首領 VS バグシャーク・前篇
「ふむ。魔王の城も案外良い。見ろこの巨大な神殿造りの部屋を」
歪ながらも荘厳な壁。時折脈打つように壁が動く。
光を取り入れるだろうと思われる四角い窓が20mくらいの高さに幾つも見受けられ、そこから差し込む光が薄気味悪い廊下を照らしていた。
柱は黒いながらも神殿に見られる神秘的な造りをしており、高い天井まで伸びている。所々にガーゴイルだろうか? 石像が柱を支えている状態のモノもある。
魔王城の廊下を無防備に歩きながら、首領は後ろに声を投げかけた。
「ふん。そんなモノに興味は無い。それよりも、いいのか?」
そこには境也。サバイバルナイフを両手に握り、すでに戦闘態勢を取っていた。
首領は立ち止まると、腕を組んで仁王立つ。
「そちらこそ、いきなり休戦を破るとはいささか正義の風上に置けぬ所業ではあるまいか?」
「元より俺は正義の味方になった覚えはねーンだよ。バグソルジャーなンてクソくだらねェごっこ遊びに付き合ってンのも妹がやりたいっつーからだ」
「その妹が締結した休戦協定だろう?」
「確かにな。でもパピヨンの奴を縛るにゃあの小僧がいりゃそれでいい。テメェは存在そのものが邪魔だ。放っておけば妹に危険が及ぶ。真由のために死ね、怪物女」
「首領より平怪人が御所望か。なんとも難儀よな」
腕組みを解き、首領は無防備に振り返る。
境也と対峙し、相手の武器を見たると、意外そうな顔をする。
「なんだ、変身はせんのか?」
「敵を乗っ取りゾンビ化だったな。シャークで喰っちまや簡単だが、あの岩蛙の二の舞いは踏みたくねェ。幸い、テメェはソレ以外無能そうなガキだしな」
このまま殺せる。
案に伝える様にナイフをちらつかせる。
「なるほど。だが、我も伊達に首領を気取っておるわけではないぞ?」
境也が駆ける。
無防備に佇む首領向け、横凪の斬撃。
が、すんでのところでかわされる。
舌打ちと共にさらに踏み込む境也。
振り切った身体をさらに捻り逆手のナイフを叩き込む。
首筋へと迫るナイフに、首領は真下から右手の掌底。
ナイフの間芯を捕え真上へ跳ね上げる。
さらに手首を捻り境也の腕に絡めると、二の腕を掴み思い切り回転する。
すると首領の身体に引っぱられるように境也の身体もまた、回転していた。
訳の分からないうちに境也は地面に激突していた。
「がぁッ!?」
「ククッ、たわけが。相手が雑魚と見誤ったな」
掴んだままの境也の手を捻り、背中に回す。
うつ伏せに倒された境也にとって、それは完全な動きの封殺だった。
自由な手でなんとか切りつけようとするが、ナイフの殺傷範囲に首領は入らない。
「クソッ」
「すまんな。人生が暇で拳法というものを研究していてな。体術はそこらの玄人の比ではないぞ?」
「どうした? ヤルならさっさとヤればいいだろが」
「ククッ、貴様を殺して何になる? いつでも殺せる虫を自棄に潰す趣味は無い」
「殺すッ」
虫と呼ばれたことが余程腹にすえたらしい。
強引に拘束を引きちぎろうとするが、暴れるほどに腕が軋みを上げていた。首領の細腕のどこに力があるのかと驚くが、相手も改造人間なのである。これぐらいで驚く意味がない事に気付く。
「ほれ、これ以上動けば腕が折れるぞ? どうする?」
完全に見下したもの言いに、境也は無意識にその言葉を口にしていた。
「Nepemeha!」
境也が光に包まれ変質を始める。
それを見た首領は不敵に微笑み跳び退る。
「やはり怪人、こう来なくてはな」