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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
特別編・バグソルジャー結成編
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特別編・バグソルジャー結成秘話1

不定期投稿になりますが特別編を4つ程続けます。

よろしければご一読ください。

 薄暗い廊下を音も無く歩く男が一人。

 周囲に気を配りながら時には立ち止まり、時には息を殺し、廊下を奥へと突き進む。


「たく、なぜ俺はこんなとこにいるんだ? 日常生活送ってるはずだったのに」


 ため息を吐きながらある一室へのドアの前で立ち止まる。


 男は改造人間である。

 今回、自らの秘密結社であるインセクトワールドの首領より指令を受けたのだ。

 指令内容は奴らの研究により出来る新たな怪人の能力を調べてくる事。

 また脅威になるようであれば消すこと。である。


 洗脳により、首領の命令は絶対である男にとって、今回の様な潜入調査は別段特別な事ではない。

 彼は能力的な問題から、主に暗殺、潜入の任務に着くことが多いのである。

 コードネームはF・T。

 このコードネームとは、作戦上、個人を特定するために呼ばれる名前であり、怪人としての元となった生物を指しているものでもある。


 F・Tはドアの隙間から鞭毛を覗かせ部屋の内部を探る。

 鞭毛とは、要するに触手のようなものだ。

 それなりに自由に伸ばせるし、感覚器として使えるので、目に見えない周辺を探るのに適している。

 とはいえ、人を拘束できる程の長さはないし、力もない。

 出来る行動といえば、相手に突き刺し毒を流しこむくらいだ。


 部屋の中に人の気配がないのを確かめたF・Tは音を立てない様細心の注意を払い部屋へと滑り込む。

 部屋の内部はかなり暗い。

 ただ、部屋に点在する幾つものガラスケースに入れられた液体が、淡い緑の光を放っていた。

 ガラスケースといえど、人が入っているくらいに大きな物だ。

 当然、そのうちの十個ほどに裸体の人間が入っている。

 むしろカプセルと表現しても良いだろう。


「あー、ようやく着いた。ここがバイオプラントか」


 今回、潜入したのは秘密結社コリントノヴァ。

 男所帯のここがわざわざ女性を攫って改造を施したらしいのだ。

 首領が凄く嫌そうな声で、なんかムカつくからついでにいろいろ破壊して来い。

 などと宣っていたが、女性として許せない何かがあるのだろう。


 F・Tは一先ず周囲に視線を走らせ、構造を頭に入れる。

 もしも万が一、敵と遭遇したとしても、この部屋の盾に使えそうなものを把握しておけば煙に巻ける可能性が高いからだ。

 もちろん、正体が暴かれればそいつは殺させて貰うわけだが。


「しかし、どうしたもんかね。まさかこいつら殺して終わりってわけにもいかないだろうし」


 破壊は無しの方向だ。むしろ壊すなら機材の方だろう。

 しかし、どれをどう壊せばいいのかわからない。

 下手に壊すと警報が鳴って敵が来る。そしてメインシステムは生きたまま脱出せざるを得ない状況になりかねないのだ。


 まずは機材を調べ、何処をどう的確に壊せばよいかを調べなければならない。

 F・Tはおもむろにカプセルの一つに近寄り、ガラスケースを調べる。

 ガラスケースはすぐに壊れそうなものでなく、強化ガラスらしい。

 しかしだ。改造人間であるF・Tには強化だろうがただのガラスでしかない。


 最悪の場合はカプセルを叩き壊して半改造状態の女性たちを解き放つしかないだろう。

 それができるとわかっただけでも十分だ。


「ん? このコードは?」


 天井付近にカプセルに繋がったコードを発見。

 赤いコードが一本、全てのカプセルを通っている。


「あはは。これ、アレだ。洗脳装置だ。見たことあるわ」


 F・Tは気分的にニヤリとほくそ笑んだ。

 顔は笑みなど全く分からない能面で、ひょっとこの顔を陥没するまで殴りつけたような形だが、本人は笑っているつもりなのだ。


 警報装置に触れないように、F・Tは洗脳装置と思われるコードを先端で千切り取る。


「ふっふっふっ。これで奴らの洗脳は不可能になったわけだ。次は……」


 新たな作業に向おうとしたF・Tだったが、不意に足音を聞きつけ闇に紛れた。

 カプセルとカプセルの合間の天井に潜み、開くドアに注視する。


「ふん。ようやくメドがたったか」


「はい。我が技術により改造人間の皆が楽しめるよう専用愛玩改造人間を作りだしましてございます。後はインプリンティングが済み次第使用可能となります」


