対決魔王
巨人。と揶揄されるそいつは、青い肌をもつ筋肉質の男性。
ただし腕は四本。
頭には鋭い角。
サングラスのレンズを貼り付けた様な黄金色に光る目。
口元から覗くのは八重歯だろうか? 牙となって口の両側からはみ出ていた。
そんな男が、巨大な玉座に座り、王利たちの到着を待っていた。
その姿はまさに圧巻。
その容姿はまさに異形。
身に付けているものは黒いマントとパンツと思われる下着のみ。
足にはブーツこそ履いているが、それ以外は一切身に付けていない。
「まさか四天王を破る者が現れようとはな」
厳かに、声が告げる。
一瞬、ただの銅像にすら思える巨大な男に、王利たちは思わず見入ってしまった。
「……え? 何コレ? どっかの仁王像が動いたとか?」
「いや、普通に考えて魔王だろ、こいつが」
「そうだ。我が魔王である。よくぞここに辿りついた、伝承の勇者よ」
「あのー、王利さん。ゲームとかしたことあります? ガチロープレ系の」
魔王を見上げたまま、真由が疲れた様な声で聞いてきた。
王利としても元々男の子である。
少しは体験したことがあるので、無難に返しておく。
「まぁ、それなりに」
「なんていうか、家族的なカセットゲーム機に今のシュチュエーションとかなかったですかね。余りにベタすぎて一生聞くことは無いかな的な名ゼリフみたいなもの……」
おそらく、真由の頭の中では次のセリフとして、我の下僕となるならば世界の半分をやろう。とか、我が倒れても第二第三のうんぬん。と言った魔王セリフ集が展開されていることだろう。
呆れかえる王利たちを他所に、魔王はおもむろに立ち上がると、足を振り上げ、王利目掛け降り降ろしていた。
「あ、やばッ、Nepemeha!」
いち早く我に返った真由が変身する。
遅れて王利が背負っていた葉奈を境也に向かい突き飛ばした。
「お、王利君ッ!?」
最後に我に返った葉奈が驚きの声を上げる中、逃げ遅れた王利が魔王の足に踏み潰された。
「い、嫌ぁぁぁ――――――――ッ!?」
「ああ、もう、葉奈さんうるさいッ、あの人頑丈が取り柄なんですから放っといても生きてますよッ」
変身を終えたバグリベルレが滑空しながら葉奈の横へと着陸した。
「兄さん、やりますよ!」
「……いや待て、お前はパピヨンと上から戦え。俺はあの堅物と下を攻める。四方から波状に攻めた方が相手も反応しにくい」
「了解、行きますよバグパピヨン」
「そうね。王利君を足蹴にするなんて……許せないわ」
王利を足蹴にした魔王への怒りと、それに反応出来なかった自分の不甲斐なさに、葉奈の堪忍袋の緒は完全に切れていた。
「ああもう、思考まで完全に王利さん優先なんですね」
「こいつはもう戻ってきそうにないなリベルレ」
「まぁ、仕様だから仕方ないですけど、少し残念です。とりあえず、気を取り直してまずは魔王退治ですよッ」
音もなく飛び上がったバグリベルレ。
魔王に巻きつくように飛翔して脛に一撃、渾身のストレートを見舞った。
しかし、魔王の身体が巨大過ぎて大したダメージになっていない。
入口の扉の大きさは、どうやら魔王用に拡張されたものだったのだと嫌でも気付かされる。
「wechsel!」
少し遅れ飛び上がったバグパピヨンは、まさに蝶のようにひらひらと、魔王の腕を掻い潜り顔前へと向って行く。
鼻頭に蹴りを放つとそのまま駆け上がるように頭上に向かい、突き出た角を死角に魔王の両腕の攻撃を避ける。
ひらりと浮かび、急降下で脳天目掛け蹴りを叩きつける。
さらに、踏まれたままだった王利が魔王の足を持ちあげ、バランスを崩した魔王の膝裏目掛けバグリベルレが特攻した。
片膝を崩された魔王が後ろへと倒れる。
轟音響かせ、壁を破壊し、盛大な転倒を見せた魔王に、三人はさらに追い打ちをかけていく。
「行かぬのか?」
少し離れた場所で。
腕組みをしたままの首領は、隣に立つ境也に問いかけた。
しかし境也は答えない。
「なるほど、貴様はあくまでそのつもりか」
言って、首領は一人その場を離れる。
それを追うように消える境也。
二人が居なくなったことに、気付いた者はいなかった。
ただ一人を除いては……