首領の思惑
「いやー、見事に壊れたな」
眼前に崩れた魔王城を眺め、首領はエルティアに呟いた。
王利により一刀両断された魔王は、咆哮と共にその命を終えた。
きっと、最後の一撃だったのだろう。
魔王は終末を迎えたその刹那、体内に残った魔力を全て外へと解き放ったのだ。
おそらく、勇者を道連れにとの魂胆だったのだろうとエルティアは推測するが、それがただの魔力の暴走によるものだということは、誰にもわからない事実だった。
魔王の魔力に当てられ、魔王城は一気に自壊し始めた。
幸いにもゴーレムの爆殺で空いた天井からは降ってくるものがなくなっていて、首領たちはすぐに退避して城が崩れ去るのを見送った。
やがて、崩壊が収まった頃、心配して集まっていたエルフ王率いる連合軍の元へと合流したのである。
「そうですね。でも、おかげで魔王を倒せました」
「なんか、一番頑張ったのあたしっぽくない?」
疲労困憊の葉奈が地べたに座ったまま声をかける。
地味な活躍ではあるが、ゴーレムである魔王を相手していたのは、王利よりも真由よりも、葉奈が一番長い時間攻防を繰り広げていたのだ。
彼女の活躍があったからこそ、王利が自爆装置を使う相談や作戦を行えたのである。
それを踏まえると、確かに葉奈の活躍は見逃せぬものだった。
「よく魔王を押しとどめたな、褒めおこう毒蝶女」
「別にアンタの為じゃないってば。それで、王利君は?」
「うむ。蜻蛉女と共に鮫男を探しに行ったぞ。逃げ遅れてないかの確認をしにな。無駄だと言うのにご苦労な事だ」
「よいのですか? 勇者様にとってもそれは……」
「よい。それよりもエルティア。魔王の脅威が去った今、この世界に付いて知りたい。説明を頼めるか?」
「ちょっと、結局この世界に留まる気じゃないッ」
首領の言葉に葉奈が反応する。
噛みつく葉奈に首領はため息を吐き、いやらしい笑みを浮かべる。
「なぁに、ただ戦力を補強するだけだ。元の世界に戻ってもバグソルジャーとの争いがなくなった訳ではないしな。魔物どもを支配し奴らに潰されぬ程度の力を付ける。戻るのはそれからだ」
所詮は悪かと葉奈は項垂れる。
ソレを見た首領は意地悪く笑って見せた。
「W・Bを縛る自爆装置がなくなってしまったからな。我が頼れるモノが何もない。少しくらいの身固めは許せ、どうせもうバグソルジャーに加担する気は無いだろう?」
「うぐっ。まぁ、あたしは王利君がいればいいから、引退視野に入れるべきかもしれないけど……まだしばらくはバグソルジャーでいるわ。インセクトワールド社が潰れてもあたしを改造人間にした場所はまだ健在だもの。あそこだけでも潰さなきゃ」
誓いを元に、葉奈が立ち上がる。
「それで、あんた、結局シャークをどうしたの? 絶対何かしたでしょ。エルティアの態度見てればすぐ分かるわよ」
「襲って来たので返り討ちにしただけだ。やってきたのは向こうだぞ? 問題あるか?」
「あっきれた。それを真由に黙ってる気だったのね」
「ふん。貴様が奴に言っても困らんぞ。同盟が切れれば危険に陥るのはW・Bだ」
「あんた、本当に悪ね。王利君が可哀想だわ。あんただけは絶対倒す」
葉奈の言葉に首領は笑う。
その表情からは、葉奈は絶対に自分を倒せない。いや、倒す事が出来ないという余裕が滲みでていた。
「やりたければいつでも構わんぞ。W・Bがお前の敵にならんことを祈れ」
「クッ。王利君がコイツの部下じゃなければ……」
悔しがる葉奈は、しかし怒るだけ無駄だと肩の力を抜く。
「どこへ行く?」
「王利君の場所。エルティアはコイツ見といてね、何するか分からないから絶対に何もさせないで」
「は、はい」
「いい、気を抜いちゃダメよ。この寄生虫は魔王より魔王みたいなもんだから」
念を押すようにエルティアに言い含め、葉奈は王利たちのいる魔王城跡へと脚を向けたのだった。