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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
首領 → 全面戦争
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現れる魔王

「で、結局何がしたかったのだ貴様らは」


 魔王城への道中で、首領はバグソルジャーの二人を相手に余裕な態度を取っていた。

 一応、護衛として王利も横にいるが、葉奈が背中に抱きついているので咄嗟の攻撃があった場合、反応できるかは微妙。


「休戦の申し入れなのです」


 くるんと指先を回して首領を指す真由。

 その顔には不敵な態度が浮かんでいた。


「休戦? 貴様らの方からとは珍しいな」


「俺もそんなことは聞いてないし受け入れられねぇぞ真由」


「あーはいはい。兄さんは今、黙ってて。話ややこしくなるから」


 と、一度言葉を切って、向う先を指さす。


「聞けば魔王とか言うのを倒しに向う途中じゃないですかー。これって正義な行いですよね」


「別にそういう気はないがな。エルフ族には何かと世話になっておる。礼くらいはしてもよかろう?」


「悪の秘密結社であるインセクトワールド社はバグソルジャーが壊滅させちゃいましたんで、あなた達が戻っても会社は無いんですよ。一から興すにもその人数でできますか?」


「何年と掛かるだろうな。それこそ他の会社に潰されかねんよ」


「そういうわけで、あなた方を今倒す必要は無いのです。もちろん悪であるあなたたちに遠慮する必要はないですが、目の前にもっと巨悪がいらっしゃると言うならば、そしてそれを倒すために行動しているというならば。昨日の敵は今日の友。正義の王道なのですよぉ」


「お前……テレビの見過ぎだぞ真由」


「えー。だってだって、ほら、敵の幹部との許されぬ愛、新たな敵に一致団結しだす敵対者、もう涎モノの戦隊ヒーローじゃないですかっ。日本のテレビサイコーですよ。バグソルジャーやってるのだって半分はテレビの影響なんだから。ほら、ラブレンジャーだって言ってるじゃないですか。俺たちはただ、愛の為に命を掛けるだけだ。って」


 ふふん。と胸を張る真由。

 彼女は現実のヒーローも、テレビの中のヒーローも一緒らしい。


「首領さんも行く宛て無いんならいっそのこと正義の道目指しましょうよ。そうすれば争う必要ないですし」


「ふむ……悪の首領が正義のヒーローか……どう思うW・B」


「首領はふんぞり返ってるくらいがちょうどいいと思いますけどね」


 素直な感想を述べた。

 第一、目が芋虫の正義の少女なんて余りに残酷だ。

 特技は相手をゾンビ化して乗っ取り殺す。

 間違っても子供の憧れにはなり得ない。

 泣かれるのがオチである。


「うーむ。それもそうだな。人に尽くすよりは尽くされたいしな」


「真由、交渉するだけ無駄だ。相手は悪の首領だぞ?」


「でもさー、こいつと敵対しちゃうと王利さんも敵になるでしょ? そうすると発情モードな葉奈さんも一緒に敵に回っちゃうわけですよ。私としては葉奈さん殺すなんてしたくないしー。ねー王利さん。刹那な恋に生きるより、葉奈さんともっと幸せに暮らしたいでしょ?」


