一進一退
王利は戦慄していた。
魔王は身体こそ巨大で重鈍ではあるものの、その耐久力はまさに魔王。
どれほどの攻撃を喰らおうと、まさに人間に抗う虫のよう。
ダメージらしいダメージも与えられず、ただただ疲弊していっていた。
「毒が大して効いてないなんてっ」
「相手が巨大過ぎて毒になってないんですよー。相手が大きすぎます」
「ああクソッ、鉤爪程度じゃ攻撃にならないっ」
多少、バグパピヨンの毒により動きが鈍い魔王だったが、毒はむしろ味方に負荷をかけていた。
一番影響を受けていたのはバグリベルレ。
鱗粉の中を飛び交う彼女は多量の毒を身体に受け、麻痺を起こしかけていた。
一応、風を操り鱗粉の殆どを魔王の鼻孔へ招き入れているバグパピヨンだったが、それでも息と共に吐き出される鱗粉や、風に乗らずに舞い散る鱗粉が、バグリベルレを戦闘不能に追い込むには十分と言えた。
「リベルレさん下がれよ。このままじゃ死ぬぞ」
「そ、そうは言っても……」
よろよろと空中を飛んでいたバグリベルレは、戦線を引いた王利の元へ着地する。
バグリベルレが退がると知った葉奈は自分に魔王の注意が行くよう、一人苛烈に攻め始める。
王利たちが戦線に戻るまでの時間稼ぎだった。
「俺と葉奈さんで何とかしてみる。エルフの治療を受けてくれ、戦闘はバグシャークや首領と替わって……」
そこでようやく王利が気付いた。
「首領たちが、居ない?」
「まさか兄さんが?」
「と、とにかくリベルレさんはエルティアのお供のとこへ、治療を受けなきゃどうにもならない」
「でも、あの巨大な奴相手にどうするんですかっ」
「それは……」
「あんなもの、私たちの中じゃ誰にも倒せませんよ、強力な破壊力を持つ技も武器もありませんし。基地に戻れれば対巨大獣用爆弾もありま……」
「それだッ」
バグリベルレの肩をがしりと掴み、王利が叫ぶ。
「な、なんですか急にっ」
「それだよ、爆弾。魔王を倒せる一撃がある!」
「ホントですかっ、それならすぐぅッ」
突然、バグリベルレの身体が震えだす。
「うあー、これ全身麻痺ですね、一刻の猶予もないようれふ」
ソレを聞いた王利は慌ててエルフたちの元へと向う。
バグリベルレの最後の声は、呂律が回らなくなり始めていた。
バグリベルレを兵士長に受け渡し、魔王の巨体に目を移す。
「後は……どう取り出すかだけか……」
やろうと思えば簡単だ。
己の心臓付近にある爆弾を取り出すのみ。
人間形態に戻り誰かに貫いてもらえばすぐに取り出せる。
ただし、命の危険は高確率だ。
葉奈は絶対に手伝ってはくれないだろう。
リベルレについても葉奈の怒りは買いたくないといいそうだ。
唯一やってくれそうなのはあの男。
しかし、正確な場所が分からなければ取り出すのも至難。
首領なくして王利の作戦は成功しそうになかった。
「こんな時にあの二人はどこに……」
「王利さん、私は平気ですから戦闘に戻ってください」
「それなんだけど、このままじゃ停滞だ。首領と君の兄さんの協力がいる」
「じゃあ、探してきて下さい。エルフさんたちの援護があればしばらく二人で戦えます」
「いいのか?」
「どうせこのままじゃジリ貧ですから。見て下さいよ、葉奈さんだけでも十分戦闘できてます。捌く程度は訳がありません。後は相手を倒せる威力だけなんです。期待しますよ」
わかった。と告げて王利は駆け出した。