 やってきたのは二人の男。一人は改造人間で、もう一人は初老の男だった。目にはモノクルを掛けている。


「ふむ。この雌は若いな」


「学生ですな。毒蝶をモチーフに改造いたしました。名はパピヨンでよいかと」


「いいな。気に入った。俺の玩具にしろ」


「ははっ」


 話を終えたらしい改造人間が部屋を出て行く。

 初老の男はおそらくドクターだろう。

 この部屋に残って機材を弄り始めた。


 だが、彼は知らない。

 彼らの企みは、すでに崩壊へひた走っていることを。


 頭上から、悪夢が迫る。

 機材を弄るのに夢中でドクターは気付かない。


 チクリ


 ドクターの頭に何かが触れた。

 なんだ? と不思議に思って見上げた彼の眼に、悪夢のような化け物が映る。

 醜悪な顔の生物。それが鞭毛を伸ばしてドクターの頭に触れている。


「な、なんだ貴様……ぁ? が……がぁぁぁッ!?」


 突如、ありえない激痛が全身に襲い掛かった。

 呼吸ができなくなり、慌てたドクターは喉をかきむしる。

 空気の変わりに這い上がった血が口から溢れ、泡となって気道を塞ぐ。


 何が起こったのか全く理解できない。

 必死に苦しさから逃れようと身体を動かす。

 その姿は、まるで死に行くために踊っているように見えた。


 ガラスケースに頭をぶつける。

 狂ったように繰り返す。

 ピシリと強化ガラスにひびが入った。


 声にならない悲鳴を上げる。

 すでに事切れる寸前でありながら、少しでも生きようと踊り狂うドクター。

 最後の命の灯を、頭突きでガラスケースを叩き割るという偉業に使いきった。

 生命活動を止めたドクターを覗き見て、F・Tは満足げに頷いた。


「おし、これでこの研究は打ち止めだな」


 何せ研究を行っていたドクターが死んだのだ。

 後はここを破壊すれば後を引き継ごうという奴も現れまい。

 ただ、問題は……


 サイレンが鳴り響く。

 ドクターが死に際にガラスケースを大破させた為に警報装置に引っかかったのだ。

 F・Tはとにかく機材に攻撃を開始した。


 できるだけ破壊する。

 敵がここに来るまであまり時間がない。

 大した力はないF・Tだが、全力を使い機材を破壊した。


「……ん? ここは……」


 破壊されたカプセルに入っていた女性が意識を取り戻したらしい。

 F・Tは慌てて身を隠す。


「生きたきゃ逃げろ。すぐに奴らが来るぞ」


「……え?」


 F・Tの言葉に女性は首を傾げる。

 まだ意識がはっきりとしていないらしい。

 しかし、敵は待ってはくれない。


 女が我を取り戻す前に複数の足音がやってくる。

 さすがに、F・Tは舌打ちせざるをえなかった。

 闇に紛れるように出入り口に向うと、天井に飛び上がって身を隠す。


 天井と壁を支えにしてやり過ごす作戦だが、これは改造人間としての腕力があって初めて成功する技だ。

 バランスの問題もあるのでそれ程長くは身を隠せないが、敵が部屋に侵入してくるくらいの間には十分に隠れられる。


 F・Tが身を隠すのに少し遅れ、出入り口が開く。

 三人の戦闘員を引き連れて、ジャガーだろうか? 改造人間が一人現れる。

 四人はF・Tには全く気付かず、カプセルから脱出していた女に目を奪われた。


「実験体が外に出ているだと?」

「ミーッ」


 ジャガー男の驚きに戦闘員たちが答える。

 戦闘員たちの声が子猫の鳴き声に似ていたせいで、F・Tは思わず吹き出しそうになった。

 笑いを押し殺し、音もなく彼らの背後に舞い降りる。

 さすがに着地の音は消すことができなかったが、誰かが気付く前に鞭毛を伸ばす。


「貴様、何者……ガァッ!?」


 気付いた時にはすでに毒が打ち込まれた後だった。

 驚きを浮かべていたジャガー男が急に青ざめ、脂汗塗れに悶えだす。


「な、何だこれは……貴様、まさか……【地獄の細胞】か!?」


「おい、女、俺は脱出するが、死にたくないならお前も勝手に脱出しろよ。そこまで責任は持たんからな」


 ようやく我を取り戻し始めたらしい女に一声かけ、F・Tは出入り口から脱出していった。

 ジャガー男たちが毒に苦しみ踊り出す。

 女はゴクリと喉をならし、決意を決めた。

 踊り狂う戦闘員たちの合間を抜けて出口に辿りつくと、廊下を確認しながら外へと脱出した。


 後に、女は別組織から脱出した者たちと力を合わせ、ある正義の組織を設立することになる。

 F・Tと呼ばれた改造人間がその後どうなったかは、また別の話である。

 

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