「そりゃまぁ、この歳で死ぬのは嫌だしな……」


「ふむ……まぁしばらくは行動を起こせんしな。W・B、しばらく猶予期間ということでこ奴らと行動するのは悪くないぞ。こちらはカードを握っているしな」


 と、首領が見つめるのは葉奈。

 すでに王利に骨抜きといった様子で、猫が甘えているような状態だった。


「あれはもう……葉奈さんと言える物体ではありませんねぇ。告白で一気にタガ外れちゃってますよ」


「同感だな。人間、ああまで惚れ込みたくはないものだ」


 真由の呟きに首領が同意する。

 葉奈は周りの目など気にする気はなく、今まで抑えに抑えた欲望を発散するかのように、王利の背中で頬ずりしている。王利が戸惑っているのも構わず、とても幸せそうだ。

 その様子を見て、境也は一人、舌打ちするのだった。




 魔王城はエルフの城よりも巨大で壮麗な建設物だった。

 外見は禍々しい黒い材質の壁。入口の門は赤い鉄扉だった。

 扉の大きさは20mはあるかと思われる高さ。そこから察するに鉄門の重さや厚さも相当あるだろうと予測できた。


 外壁を抜けた先に堀が張り巡らされ、桟橋一つが魔王城へと繋がっているのみ。

 城下町といったモノは存在せず、目に見えるものといえば堀の中に張り巡らされた青紫色の怪しげな液体。絶えず弾けて消える泡の中から時折異様な姿の魚が顔を出していた。


「ふむ。これは団体には適さんな。10人くらいで行くのがちょうどいいか。なぁ勇者」


 首領が意地悪そうに王利に視線を送る。

 王利は周りを見回し、付いてきた数百人規模のエルフ軍が全て王利に注目している事実を知った。


 まるでお前一人が行って魔王を倒して来い。とでも言っているようだ。

 思わず王利はエルフ軍を見回す。

 見渡す限りかなりの数が見える。

 それでも、元の数からすればまだ少ない。


 エルフ王もこの場にはおらず城周辺で陣頭指揮をとっていた。

 エルフ軍は途中、他の種族軍と合流し、魔物たちの討伐を始めていた。

 混成軍となった軍隊相手に司令塔を失った魔物たちは成す術なく討たれていき、残党狩りといった様相を浮かべ始めたため、各種族の族長が張り切って魔物たちを追いつめているのである。


「勇者様、私も未だ未熟ですが、魔王討伐に同行したく思います」


 ロクロムィスとエスカンダリオを討ち取ったのは首領ではあるが、エルフたちから見た功労者は、結局王利だった。

 突っ込んできたロクロムィスを華麗にかわした王利が、同志討ちでエスカンダリオを倒し、ロクロムィスを見知らぬ技で大地に封印した。

 そんなふうに捉えられてしまっていた。


 そもそもの間違いが英雄伝承による先入観から四天王は勇者に滅ぼされると思われているために起こった哀しい誤解である。

 しかしながら、首領は自身の功労を主張することなく、むしろ楽しそうに王利の功績としてなすりつけた。


 このため王利はエルフたちから完全に勇者と見られ、エルティアなどはもう、呼び名までが勇者様に固定されている。

 視線も潤み、羨望という名の無垢な視線が王利を突き刺してくるほどだ。

 黒き御使いとされる葉奈が王利にべったり。というのも崇拝に拍車を掛けてしまっていた。


 結局、魔王討伐に向ったのは、王利たち五人にエルティアと、彼女の護衛として三人の兵士。その中にはあの兵士長が含まれてることに、王利は遅まきながら気付いた。


 長い廊下を歩く一団は緊張で口数も少なく、周囲を見回しながらゆっくりと進んでいくことになる。

 それもしばらく続けば緊張が解けて暇する者が出てくるようで、


「いやー、モテモテですね王利さん」


「バグリベルレだっけ。休戦も驚いたけど悪の組織の住人に随分親しいじゃないか」


「悪は裁きますよ? でも私ほら、戦隊ヒーローが大好きなんで敵が仲間に加わるとかのシュチュエーション、バッチコイなんですよ。だから敵だったとしても手を取り合ったら殺す必要無いかなって思ってます。でも、また敵になったら殺しますけどね」


 裏切り者は銃殺刑です。と無邪気に笑う真由。

 その姿は愛らしくありながら、冷酷な殺戮者の様でもあった。


「と、ところで……」


 さすがに恐かったので話題を変える。

 同じ改造人間であるが、肝っ玉は小さい王利だった。


「葉奈さんはどうしてこんな状態に?」


「今まで我慢してた分揺り返しが凄かったんですよ。もぅ、見てるこっちが憐れに思えてくるのでさっさと子供仕込んであげてください。そうすりゃしばらく大人しくなりますよきっと」


「ちょ、さすがにそんなこと無理矢理は……」


「どう見ても無理矢理じゃありませんでしょ。見て下さいよあの蕩け切った顔。ムカつくくらいに幸せそうですよ」


 言われて背後の葉奈を見る王利。

 とてもテレビでは見せれない表情だった。


「モザイクでも隠せそうにないですね、もはや歩く猥褻物ですよ」


「さすがにそれは言い過ぎだ」


「おい、そろそろ無駄話は止めておけ」


 不意にかかった首領の声に、王利も真由も立ち止まる。

 なぜそろそろなのかと不思議そうに首領を見ると、視線を頭上へと向けて見せた。

 二人が倣うように見上げて見たモノは……

 巨大な、それはもう巨大な、男だった。

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