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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
首領 → 全面戦争
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黒き毒蝶の恋愛事情・自己完結編

 進軍するエルフ軍に紛れ込み、二人の少女が首領と王利のやり取りを見つめていた。

 彼女たちの表情は、首領の能力を見せつけられて若干顔が青い。


 王利たちはすでに進軍するエルフたちに紛れて歩き出しているため、気付かれない様追跡するのは大変だった。

 見せつけられた実力に立ち止まって呆然としそうになる気力を振い立たせ、葉奈と真由は王利たちに近づいていく。


「ちょ、ちょっと見ました葉奈さん。インセクトワールドの首領、めっちゃ凶悪じゃないですか」


「わ、私だって初めて見たわよ」


「あれ、反則ですよ? 他人を乗っ取るとかあり得ませんよ?」


「倒せると思う?」


「まず、お兄ちゃんに任せたら大変なことになると思うな」


「ええ。バグシャークにやらせる訳には……って、そういえばシャークどこいるの?」


「えーとですね……あ、あそこです」


 エルフたちに紛れるように歩く兄の姿を見つけ、真由は葉奈に分かるよう指さした。

 境也は抜き足差し足、王利たちの背後へと近づいている。

 

「ねぇ、かなり近くない?」


「ずいぶんと射程距離内かなぁ~……」


 すでに境也は王利と首領の背後に迫っており、手にはサバイバルナイフが逆手で握られていた。

 さすがに二人は冷や汗混じりに足を速める。

 今、彼らが敵対してしまえば真由の提案する王利たちとの停戦など夢の藻屑となりかねない。


 そして、葉奈はまた違った理由で足を速めていた。

 王利に危険が迫っている。

 王利が危ない。

(あたしの大切な……ご主人様が!)

 

「王利君ッ」


「あ、ちょっ、葉奈さーんッ」


 王利に向い近づく境也を見た瞬間、葉奈は迷うことなく走っていた。


「だめぇ――――ッ」


 王利と境也の間に入るように、自分の体を目一杯広げて飛ぶ。

 驚く境也、振り向くクマムシ怪人。

 境也の持っていたナイフは王利、ではなく首領向って延びていて、その軌道に向い葉奈が跳び込む形になった。


 よって葉奈の心臓へと向い来る鋭いナイフ。

 あれ? 何か違う?

 そんな違和感を葉奈が思った瞬間。


「すらっしゅくぃ――――ッく」


 遅れて跳んだ真由の蹴りによって境也のナイフが飛ばされていた。

 蜻蛉の改造人間であった真由だからこそ、速度に関しては先に跳び出した葉奈よりも速く、葉奈の身体にナイフが突き立つ直前で、割り込むことに成功したのだった。


 痛みに手を押さえる境也。

 着地と同時にナイフを空中キャッチする真由。

 勢い余ってヘッドスライディングを決め込みそうになる葉奈を王利が抱き止め、その一部始終を見て首領がニタリと笑う。

 そんな行動が一瞬で起きていた。


「わちゃ~。潜入失敗ですよ葉奈さ……」


 真由が振り向いた先で見たモノは――

 奇怪な怪人に抱きとめられ、恋する瞳でその怪人に見惚れる葉奈の姿だった。

 なぜだろう。そのとき、真由は葉奈の瞳がハートマークになっているのを幻視していた。

 だから思った。あ、コレ絶対ダメなパターンだって。


「真由ッ、テメェ何邪魔しやがる」


「兄さん、セコ過ぎです。正義の味方が暗殺とか止めてよねっ。っていうかちょっと黙ってて」


 妹に怒られ、気勢を削がれた境也。

 戸惑いを浮かべたまま押し黙る。


「葉奈さん、何処行ってたんだよ」


 王利の声。

 待ち望んでいたその声に、葉奈の身体は全身が熱くなるのを感じる。

 身体の中心から湧き起こる例えようもない感情。

 彼を形作るクチクラから伝わる冷たい感触も、抱きとめられているという現実も、その全てが幸福という一つのものへ昇華されていく。


「葉奈さん?」


 もはや、止まれるはずがなかった。

 止まるはずもなかった。

 止められるわけがなかった。


 王利への恋が偽物だとしても、自分の感情が植え付けられたものだとしても、自分にはもう、王利と共に生きる未来以外考えられないのだ。

 彼がいない世界など、死んだ世界など考えたくもない。


 ならばどうするか?

 簡単だ。王利だけのモノになってしまえばいい。

 その結論に達した瞬間、身体は自然と動いていた。


「……好き」


 言うが早いか、身を乗り出す葉奈。

 その唇は驚き浮かべる怪人の口を塞いでいた。

 余りの出来事に境也は完全に我を忘れて見入っていた。

 真由はあー、もうダメだアレ。といった風に頭を抱えている。


「あたし、やっぱり王利君が好き。偽りの気持ちとかでも、実際の気持ちじゃなかったとしても……好きッ」


 ひっしとしがみ付く葉奈。

 対する王利は公衆の面前でのキスと、周囲からの視線で完全に混乱していた。


「好きじゃなくてもいいから。傍に置いてくれるだけでいいからっ。だから……あたしを王利君だけのものにしてっ」


 それはもう、完全に告白でしかなかった。

 いや、それを通り越し服従とすら取れる宣言だった。

 聞いていた周囲の兵士たちが囃したてる。

 首領が楽しそうに笑うのを見て、王利はもはや自分がなぜそこにいるのかすら分からなくなっていた。


「はぁー、本当に世話焼けますねぇ。ほら怪人さん、葉奈さんの気持ち受け取るんですかー、それとも手酷く振りほどいちゃうんですかー」


「え? え? いや……え?」


「王利……君?」


 見上げてくる葉奈は瞳を潤ませ答えを待っていた。

 ついでに周囲の野次馬も王利の只一言を待っている。


「え……と、まぁ、うん。葉奈さん、これからも……よろしく?」


 やや戸惑い気味に答える王利。

 余りの気の利かなさに、代表した首領が頭を叩いた。

 痛っと条件反射で応える王利を万来の喝采が包み込む。

 それはまさに、大団円のようだった。

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