暗躍する者3
村井機工株式会社首領、村井は呆然とその化け物を見上げていた。
大空を舞う巨大な火の鳥。
大多数の怪人が出払った秘密結社に突如現れたバケモノ。
その化け物が引き連れて来たのは、自分たちの技術では及びもしない完全なるヒューマノイド。
素晴らしい。感動と共に嫉妬を覚える。
どこの秘密結社が作った機械だ?
だがそれよりも……突如秘密結社の破壊を始めた機械兵たちを相手に、村井は咄嗟に重要機密を自身にダウンロードし始めた。
ダウンロードが終わった機密から破棄していく。
「首領、第二層突破されました。第三層半壊!」
「ええい、侵攻が早い。ダウンロードに時間がかかる、もう少し何とか持たせろ」
「怪人を向かわせましたが向こうの連携が上です。このままでは……第三層突破されました!?」
「クソッ」
悪態を吐く彼に、更なる凶報が齎される。
「上空の火の鳥、動きだしました!」
「来たか!?」
「屋上のヘリポート消失!? 第十三階から十階までが共に消失。九階の天井部が溶けてます!」
上から下から大賑わいだな。と感心した顔をする村井。
彼はふと、別のカメラがとらえたモノを見た。
兵士たちの一部が偽の本社であるビルとは別の場所。つまり村井が隠れている工場跡へと足を踏み入れようとしている。
「イカン、気付かれたか!」
「首領、本社崩壊、残る怪人と戦闘員はここに居るメンバーのみです!」
「パステルクラッシャーより入電。向こうも襲撃を受けているそうです。援軍をと……」
「そんなものが出せるか! 全員本拠地放棄だ。重要機密の破壊、持てる物は持ってでろ。急げ、時間との戦いだ!」
この日、村井機工株式会社は事実上、崩壊することとなった。
首領以下生き残ったはずの怪人達がどうなったのかは、誰も知らない。
ただ、本拠地である廃工場に、巨大な炎の塊が衝突し、トリルトトスだった炎の鳥の高笑いが高らかに響き渡った。それだけが人々の心に刻まれたのだった。
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ノーネイムにも、奴らはやって来ていた。
慌てふためくノーネイムの住人達。
異世界人であり小人な彼らは機械兵の襲撃に合わせ、残っていた機体に乗り込み必死な抵抗を行っていた。
おそらく、全ての秘密結社の中で一番激闘した秘密結社であろう。
その分被害も格段であり、さらに……
ロクロムィスを操るレウコクロリディウム、リディはノーネイム本拠地を急襲していた。
小型の人間のような生物を地面に埋め窒息させ、焦るノーネイム人たちを蹂躙していく。
山田太郎はそんなバケモノ相手に対峙していた。
「ラナリアか……また随分と大胆な行動だな」
「ラナは知らんよ。私の独断だ。丁度良い状況だったのでこの気に秘密結社を幾つか潰しておこうと思ってな。多過ぎるのだよ我々は。互いに睨みあいが続きすぎて世界征服など夢にしかならなくなっている。悪なら全てを敵に回して世界を牛耳れるはずだろう?」
「成る程、一理ある。だがそれを理由に我が民が滅びるのを見るのは忍びない。ゆえに、貴様を潰すぞレウコクロリディウム!」
「たかが人を乗りまわした程度で悦に入るなよ小悪党ッ」
リディ操るロクロムィスに突っ込む山田太郎。
しかし、蹴りつける寸前。彼の足元に土がせり上がる。
なんだ? と思って真下を見ると、土で出来た腕が彼の足を掴んでいた。
「これはっ!?」
「この程度で死ぬなよ童!」
ロクロムィスの腕が地面から離れ振り上げられる。
握られたままの山田太郎も一緒に空へと浮き上がり、上下を入れ替えられると、思い切り地面に振り下ろされる。
何かが潰れる音が響いた。
しかし、ロクロムィスが怪訝に唸る。
潰れたのは山田太郎の足一つ。
山田太郎は自らの足を引きちぎると自分の心臓に手を突っ込み、血塗れの何かを取りだした。
「クタバレ、レウコクロリディウム!」
ロクロムィスの口へと放り込まれる物体、それは山田太郎に搭載された自爆システムであった。
リディは自身の記憶にあった似たような出来事を思い出し、あの時はW・Bが魔王に使った手だったなと懐かしく思いながら寄生中の場所を土で塞ぐ。
刹那、ロクロムィスの体内で一度の爆発が起こった。
さすがのロクロムィスも耐えきれなかったらしく、盛大な爆炎と共に真上に風穴を開け地面へと沈んでいく。
心臓を抑えつつロクロムィスが地面に消えていくのを見届けて、山田太郎はふっと息を吐きだした。
「慢心したかレウコクロリディウム。今回は痛み分けといったところだな……」
「そうでもないぞ?」
「!?」
倒したはず。しかしレウコクロリディウムの声が確かに聞こえた。
「ふふ。残念だよ山田太郎君。君は人間を人型搭乗兵器に改造するなどぶっ飛んだ思考を持っていて興味深くはあったのだ。しかし、その程度のことは子飼いのドクターたちでも出来るのでね。君は、いらない」
山田太郎の真下から、巨大な口が出現した。
恐怖からか何からか? 絶叫の雄たけびを叫んだ山田太郎。
次の瞬間、彼は地面からせり出した巨大な土で出来た口に飲まれ、その姿を消したのだった。




