

 それでも待ちたいのだ。

 本当に自分なんかを選んでいいのかと、改造により好かれてるだけではないかと、王利が納得できるまでは、王利は手を出さないと決めたのだ。


「あ、そうだ。真由がね、ショッピングに付き合って欲しいんだって」


「じゃあ放課後は遊びに行くのか」


「うん、三人でね」


「へぇ、もう一人って誰?」


「何言ってるの? 王利君に決まってるじゃない」


 なぜ決まっているのか、意味が分からなかった。

 王利は確かに予定は無いが、一緒に行くとは一度も言っていない。

 そればかりか話を聞いたのも今が最初だ。


「え? もしかして、あたしと居るの、嫌?」


「ぜんぜん。けど、できれば数日前に予定を知っときたかった。用事があったらどうする気だよ」


「うっ、今度から気を付ける」


 腕を組んで登校する。

 王利は恥かしいと嫌がったのだが、葉奈が強引に絡みついてくるのだ。逃げることなど出来なかった。

 教室に着くまで好奇の目にさらされながら、ようやく解放されて自分の席に着く。


「おい森本」


「あ?」


「お前、霧島さんと付き合ってるってマジか?」


 クラスメイトの一人が話しかけて来た。

 今までクラスで王利に話しかけてくる友人はほぼ皆無だったのだが、葉奈との関係のせいでか何人もの生徒が入れ換わり立ち替わり真相を聞きに来ていた。


 見ていれば分かりそうなことなのだが、女子は馴れ初めを、男子は認めたくない事実確認をと必死に聞きだそうとしてきていた。

 その中でも、この男、酒井は特によく聞きに来る。


「酒井、それは俺の口からは言えん」


「でもよ、そろそろ吐いといた方がいいと思うぞ、しんぐるまんず会が動くぞ」


「なんだよそのしんぐるなんとかって……」


「昼までに吐いた方がいい。な、言えよ」


「言わない」


 しばらく押し問答をしていると、丁度教室前の廊下を通った女生徒と目があった。

 金髪青眼の少女はクスリと笑うと、王利に向い投げキッス。

 そのまま廊下に消えて行った。


「ちょ、ちょっと待て森本、今の、今のはなんだ? お前、霧島さんに手を出しながら他にも……」


「え? いや、真由はかん……」


 名前を出して失策に気付いた。

 酒井は怪しい眼光で睨みつけると、昼休みを楽しみにしていろと捨てゼリフを残して去って行った。

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