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プロローグ・α
暗闇の森を、無数のナニカが駆け抜ける。
淡い二日月に照らされる青銀の森を高速で移動するそれらは、周囲を探りながら木々を飛び移る。
たまたま眠っていたリスが音に跳び起き慌てて逃げる。
立てる音はほぼ皆無。
静寂を打ち破るのは梟だろうか? 鳥や狼の遠吠えくらいである。
しかし、その森に、彼らは確かに存在していた。
少し離れた場所。
大地に伏して、自身の身体を落ち葉で隠す者一人。
声を殺して周囲を窺う。
もう、逃げ場はなかった。
ようやく辿り着いたこの森でさえ、奴らは追ってきたのである。
これ以上は、逃げ切れない。
「どうして、こんなことに……」
不安から、思わず呟いた。
微かな声に、ナニカが反応する。
次第、集まってくる無数のナニカ。
隠れし者を追いつめるべく退路を塞ぐ。
絶体絶命の中、そいつはついに覚悟を決めた。
「изменение!」
この葉を散らし漆黒の影が舞う。
影とナニカの争いが幕を開けたのだった。