魔王爆殺計画・後篇
「肉体蘇生っ!」
少し遅れ兵士長の呪文が発動する。
すると、王利の体に空いた空洞が、不思議な力でふ塞がり始める。
「ほぅ、これが時を止める魔法か」
「持続効果は一分です。箱が消える前にお早くっ」
エルティアの言葉にバグリベルレが頷く。
回復した王利をひっつかむと、心臓を手渡し急浮上。
「ちょ、まだ変身して……」
「空中でさっさとやっちゃってください。時間ないんで端折ります」
死にかけた事に対する辛さや復活できた喜びを行う暇すら王利には与えられないらしい。
自分の身体に起こった変化に対応するより先に魔王の姿が近付き始める。
「そ、そんなっ……flexiоn!」
慌てて叫ぶ王利、高速で動き出した世界が光に包まれる。
変身が終る頃には、魔王の顔が目前へと迫っていた時だった。
有無を言わさず突撃するバグリベルレは、魔王に向かい王利を切り離す。
速度に乗った王利はバグリベルレから放されてからも速度を落とすことなく魔王に向かい突っ込んだ。
顔面にブチ当たり、魔王が呻く。
王利は爪を引っ立て魔王の鼻頭にしがみつく。
「やべぇ、もうちょい下だ」
「焦ってる場合じゃないわよ、援護するからがんばってダーリ……じゃなかった王利君ッ」
魔王への攻撃の合間を縫って、バグパピヨンが声を掛けてくる。
バグリベルレと協力してさらに攻撃を増やす彼女は、王利に魔王の手が向かないよう己を盾にするように動いていた。
王利を護ると気合いが入っているらしく、迫る魔王の掌を小さい身体で弾き飛ばしている。
泣き事言っていられる状況じゃない。
王利はゆっくりと魔王の顔を下りていく。
それは、ロッククライミングに似ていた。
いや、降りる方だから少し違うか?
魔王の掌が王利向って伸ばされてくるが、バグリベルレが、バグパピヨンが、その都度邪魔をして耐え凌ぐ。
ようやく口元に降りてきた王利。
後は口が開かれるのを待つだけだが、時間が無い。
「後何秒? 王利さん、早くッ」
「何か方法ないの、王利君ッ」
方法? 口を開かせる方法など一体何がある?
思わず魔王が口を開くような……
とりあえず爪でひっかく。しかし口を開く様子はない。
なんとか身体でこじ開けようとするも、バランスを取り辛く、大した力がはいらない。こういう時、自分の非力さを恨む王利だった。
「魔王ッ」
その声は、凛と、しかし威厳を持って響いた。
エルティアの魔法で拡大された声が謁見の間に響き渡る。
首領が腕を組み、仁王立ちして魔王を見上げていた。
そして、首領は厳かに告げる。
「貴様の力、殺すに惜しい。我の下僕となるならば世界の半分をくれてやろうではないかッ!」
瞬間、全員行動を止めて思わず聞き入っていた。
「それは我のセリフだぁッ」
魔王は思わず叫んでいた。
自らの、魔王としての名ゼリフを奪われたのだ。
叫ばずにいられるはずもなかった。
「喰らえ、魔王――――ッ」
王利は爆弾を魔王の口へと放り込む。
魔王にとっては余りにも小さなそれは、やすやす喉の奥に消えていく。
「やったッ」
「これで……」
完全な油断だった。
逃げようとした王利に魔王の張り手が襲う。
それはまるで頬に付いた蚊のように、余りにもあっけなく叩き潰された。
刹那。
魔王の内側から溢れだす光。
それは魔王ばかりかバグパピヨンたちすらも飲み込み膨れ上がる。
遠く、ローエングロック城まで爆音は響き渡った。